レーザ切断時の熱フォーカスシフト

クリスチャン・ディニ

非接触型ビーム測定によって、レーザ切断システムのフォーカスシフトの最小化を実現

レーザ出力が順調に増加しているおかげで、現在では、構造用鋼材の溶融切断から、より薄い材料の高速で効率的な切断に至るまでの幅広い用途において、レーザ切断の高い精度が享受されている。独メッサーカッティングシステム社(Messer Cutting Systems) では、同社の切断システム用の高性能ファイバレーザの信頼性向上に、この高い精度が反映されている。 
メッサーカッティングシステム社は、金属加工業界に製品やサービスを提供するグローバルサプライヤーである。5つの主要製造拠点に、800 人を超える従業員が在籍している。携帯型機器から造船用の特殊機械に至るまでの、酸素アセチレン/プラズマ/レーザ切断システムや、酸素アセチレン溶接、はんだ付け、加熱用システムなどの製品を提供している。同社は、主要施設で個々のアセンブリ、ソフトウエア、センサ技術の開発プロジェクトを実施してから、各地域の施設でカスタム開発や市場に特化した開発を完成させている。

フォーカスシフトの最小化

新しい切断システムの開発においては、測定技術が決定的役割を担うことを同社は理解している(図1)。メッサー社の開発担当プロジェクトマネージャーを務めるトーマス・デュンツコファ氏(Thomas Dünzkofer)によると、「特にフォーカスシフトの判定は、われわれにとって非常に時間のかかる処理で、レーザが高出力になるとリスクを伴うものだった。その一方で、その測定結果は絶対に必要だった」ということだ。 
メッサー社の研究チームは、同社のレーザ切断システムのフォーカスシフトの最小化に使用できる、新しいソフトウエアアルゴリズムを開発した(図2)。切断ヘッドの各種類に固有の時間分解測定に基づくものである。

図1 メッサーカッティングシステム社は、「PowerBlade 」システムの新しい切断ヘッドを試験していた際に、熱フォーカスシフトを測 定するためのより良い方法が必要だった。

図1 メッサーカッティングシステム社は、「PowerBlade 」システムの新しい切断ヘッドを試験していた際に、熱フォーカスシフトを測定するためのより良い方法が必要だった。

図2 レーザ出力が高くアプローチ距離が短い場合、熱フォーカスシフト がレーザ切断品質に影響を与える。この問題に対処するために、メッサ ーカッティングシステム社は、このシフトを相殺する「Focus Shift Compensation 」ソフトウエアアルゴリズムを開発した。

図2 レーザ出力が高くアプローチ距離が短い場合、熱フォーカスシフトがレーザ切断品質に影響を与える。この問題に対処するために、メッサーカッティングシステム社は、このシフトを相殺する「Focus Shift Compensation」ソフトウエアアルゴリズムを開発した。

非接触型ビーム測定

非接触型ビーム測定システムは、開口部を通してレーザビームをシステム内部に入射し、反対側から出射するもので、その過程において何の影響も与えることなく、それを行うことができる。これが可能なのは、レイリー放射を測定しているからである。レイリー放射とは、大気中の酸素分子や窒素分子など、放射波長よりも小さな粒子によって電磁波が散乱する現象である。レーザ放射の電界は、レーザ周波数において双極子分子の発振を誘発し、それがその周波数における弾性散乱につながる(別掲記事「レイリー散乱による高出力レーザの測定」参照)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/016_tr_laser_cutting.pdf