メタマテリアルをデザインする3Dレーザ加工技術
理化学研究所(理研)田中メタマテリアル研究室准主任研究員、田中拓男氏の研究チームは、金属の3次元(3D) ナノ構造で屈折率をコントロールする、メタマテリアルの研究を進めている。メタマテリアルを実現には、ナノメートルスケールのレーザ3D加工技術が必要になる。
屈折率は、真空中の光速を媒質中の光速(位相速度)で除した値として表される(n=c/v) 。この式は、材質の誘電率(c)、透磁率(μ)を使って書き換えることができる。xを真空中のxで除した式だ。これは記述上の話であって、現実的な処理は、田中氏によると、=1.0であるため、屈折率は単にn=でよいことになっている。言い換えると、透磁率は、真空でもガラスでも、どこでも磁場と相互作用しない。これは、屈折率の設計自由度が誘電率(Σ)にしかないことを意味する。田中氏の研究グループは、=1.0を変えることによって、屈折率設計にもう一つの自由度を獲得したい、と考えた。
物質中の電子のスピンが磁性、磁石の性質を決めているが、もちろんこれを人工的に制御することはできない。したがって、物質に人工的に磁性を与えるには別の方法が必要になる。それがメタマテリアルだ。
メタマテリアル
磁性を持たない材料、銅をコイル状に巻いて電流を流せば電磁石になる。材料そのものには磁性はないが、構造的に磁性を持つ。コイルを変動する磁場に置くと、電流が流れる。電池がなくても電流が流れるコイル状の構造体があれば、その形状が磁場と相互作用する。
これは電磁誘導の話だが、この原理を光の電磁場に対しても反応するようなものとして、例えばガラスに作り込む。「そこに光の磁場があると、その構造体が光の磁場に反応する材料として振る舞うようになる。形状設計次第で、=1.0 だったものを1.2にしたり、2.0にしたり、あるいは逆に0.8にしたりする。形状を設計することで所望の値を実現できる。これをメタマテリアルと言い、それを作ろうとしている」(田中氏)。
光の高い周波数に反応するには、電流が流れる円環状の形状でギャップを持つリングであればよいが、それをホスト材料の中に無数に埋め込むことになる。メタマテリアルの要件を田中氏は三つ挙げている。「金属」「ナノスケール」「3D構造」の三つだ。
「ナノスケールには、最適値がある。光の波長の1/4以上になると、光にとってその存在が見えるため、大きさ的には光の波長の1/10以下。形状では、ギャップの間隔、リングの径でキャパシタンス、インダクタンスが決まる。インダクタンス、キャパシタンスの値で共鳴する周波数が決まる。また、どんな波長の光に対して反応するような材料にしたいかと言うことでも、例えば赤に対してか、青に対して反応する材料とするかで、必然的に大きさは決まる。形の自由度はあるが、大雑把には、光の1/10~1/20程度のサイズが相応しい。」このナノマテリアルを実現するために、新開発のレーザ加工技術を利用する。
3Dレーザ加工で2光子還元
理研の研究チームが作ろうとしているメタマテリアルは、リングにスリットが入った3Dの構造体(SRR:Split-Ring Resonator) が3次元的にアレイ状に並んでいるものだ。既存の微細加工技術、光リソグラフィ、電子ビーム(EB) リソグラフィ、ナノインプリントなどは、2D 加工しかできないため、3D微小金属構造体の加工に適用できない。理研は、2光子吸収現象を利用して金属イオンを還元(金属化)する技術を新たに開発した。
ここで使用する金属イオンは伝導性のよい金、銀のイオン。これらのイオンは紫外光で還元されて金属化するが、2光子還元法では紫外光の約半分の波長の赤外光を使う。単に赤外光をイオンに照射しても金属化は起こらない。フェムト秒レーザを用いて光子密度を高め、赤外光の2倍のエネルギー、紫外光のエネルギーに相当する2光子吸収を起こさせ、イオンを金属化する(図1)。現在、使用しているレーザは市販のTi:サファイアレーザ。パルス幅は80fs。出力は、対物レンズ前で1mW。田中氏によると、最初に論文を発表した当時は金属イオンに直接レーザを照射していたため、200mWが必要だったが、増感色素を人れて光の利用効率を向上させ、1mWが閾値になった。ガルバノミラーとピエゾ制御で3Dスキャンし、任意の形状の金属を作製することができる(1) 、(2) 。
ここまでの段階では、メタマテリアルの三つの要件のうち、「金属」と「3次元」とを満たしたにとどまっている。もう一つの「ナノスケール」が達成できていない。
(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2009/08/200908_ft05.pdf