フェムト秒レーザツール、微細加工での使用が急増

スコット・サリバン

超高速パルスにより、熱損傷のないアブレーションが可能

かつては豊富な資金に恵まれた研究機関だけが使用できる非実用的なツールだったフェムト秒レーザが、さまざまな産業用微細加工分野で人気を高めている。用途や材料にもよるが、フェムト秒レーザを搭載する微細加工ツールは、民生電子機器、医療、自動車など、その他にも多数の市場において、メーカーがますます小さく薄い部品を扱い、それによって収益を高めるための手段となっている。このトレンドを牽引している要因として、フェムト秒レーザの小型化と高性能化が進み、対応するスペクトル範囲が拡大し、価格も低下していることが挙げられる。 
超高速パルスレーザは、パルス長が1ns未満のものと一般的に定義される。フェムト秒レーザはそこからさらに大きく踏み込んで、持続時間30 ~ 800fsの高品質な超高速パルスを生成する。人間の感覚に例えると、どのくらい短いのだろうか。1 つの考え方は、レーザがオンの時間とオフの時間を比較することである。標準的な使用モデルとして、100fs、繰り返しレート100kHzのレーザパルスが挙げられる。100fsが1s であると考えると、次のパルスが発生するのは約3.5 年後である。この超高速パルスによって実質的に、熱が材料に影響を与える時間は最小限となり、材料が熱を放散できる時間は最大限となる。 
フェムト秒レーザには、他の種類のレーザに勝る多数の利点がある。最大の利点は、熱影響部(HAZ:Heat AffectedZone)がナノ秒レーザやピコ秒レーザと比べて小さい傾向にあることだ(図1)。周辺領域に熱損傷を与えないアブレーション(コールドアブレーション)は、ステントの製造に必須で、車載部品や民生電子部品の強度と品質を高めるためにも使用される。スマートフォン、タブレット、ウェアラブル機器の強化ガラスを加工する場合など、もろく壊れやすい材料を扱う際の微視き裂の発生も最小限に抑えられる。 
フェムト秒レーザに特有のもう1 つの利点は、強度が高い(1012W/cm2 以上)ことから、文字通り原子レベルで材料が切断されることである。基本的に、微細なプラズマが形成されて、その膨張時に材料が除去される。デブリ(加工屑)が少ないことは、高いアスペクト比で深い穴をあける場合に特に好都合である。

図1 フェムト秒レーザを用いて作成したステンレス鋼サンプル内のスロット( a )は、HAZ が無 視できるため後処理は不要である。ナノ秒レーザで作成した(b)のサンプルには大きな刻み目がは っきり見えるので、追加処理が必要となる。

図1 フェムト秒レーザを用いて作成したステンレス鋼サンプル内のスロット( a )は、HAZが無視できるため後処理は不要である。ナノ秒レーザで作成した(b)のサンプルには大きな刻み目がはっきり見えるので、追加処理が必要となる。

難しい極薄材料の加工

最近ではあらゆる形状とサイズのディスプレイにおいて、偏光板、カラーフィルタ、カバーガラス、タッチパネルなどの構造が薄いガラスシート、カラスフィルム、ガラス箔によって構成されている。レーザは、再現可能な非接触型の処理によって、加工速度と歩留まりを高めることができる。また、極薄ガラス、等角切断、新材料が組み合わされているといった特徴を備える新製品の製造を可能にする。 
窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミックスは、高性能材料として幅広い用途で人気を集めている。電気絶縁特性に優れ、高温耐性が高く、携帯電話のアンテナや高性能LED(発光ダイオード)パッケージなど多数の用途において不可欠な材料になりつつある。 
セラミックスの穴あけや切断は、フェムト秒レーザが他の手段に勝る能力を発揮する用途であり、これを使用することでメーカーは高品質な形状を得ることができる。正確な形状と滑らかな内壁を備える穴が形成され、表面のデブリは最小限に抑えられる(図2)。後処理はほとんど、あるいはまったく不要であるため、フェムト秒レーザによって、歩留まりが大幅に向上し、製造コストが削減されることも多い。 
強化ガラスに対し、フェムト秒レーザを搭載する微細加工ツールは、機械的システムでは非常に難しい高品質の直線切断、曲線切断、内部切断を容易に行うことができる。ピーク出力の高いフェムト秒レーザは、優れたエッジ品質とエッジ強度を達成しつつ、高速な加工が可能である。

図2 ステンレス鋼箔 におけるこのクリーン でデブリのない切断結 果は、薄い材料の加工 に対するフェムト秒レ ーザの利点を象徴して いる。

図2 ステンレス鋼箔におけるこのクリーンでデブリのない切断結果は、薄い材料の加工に対するフェムト秒レーザの利点を象徴している。

薄い材料の除去

集積回路がますます複雑かつ高密度になっていることから、半導体業界には新しい製造上の課題がもたらされている。例えば、半導体ウエハはますます厚みが薄くなり、複数の材料が使用され、加工形状はさらに細かくなっている。従来の製造方法では限界に達しつつある。 
超高速レーザは、高品質で高精度の材料加工が可能であることから、このような新しい用途に最適である。例えば選択的なアブレーション加工では、厚さ数十ナノメートルという薄い材料層を、その下の層に影響を与えることなく除去することができる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2016/11/ILSJ_Sep16_tr2.pdf