商用化されている超短パルスレーザ技術:パート1-レーザ

ロナルド・D・シェーファー

超短パルスレーザを提供するメーカーは急増している

産業用レーザ市場全体に占める割合はまだかなり小さいが(10%未満)、超短パルス(ultrashort pulse:USP)レーザの売上高シェアは、おそらく他のどの産業用レーザ市場部門よりも急速に成長しており、今後数年間の成長予測にも有望性が示されている。USPレーザ(筆者はピコ秒またはフェムト秒レーザと定義する)は実際、市場予測において現時点ではまだ十分な存在感を示してはいないものの、まもなく1つのカテゴリーを確立するほど大きな分野になる可能性がある。著名な業界アナリストであるアレン・ノジー氏(AllenNogee)でさえも、特殊なレポート以外では、フェムト秒またはピコ秒レーザの追跡調査を通常は行わない。ノジー氏によると、「そのすべてをカウントするのはたやすい作業ではない。大量に販売しなければ利益が出ない連続波(Continuous Wave:CW)レーザと比べて、ほんの少数しか製造していない小規模企業が多く存在するためだ。多くの企業が、非常にニッチな分野を対象とした小規模企業である」という。まさにそのとおりなのだが、筆者は、技術的な会話においても展示会においてもUSP市場の期待感を実感している。前者は、広大な新規用途の開拓につながる可能性があり、後者では、どのベンダーも口をそろえて成長を語っている。 
筆者が最後にレーザ一覧を示した2015年から、何が変わったのか。まず、ほとんどのレーザメーカーが、フェムト秒とピコ秒のソリューションを提供するようになった。1 つのパッケージで出力がチューニング可能な製品を提供するメーカーもあれば、それぞれ特定の分野を対象とする複数のモデルを提供するメーカーもある。フェムト秒レーザとピコ秒レーザを個別にとらえるのではなく、筆者はそれらすべてをUSPレーザとしてまとめることにした。この方法は、業界アナリストらの見方とほぼ一致している。すべてをUSP レーザとしてみなすため、レーザがピコ秒なのかフェムト秒なのかという考察は行わない。これらのレーザは、数年前と比べると「コモディティ」化が進んでいる。しかし、USPレーザそのものは必要ではあるが、十分ではない。この技術を適切に実装するには、光学部品、システム統合、プロセス開発も必要になるためである。USPレーザの利幅は、競争の激化に伴っておそらくほとんどの分野で減少しているが、生産量はかなり増加している。USP市場分野は市場アナリストらによって、2024年まで25%の年平均成長率(Compound Annual Growth Rate:CAGR)で成長すると予測されている。最大規模を誇る市場は北米とアジアで、医療分野において膨大な数の利用者が想定されている。 
USPレーザメーカーの追跡さえ容易ではないのだから、技術の実装に必要なその他すべての「構成要素」を把握するのは、気の遠くなる作業である。中国をはじめとする多くの国に、USPレーザ市場に従事しているか、従事していると主張する企業が多数存在するが、管理できる状態にするために、筆者は以下の規則に従うことにした。

・ USPレーザと光学部品:国際的に販売されているすべての製品を含む
・ USPレーザシステム:米国でUSPシステムを販売または販売促進するすべての企業を含む
・ USP契約製造:米国で契約を履行する企業に限定する 

上記の制約を設けても、データの大部分を観測及び推定することができる。USPレーザは今や、加工システムのボトルネックでも弱点でもなく、むしろ、USPレーザを有効活用してその可能性を最大限に引き出すために必要となる、多数の異なる要素のうちの1つ(非常に重要な1つであることを強調しておく)だというのが筆者の意見である。実際、USPレーザそのものは、技術的にはほぼ頭打ちの状態で、ほとんどのメーカーが高出力化、低コスト化、小型化などを今後の目標にしている状況にある。それ自体は良いことだが、マーケティングやイノベーションではなく、販売やエンジニアリングへと軸足が移っていることを表している。 
一方、これも筆者の意見だが、素晴らしい点は、応用分野の開拓はかなり進んだ状態にあり、新しい用途がレーザメーカー全般にわたる成長を促進すると思われることである。この数年間に、主に買収によるレーザメーカーの統合が多数見られたが、買収されたり廃業したりした企業をはるかに上回るペースで、新しい企業が誕生している。単純に「消え去った」企業(米レイディアンス社[Raydiance]など)はほんのわずかで、ほとんどが成長を遂げている。率直に言って、この成長基調の中で生き延びることができない企業は、おそらくビジネスモデルが悪いか製品が悪いかのどちらかであるため、そもそも存続不可能だったと考えるべきだろう。

レーザ

ここで、産業用USPレーザを定義しよう。本稿では、レーザのパルス幅は少なくとも1ns未満、できれば20ps未満とする。シングルパルスのエネルギーは、フェムト秒の場合で10mJ、ピコ秒の場合はそれ以上とする。レーザは、最大100kHzの繰り返し周波数で動作可能とする(標準的には100kHz~1MHzが用いられる)。出力は「利用可能出力」とする。出力パワー(W)は、パルスエネルギー(J)と繰り返し周波数(s-1)の積として、次の式で求められる。

Eplus×Rep Rate=P 

出力は、繰り返し周波数を過度に高くしたり、パルスあたりのエネルギーを過度に低くしたりすることなく(いずれの場合も利用可能でない出力が生じる)、達成できるものとする。最後に、レーザは「産業用」で、以下の条件を満たすとする。
・ 価格競争力があること。ただし、実証された品質があれば顧客は購入すると考えてよい。
・ 小さな筐体に「パッケージ化」されているが、使用と保守が容易であること。
・ 光学部品や動作などに必要な電気接続とトリガ機構のすべてが搭載されていること。
・ 年中無休稼働に対応する信頼性を備えること。
・ アフターサービスを企業が提供していること。
・ 利用可能な繰り返し周波数とパルスあたりエネルギーを持つこと。高調波が利用できる場合は、周波数変換後に十分なパルスエネルギーを持つこと。
・ 合理的な期間で出荷できること。

2013年にミュンヘンで開催された見本市LASER World of PHOTONICSで、筆者はピコ秒/フェムト秒レーザ製造に従事する企業の一覧を作成しようと決意した。作成した一覧表は、本誌の記事(http://bit.ly/Schaeffer2013)に掲載した他、それに続く2015年のウェブキャストでも紹介した。その後、USPレーザメーカーの数が急激に増加し始めて、2017年には、そうした状況に対する筆者の準備が足りず、企業一覧を作成することができなかった。そして時は流れて2019年、筆者は、SPIE Photonics West(カリフォルニア州サンフランシスコ)、UKP Workshop(ドイツのアーヘン)、LASER World of PHOTONICS(ドイツのミュンヘン)に参加した。そのすべての会場で、USP事業に従事していると主張するすべての人々と会話しようと努め、その結果を基に企業一覧を作成した。この2部構成の記事では、4つのカテゴリーの対象企業に所属する個人の回答に主に基づいて、筆者がまとめたデータを紹介する。4つのカテゴリーとは、レーザそのもののメーカー、USP業界に関連する光学部品メーカー、USPシステムメーカー、ジョブショップ/契約製造業者である。世界規模に事業を展開する大小すべての企業を網羅しようと努めたが、一覧からもれてしまった企業が間違いなく存在する。レーザと光学部品のデータは世界中をほぼ網羅しているが、USPシステムメーカーについては米国で事業を展開する企業に比重を置き、契約製造業者については米国で製造を行う業者に限定した。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2020/07/010_tr_ultra-short_part1.pdf