将来を見据えて復元力を追求する企業

アイリーン・J・ペトリック

社内外の能力を駆使して、不確かな時代を勝ち抜く

企業は現在、多方面からの課題に直面している。自社の製品に対する需要はどのような状態にあるか。その需要に対応するための適切な(かつ最良の)サプライヤーが確保できていることをいかにして確認するか。自社の労働力にどのような能力を求め、将来の必須スキルを開発するために何をしなければならないか。デジタルツールをどのように計画し、導入していくか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、すべてのものをこれまで以上に不確かにした。ワクチン接種が進んだ後も、コロナ関連の側面が判断を左右し続けることになる。企業が製造ラインに必要最小限の人員だけを配備することにしたら、その製造業務にはどのような変化が生じるだろうか。それはリモート監視において、どのような意味合いを持つだろうか。 
数十年間にわたり、フレキシビリティ(柔軟性)やアジリティ(機敏性)、より最近ではレジリエンス(復元力)という語が、強い願望を表現するために使われている。フレキシビリティは、変化する需要に応じて製造ラインを簡単に変更できることを重視するもので、アジリティは、それを一歩進めて、どれだけ迅速に適応できるかを検討することを企業に求めるものだった。フレキシビリティもアジリティも、主に社内に目を向けるものだった。レジリエンスは企業に対し、変化を検知してそれに対応するための社内能力を管理するとともに、将来を見据えつつ機敏に反応するエンドツーエンドの応答性を構築するためにサプライチェーンを管理することを求める。混乱から復旧して、需要の変化に迅速に対応するためのこの能力は、将来の企業のベンチマークとなるものである。 
しかし、来たる混乱の初期兆候を検知し、企業対応を構築し、エコシステムを巻き込んで企業体制を整えるには、何が必要だろうか。これらは、2020年とそれ以降の企業を悩ませ続ける疑問である。以前にも増して今、変化の津波に正面から向き合うことが、重要な差別化因子となっている。技術、組織の間の相互依存性を含む、システム上の課題を挙げた(図1)。その具体的な項目は、表1 に示したとおりである。運用技術とレガシーシステムが、複雑さの要因として上位に挙げられているのは、予想どおりといえる。人間、エンタープライズシステム、ビジネス特性が、上位5項目に入っていることのほうが、意外かもしれない。 
デジタル時代を勝ち抜くには、新しいスキルセットが必要である。表2は、現在重要なスキルセットと将来重要になるスキルセットを対比して示したものである。技術者らはペトリックとマクリアリーに対し、プログラミングの基本的理解に加えて、製造に関する知識や、コミュニケーション能力/イノベーション能力が重要だと述べた。しかし、将来重要になるスキルの上位5項目は、すべてデジタル関連である。 
製造関連の能力は、第6位となっている。製造知識が重要でないと言っているのではなく、先進技術が担う役割とデータを中心とする体制が、ビジネス価値の推進力になることを強調しているのだといえる。マルコ・イアンシティ氏(Marco Iansiti)とカリム・R・ラカニ氏(Karim R. Lakhani)は、人工知能(AI)の時代において、企業はその中核を改革して、データ収集、分析、意思決定の産業化に焦点を合わる必要があると主張している(2)。同氏らがAI Factoryと呼ぶこの新しい運用モデルにおいて、データは顧客ニーズを、製造とバックエンド業務にシームレスにつなげる役割を担う。

図1 デジタル変革の包括的な複雑さ。

図1 デジタル変革の包括的な複雑さ。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/10/023-025_tr_in_pursuit_of_resilience.pdf