COVID-19が産業用レーザ市場に残す爪あと

デイビッド・ベルフォルテ

新型コロナウイルスのパンデミックは産業用レーザ、システム、関連製品の世界市場に、どのような打撃を与えただろうか。

2020年の産業用レーザ市場のレビューと予測を執筆するために、市場データをまとめていた1 年前、産業用レーザ市場が世界中で完全に活動を停止することなど、想像すらしていなかった。武漢(中国の産業用レーザ技術の本拠地)で始まった危機は、坂を転がり落ちる雪だるまのように世界中の製造業界に拡大し、成長の一年になると予測されていたこの業界の夢を打ち砕いた。誰にとっても共通の認識であろうが、筆者が述べているのは新型コロナウイルス(COVID-19)のことである。

市場動向の調査

Industrial Laser Solutions(ILS)誌では毎年、この年次レビューを作成するために、発行日の約2カ月前からデータの収集と業界関係者への問い合わせを開始する。今年度の場合、この作業を本格的に開始したのは2020年11月初頭である。12月末までに記事の最終版を出稿する必要があった。それまでには、産業用レーザシステムの使用状況に関する展望を評価するために、世界製造業に関する各種見通しを確認し終えた状態にある。この市場で使用されるレーザ製品を、製造及び供給している企業が公表しているコメントも、確認している。上場企業による四半期決算報告のタイミングの都合で、最終四半期の業績は例年、翌年の2月まで判明しないため、同四半期については、各社が公表したガイダンスを基に、結果を推定している。本誌のこれまでの経験では、この推定値は大抵、実際の結果に非常に近いものとなっている。 
2020年については、基本的に2019年の繰り返しになると予測していた。すなわち、上半期の成長は横ばいもしくは最小限で、続く第3四半期はそれよりも好調に推移し、最終的に年間売上高成長率は1 ケタ前半になると見込んでいた。それは、レーザ製品の単一市場として最大規模を誇る、中国におけるレーザ状況に基づく予測だった。中国は、当時再選を目指していた米国大統領の気まぐれで予測不能な言動に過敏に振り回される状態にあった。 
2019/2020年版の産業用レーザ市場のレビューと予測が完成し、そのインクも乾ききらぬ間に、中国の製造市場は閉鎖された。同国がパンデミックを受けて、不要不急のほとんどの経済活動を停止したためである。これによって産業用レーザ市場は、供給とエンドユーザーの両方のレベルで打撃を受けた。新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大するにつれて、各国は次々と中国に倣い、欧州では(ドイツを除いて)、一部の国は完全に経済活動を停止し、一部の国は米国のように部分的に停止した。米国が部分的な停止にとどまったのは、政治的分断によって二分した国家が行動を拒否し、大規模な社会的混乱が生じたためである。中国のレーザ製品供給メーカーは、経済成長の鈍化によって新規事業が抑制される中で積み上がっていた過剰在庫を、放出することになった。 
欧米諸国のパンデミック対策の足並みがそろい始めた頃には、中国では効果的なCOVID-19対策によって、ウイルスの感染拡大のペースが抑制され、経済活動は表面的に平常状態に戻った。それに伴って中国のレーザ装置業界は、予測される市場需要に対応するために、輸入レーザ製品の大型発注によって、機械在庫の再構築を開始した。これを受けて世界中の供給メーカーが、政府承認を受けて部分的に閉鎖されていた工場からの製品供給を急いだ。その結果、2020年上半期には受注によって売上高が押し上げられ、予測されていた悪い結果は回避された。ILS誌が産業用レーザ市場を評価するための指標として利用している企業集合の業績は、大赤字から黒字に転じ、半数以上が黒字となった第3四半期には、かなりの収益を収める企業も現れた。ILS 誌のBillion-Dollar Club(産業用レーザ関連の製品の売上高が10億ドルを超える企業)に含まれる企業では、売上高が増加した企業と減少した企業が半々だった。 
本稿執筆時、世界市場はCOVID-19の打撃から回復する中で、大きく混乱した状態にあった。米国の製造業は、ほぼ出勤する必要のない従業員をコロナ対策として在宅勤務に切り替えた企業に支えられて、活況を呈していた。中国は、アジア市場が停滞し、西欧市場がパンデミックからの回復に苦戦する中、成長が減速した状態にあった。中国政府は最新の5カ年計画の中で、西欧市場を重要なターゲットとして挙げていた。 
ILS誌がまとめた産業用レーザ、レーザシステム、関連製品市場の第3四半期決算報告では、13社が前四半期に続いてマイナス成長を示し、5社がプラス成長を示し(そのうちの2社は前四半期のマイナスからプラスに転じた)、1社は横ばいだった。この結果は予想どおりだった。結局のところ、ほとんどの企業がCOVID-19に起因する経済活動の停止の影響を受けたためである。プラス成長を示した企業のうちの3社は、中国企業からの収益があった。マイナス成長を報告したILS Billion-Dollar Clubに含まれる複数の企業が、第3四半期には受注が好調となり、マイナス幅を縮小していた。本稿を執筆している間に、COVID-19 の感染者数は再び増加しており、一部の地域では再度ロックダウンが実施される可能性があるが、それは、期待されているワクチン配布が2021年に大きくずれ込んだ場合の急場対策と考えられる。 
ILS誌は、逆風にもかかわらず世界製造業が生産を拡大し、明らかに回復傾向にある様子に感銘を受けている。その一例が米国で、2020年は良い一年だった。

2020年のレーザ市場

2020年のレーザ市場は苦しい状態にあった。それは、会計四半期ごとにILS誌に入ってくる情報に共通する見解だった。見本市が開催されなくなったために市場に流れる憶測は減少したが、それでも、裏付けに欠けるそうしたコメントの中には、上場企業の経営陣らが公表する見解に同調するものが十分に多く、本誌は最悪の事態さえ想定できる状態にあったため、2020年がわずかとはいえプラス成長が捻出されたことには安堵した。 
本稿は、2020年12月終盤に執筆されており、2020年第4四半期(10〜12月)の決算情報は2021年初頭まで公表されない。従って、本稿の第4四半期のデータは、企業各社のガイダンス(一般的に、15〜20万ドルというように範囲で示される)に基づく推定値である。長年にわたって本誌は± 2〜3%の誤差を維持しているが、時折、予想に反する事態が発生する年がある。2020年は、年末の休暇シーズンのCOVID-19の感染再拡大が、2021年第1四半期の製造業に打撃を与えることになるとすれば、そのような年に当たる可能性がある。 
図1に示すように、2019年の産業用レーザ市場の改訂後の売上高は、本誌の推定値よりも5%高くなった。中国市場が第4四半期に回復し始めていたためである。2019年の改訂後の売上高は、前年比10%減にとどまった。他の世界的なレーザ企業の経営陣が公表した多くのコメントの中で、このマイナス幅の縮小は2020年の好材料としてとらえられていた。

図1 産業用レーザ市場は、パンデミックの危機を乗り越える。

図1 産業用レーザ市場は、パンデミックの危機を乗り越える。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/10/002-005_sr_global_marketplace_covid.pdf