インドにおける産業用レーザ市場

アナント・デシュパンデ

産業用レーザ市場にとって2020年は、新型コロナウイルスのパンデミックに試された年だった。

インドのレーザ市場を最後に取り上げたのは、1年以上前のことである(http://bit.ly/IndiaLaserMarket)。インドのレーザ業界は当時、19%の年平均成長率(Compound Annual Grow th Rate:CAGR)で、2020年には10億ユーロ規模に達すると予想されていた**。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによって、レーザ市場全体が世界的に落ち込む中、インドも同じ状況に陥った。それは、2020年度上半期(2020年4〜9月)の売上高に影響を及ぼしたが、その後市場が再開し、下半期(2020年10月〜2021年3月)には驚異的な成長が見られた。インド市場は新型コロナウイルス(COVID­19)後に、それほど急速に回復するとは予想されていなかったが、インフラや自動車などの業界が、回復を後押しした。
 インドの製造業国内総生産(GrossDo mestic Product:GDP)の49%、インド全体のGDPの7.1%を占める自動車業界は、1年以上にわたって低迷が続いていたが、ロックダウン規制が解除された後、V字回復を見せた。インド・ブランド・エクイティ基金(IndiaBra nd Equity Foundation:IBEF)のデータによると、インド自動車業界(部品製造を含む)は、2026年までに2514〜2828億米ドル規模に達する見込みで、同国の成長に引き続き大きく貢献することになるという。パンデミックを受けて、個人用の安全な移動手段が求められるようになり、新車購入者が増加しているため、新車に対する需要は安定的に高い状態となっている。2021〜2022年にこの業界は、2019年を上回る売上高を上げて、成長を遂げるにちがいない。
 独トルンプ社のインド法人であるTrumpf(India)Pvt Ltdのセールスディレクターを務めるヒダヤス・モハメッド 氏(Hidayath Mohammed)は、 次のように述べている。「自動車業界の成長は、レーザ切断とレーザ溶接の主要な推進力となっている。自動車の安全性を求める声が高まり、それが、自動車製造に用いられる熱間成形部品に対する需要につながっているためだ。これは熱間成形部品のレーザ切断に大きな機会をもたらしており、それがレーザ業界の主要な変化である。また、eモビリティの勢いが加速しつつあり、電気自動車(EV)製造がインド国内において積極的な計画の下で進められている。この分野は重要で、レーザとさまざまなレーザ加工におけるその成長に大きく貢献することになる」。
インドにおける産業用レーザ市場

さまざまなレーザ用途

装置の販売台数が最も多かったのはレーザマーキングだが、売上高に最も大きく寄与したのはレーザ切断だった。レーザ切断はインドにおいて、やはり最大のレーザ市場であり、少なくともあと数年は、成長を続けるとみられる。その主な要因は、レーザ装置価格の低下と、一部の産業(特にインフラと自動車)に対する政府の推進策である。装置の大多数は中国から輸入さ2 Industrial Laser Solutions Japan October 2021アナント・デシュパンデ産業用レーザ市場にとって2020年は、新型コロナウイルスのパンデミックに試された年だった。インドにおける産業用レーザ市場れている。Laser Technology Pvt Ltd(LTPL)のディレクターを務めるラケッシュ・アガルワル氏(Rakesh Agarwal)は、「レーザ切断業界は1.5倍に成長すると予想している。中国からの輸入装置が、引き続き切断市場を占有しており、輸入装置台数の74%を占めている。LTPLは、その17%という最大のシェアを保有しており、この分野はさらに成長すると予想している」と述べている。 この状況に変化をもたらす重要な1つの要素が、本格化しつつあるレーザ切 断 装 置 の 国 内 製 造 で あ る。SILPune、SLTL Ahmedabad、ProteckChennai、Delta Automationなど、多くの装置メーカーが既に、インド国内でレーザ切断装置の製造と統合を行っている。それ以外にも十社以上の企業が、国内で装置統合を行う計画を打ち出している。Suresh Indu Laser PvtLtd(最大規模を誇るレーザ切断メーカーの1社)のディレクターを務めるサンジェイ・シャー氏(Sanjay Shah)はこの状況について、「レーザ光源、切断ヘッド、CNCなどの一部の重要な部品は中国から輸入するが、より良い製品とサービスを提供することにより、今後数年のうちに、国内製造のレーザ切断装置は増加し、中国の価格にも競争できるようになるだろう」としている。しかし、量産を行わない国内メーカーにとって、中国装置の価格に対抗するのは至難の業である。中国で製造される装置の数は、インド国内で消費される装置の数よりもはるかに多いためだ。需要がひとたび増加し始めれば、価格差も縮小していくと思われる。
 レーザ切断市場のもう1つの重要な要素は、切断用レーザの出力レベルである。速度が今後、重要になってくるためだ。Proteck Machinery Pvt Ltdのマネージングディレクターを務めるK・バラ氏(K. Bala)は、次のように述べている。「1.5〜2kWが、レーザ切断装置の標準的なエントリーポイントで、今でも切断市場全体の大多数を占めている。しかし、4kW以上の出力レベルが増加し始めており、2021年にはさらに増加するとわれわれは予想している。この分野は、レーザ切断市場の成長を促進する非常に大きな要素であり、レーザ出力のワットあたり価格は着実に低下している。市場は、切断出力が増加して、厚みのある材料が経済的にレーザ切断できるようになる方向に進行している」。
 トルンプ社やアマダといった国際的に事業を展開する企業は、この切断市場分野において強力で、新製品と挑戦的な価格によって勢力を拡大している。また、モード変更が可能なプログラマブルなファイバレーザや、米IPGフォトニクス社(IPG Photonics)の高ピーク出力のファイバレーザをはじめ、さまざまなメーカーから提供されているファイバレーザのその他の追加機能が、切断/溶接市場に弾みをつけている。IPGフォトニクス社がやはり、単独首位の供給メーカーとしてインドのレーザ市場において不動の地位を築いているが、米エヌライト社(nLIGHT)など、他の企業もそれに追いつこうと懸命に努力している。中国企業のレイカス社(Raycus)やマックス社(Max)は、かなり低い価格を提示することで、自社のレーザを積極的に推進している。
 レーザ切断とマーキング以外では、レーザクラッディング(肉盛り)、硬化、溶接が着実なペースで成長している。爆発的な成長は見られず、これらの用途については、従来の処理方法のほうが、レーザ加工よりも高い費用対効果が得られるようだ。しかし、より多くのオートメーション企業が、レーザ統合とインダストリー 4.0(Industry 4.0)に参入してくることで、金属と非金属(プラスチック)のレーザ溶接は、今後数年で間違いなく上昇曲線を描くことになると筆者は予想する。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/10/002-004_ilsft_industrial_laser_markerplace.pdf