産業用レーザ、2016年も引き続き堅調に売上高を増加

デイビッド・A・ベルフォルテ

2016年の産業用レーザ市場、世界製造装置販売傾向とは逆行

2016年には世界の多くの経済国で国内総生産(GDP:Gross DomesticProduct)が低下し、世界製造業界は不安定な時代へと突入していった。製造業の通常の好況と不況の循環サイクル以外にも、2016 年には製造業界に影響を与える多数の要因が発生した。グローバル化は壁に突き当たり、豊かな経済国における直接投資はピーク時から40%落ち込み、国際融資はこの2年間で9% 減少している。国際通貨基金(IMF:International MonetaryFund)や世界銀行(World Bank)は、各国が内向きになると製造業の世界的な低迷が加速する恐れがあるとして、この状況を憂慮している。特に米国では、大統領選の結果に保護主義の高まりが現れた。世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)は世界貿易量の成長率を1.7%に下方修正しており、40年間2 ケタ成長を示してきた出荷コンテナが4% 減少するなど、好ましくない兆候が見え始めている。 
世界製造業の成長見通しは引き続き低下している。英国のEU離脱、世界中で発生するテロ事件、中国の構造改革の遅れ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP:Trans-Pacific Partnership)の見直し、米国大統領選の結果など、最近の出来事のすべてがこれに輪をかけ、経済の不確実性を助長させている。 
かつて産業用レーザ売上高は、工作機械業界の成長曲線に沿って推移していた。しかし2008〜2009年の大不況からの回復が始まると、高出力ファイバレーザを搭載する板金切断機や、超高速パルス(UFP:ultrafast pulse、または単に超高速)固定レーザを用いたスマートフォン部品の大量生産に関連して、これまで抑えられていた購買需要が一気に表面化したことで、産業用レーザ市場は不況からの急速な回復を見せ、年間売上高は大きく増加した。 
産業用レーザ市場はこの2年間、工作機械業界を上回る業績を上げ、年間売上高は堅調な1 ケタ成長を示した。本稿では昨年に続き、世界工作機械業界で報告されているもう少し控えめな成長に逆行する、力強い成長を報告することになった。この成長には正当な理由がある。高出力ファイバレーザ販売が好調な2 ケタ成長を示していること、新型スマートフォンディスプレイのエキシマレーザ加工が急増していること、航空機エンジン部品のレーザ積層造形製造(AM:Additive Manufacturing)が拡大していること、そして、UFPレーザを用いた微細加工が大幅に増加していることなどが、その代表的な例である。 
産業用レーザは、自動材料加工システムの鍵を握る要素である。製造業界が「インダストリー4.0」(Industry4.0)実現に向けて、集中型から分散型の製造方式へと移行するにつれて、生産手法をサプライチェーンの需要変動に自動的に適応させる必要が生じる。インターネットに接続されたセンサやコンピュータによって制御された最先端加工装置が現在実装されつつあり、レーザはその本質的な性質から、適応可能なエネルギー源として最適な選択肢となる可能性が高い。本誌(英語版)の読者ならば既に、これまでに掲載された記事を通してこれを理解していることだろう。

レーザ市場概観

あるレーザ供給メーカーが獲得した大型受注によって微細加工部門の売上高が驚異的に増加したことが、今年度の市場レポートに好影響を与えた。今月号の特集記事(24ページ)に記されているように、多結晶シリコンを薄膜トランジスタ材料として使用することにより、外観と速度に優れ、消費電力を抑えた有機EL(有機発光ダイオード、OLED)ディスプレイを製造することができる。アモルファスシリコンを多結晶に変換するための最も有効な手段は、エキシマレーザを用いて低温ポリシリコンアニーリングを施すことである。米コヒレント社(Coherent)は、同社のエキシマレーザを搭載する装置の大量受注を獲得し、2018年にかけてこれを納入する。これらのレーザによる大規模な売上高は 2016 年出荷分から発生し始めており、微細加工部門を力強い2ケタ成長へと導くことになった。また、急速に成長する積層造形製造向けの高出力レーザも、「その他」のカテゴリの成長率増加に貢献した。 
表1には、2016年の総売上高が、2015年の売上高改訂値(改訂の根拠については別掲記事を参照)から10.2%増加したことが示されている。2016年の売上高成長率における大きな変化は、低出力分野における価格低下と、(上述の市場経済に伴う)板金切断に用いられる高出力CO2レーザ受注の緩やかな鈍化を反映して、CO2レーザの売上高が4%減少したことである。 
2015 年に10億ドル規模にまで成長したファイバレーザは、2016年も力強い2ケタ成長を示した。2016年にILSに掲載した記事の半数以上に、これを裏付ける内容が記載されていた。ファイバレーザは今後も、他の種類のレーザ、特に板金切断用の高出力CO2レーザの市場シェアを侵食していく見込みである。2016年に開催された最大規模の金属加工展示会の2 つであるドイツのEuroBlechと米国のFabtechでは、展示されていた数十もの高出力レーザ切断機のうち、CO2レーザが搭載されていたものは1 台だけだった。2015年には、複数の高出力CO2レーザ搭載機が展示されていた。好調なファイバレーザ販売とは対照的に、非金属を切断したいという例外的なニーズを除いて、CO2レーザを搭載する切断機はもうほとんど販売されていない。現在、60を超える世界中の供給メーカーから、出力2〜12kWのファイバレーザ搭載フラットシート切断機が提供されている。出力レベル8〜12kWのファイバレーザで現在、同等のCO2レーザと同じ切断品質がそれよりも高い切断速度で達成できる。 
表2 に示された2016年の微細加工部門売上高には、上述のシリコンアニーリング用高出力エキシマレーザ販売の影響がはっきりと表れている。マーキング部門のレーザ売上高は、2016年に減速した。販売個数は力強いペースで増加し続けたが、競争の激化によって販売単価が低下したためで、この傾向は2017年も続く見込みである。 
2016 年には、マクロ加工部門が引き続き、材料加工業界の売上高の最も大きな割合(47%)を占めたが、微細加工部門が35%と、それに迫る勢いを見せた。これは、1億9000万ドル以上と推定される、アニーリング用に出荷されるエキシマ装置の売上高のおかげである。

表1 産業用レーザの売上高(単位:100万米ドル)

表1 産業用レーザの売上高(単位:100万米ドル)

表2 レーザの分野別売上高(単位:100 万米ドル)

表2 レーザの分野別売上高(単位:100 万米ドル)

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/04/ILSJ1704_Special_Report.pdf