eモビリティを支えるレーザ

クラウス・クライン
ファルク・ナーゲル

調整可能なリングモードを搭載するファイバレーザによる銅溶接。

本稿では、Adjustable Ring Mode(ARM)技術を搭載し、高輝度のセンタービームを有する新しい種類のファイバレーザによる銅溶接試験で得られた、優れた結果を紹介する。この実験において、ARMを搭載する高輝度レーザは、卓越した溶接品質に加えて、さまざまな溶接速度において商用提供されているキロワットレベルのグリーンレーザよりも深い溶け込み深さを達成した。この結果は、この技術によってファイバレーザのコスト、信頼性、実用上のメリットのすべてが、銅溶接という要件の厳しい処理に適用できる可能性を示している。

eモビリティ製造

eモビリティ製造の急速な成長が、銅溶接ソリューションに対する需要の大幅な高まりを促進する、主要要因となっている。銅溶接の需要が高まっているのは、銅が他の金属と比べて、多くの望ましい電気的性質、熱特性、機械的性質、コスト上のメリットを備えるためである。 
しかし、高い導電率と熱伝導率という、eモビリティに対して理想的な銅の性質は、従来のファイバレーザによる銅溶接を困難にする要因でもある。具体的に説明すると、銅はその電気的性質に基づき、ファイバレーザの近赤外波長に対して高い反射率を示す。また、その優れた熱伝導率により、材料を溶融して溶接処理を開始するために、大量のレーザエネルギーを入力することが必要になる。 
その結果、従来のファイバレーザで銅を溶接するには通常、最初に材料を溶融するための非常に高い出力密度が必要になる。しかし、この「力任せな」やり方では、溶接処理は不安定になり、加工面の些細なばらつきに対して非常に過敏になってしまう。特に、局所的に表面が酸化していたり、表面構造が少し不均質であったりすると、プロセスが不安定になる可能性がある。それによって最終的に、溶接部の一貫性や表面品質が低下したり、ポロシティが生じたりする恐れがある。

固体グリーンレーザ

銅は、緑色域の吸収率が近赤外域よりも1ケタ近く高い。そのため、その波長で溶接処理を開始するほうが容易で、ファイバレーザよりも外因に影響されにくい安定した加工が行えると考えられている。その結果、高出力の固体グリーンレーザが、いくつかのメーカーによって活用されており、多くのメーカーによって評価されている状態にある。 
しかし、高出力のグリーンレーザのeモビリティ製造への導入には、いくつかの重大な実用上の問題が伴う。まず、赤外(IR)固体レーザ出力を緑色に変換するために用いられる周波数2倍化プロセスは効率が低く、数キロワットの出力レベルでかなりの量の廃熱が生成される。これにより、水冷ヒートシンクや大量の冷却水が必要になる。また、電力消費によって、運用コストも比較的高くなってしまう。 
緑色光のビームデリバリにも、いくつかの問題が伴う。特に、ビームデリバリに用いられる標準的な光ファイバは、緑色光によってIRよりも簡単に暗くなるため、耐用年数が短くなる。緑色光用の特殊ファイバは、この問題を克服できるが、標準的なものよりもコストが高く、入手もしにくい。この暗くなる現象は、ファイバが長くなると増大する。そのため、現時点でファイバ長は10m までに制限されており、それによって製造環境におけるファイバ配置の柔軟性が低下する。

HighLight ARMファイバレーザ

ファイバレーザは固体グリーンレーザよりも電気効率がはるかに高いため、消費電力が低く、生成される廃熱も少ない。従って、所有コストは低くなり、冷却も簡素化される。また、ファイバレーザは信頼性が非常に高く、そのIR出力は簡単にファイバ伝送可能である。このように、コスト、信頼性、実用上のメリットを他にはない形で併せ持つことから、ファイバレーザは多くの産業用途において選択されている。しかし、こうした望ましい性質を持つにもかかわらず、上述の問題が原因で、特に銅溶接には広く利用されていない。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/10/020-022_tr_e-mobility.pdf