ナノからピコ、そしてフェムトへ:最適なレーザ微細加工結果を得るパルス幅

ラジェシュ・パテル
ジム・ボヴァツェック
ハーマン・チュイ

品質、スループット、コストに大きな影響を与えるパルス幅の選択

すべての加工プロセスの目的は、できる限り短時間かつ最も経済的な方法で高品質の結果を得ることにある。レーザ加工は、切断、ミーリング、穴あけといった従来の機械加工と比べて、局所的かつ高品質で精密な加工が可能である。レーザを正しく選択すれば、歩留まりとスループットに優れた、経済的なプロセスを実現することもできる。 
レーザを多用する業界のひとつに、携帯端末製造がある。より小型で、高速で、軽量で、低価格の携帯端末を製造したいという需要に、レーザ微細加工プロセスは応えることができる。医療機器製造、クリーンエネルギー、自動車、航空宇宙といったその他の業界でも、程度の差はあれレーザ加工が導入されている。 
複数のレーザパラメータが加工結果に影響を与えるが、パルス幅の選択は、プロセスの精度、スループット、品質、コストに影響を与える重要な項目の1つである。パルス幅がナノ秒からフェムト秒範囲のパルス波レーザが、さまざまな材料の精密微細加工に一般的に使用される。本稿では、微細加工に一般的に使用されるナノ秒、ピコ秒、フェムト秒レーザのスループット、品質、コストの間のトレードオフについて解説する。

ナノ秒のパルス幅

平均出力が同じである場合に、ナノ秒レーザは、溶融によって材料の大部分が除去されるために、ピコ秒やフェムト秒レーザよりも材料除去率が高く、したがってスループットが高いというのは実証済みの事実である。レーザパルスによって熱せられた材料は、室温から融解温度に達し、蒸発と溶融材料の排出によって最終的に除去される。 
しかし、除去された溶融材料が加工箇所のエッジに付着して再凝固することが多く、それによって加工の精度と品質は低下する。材料に残る余熱によって、加工箇所周辺に熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)と呼ばれる領域が生成される。また、排出された溶融材料の一部が加工箇所周辺に飛散することによっても、加工の品質が低下する。 
このような悪影響は、緑色または紫外域(UV:ultraviolet)の波長でパルス幅の短いナノ秒レーザを使用することにより、コストはいくらか追加されるが抑えることができる。特にUV ナノ秒レーザは、ほとんどの材料で浸透深度が浅いため、HAZを大幅に縮小することができる。またUV ナノ秒レーザには、焦点スポット径が小さく、焦点深度が大きいという、小さな形状の加工に必要なメリットもある。 
UV ナノ秒レーザは、能力とコストの最近の進歩にともない、精密微細加工における普及が加速化している。たとえば、米スペクトラ・フィジックス社(Spectra-Physics)のUVレーザである「Talon」と「Explorer」は、UVレーザ業界におけるコストパフォーマンスの飛躍的な向上を先導しており、ワットあたりコストを3年間で3分の1未満にまで低下させた。その結果、これらのレーザは現在、UVマーキング、薄膜のパターニング、PC基板切断、ビアの穴あけなどの用途に広く使用されており、高いスループットで精細な形状を生成している。図1は、銅/ポリイミド/銅のフレキシブルプリント回路基板(FPCB:Flexible Printed Circuit Board)の薄膜に、Talon UVレーザを使用して生成した直径80μmのスルービアホールを示している。エッジ周りの凹凸の高さは平均で2μm未満と非常に小さい。 
それとは異なる用途向けに、スペクトラ・フィジックス社は、60W を超えるUV ナノ秒短パルスを高い繰り返し周波数で出力する、UV ハイブリッドファイバレーザ「Quasar」を提供している。フレキシブルでプログラマブルなパルスを特長とする。このような機能によって、UV ナノ秒レーザの使用可能なパラメータ範囲を飛躍的に押し広げ、半導体、セラミックス、サファイア、ガラス、電池箔、その他携帯端末に使用される材料の高品質で高スループットの加工を可能にした。将来的にUV ナノ秒レーザは、ワットあたりコストを引き下げながらさらに能力を高め、量産製造における利用を拡大していくと思われる。

図1 銅/ポリイミド/ 銅のFPCB 薄膜に穴あ けされた直径80μmの スルービアホール。エッ ジ周りの凹凸の高さは 平均で2μm未満とな っている。

図1 銅/ポリイミド/銅のFPCB薄膜に穴あけされた直径80μmのスルービアホール。エッジ周りの凹凸の高さは平均で2μm未満となっている。

ナノ秒レーザ加工とピコ秒レーザ加工の比較

ナノ秒レーザとピコ秒レーザの比較については、初期の研究(1)によって、レーザパルス幅をナノ秒からピコ秒にすると、ステンレス鋼の溶融量が減少することが示されている。他の多数の研究からは、ピコ秒レーザを微細加工に使用すると、加工品質(HAZの幅、デブリの形成、レーザ加工したエッジ周辺の溶融材料の蓄積と飛散で定義される)が向上することが示されている。また、材料除去しきい値(材料除去に必要な単位面積当たりのエネルギー[単位:mJ/cm2]で測定される最小フルエンスとして定義される)は、ピコ秒レーザパルスの方がナノ秒パルスよりもはるかに低い。 
ピコ秒レーザの方が、パルス幅が短いためにピーク出力が高く、格段に低いパルスあたりエネルギーで材料除去が行えることは明らかである。しかし、実用的な観点からは、ほとんどの切断または穴あけ処理が、材料除去しきい値よりもはるかに高いフルエンスで実行され、また、平均出力が同じならばナノ秒レーザの方がピコ秒レーザよりもスループットが高い。高い品質がプロセスの重要な要件である場合は、ナノ秒レーザよりもピコ秒レーザを使用する必要がある。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/09/tr_p34.pdf