超短パルスレーザを用いた オープンリール加工

クリスチャン・ショルツ

薄膜構造形成のための最高のスループットと最低の生産コスト

フレキシブル電子デバイスの高い歩留りと大量生産に対する要求はさらに増大し、高スループットと非常に低い生産コストを組み合わせた産業システムに対応した新しい生産プロセスを必要としている。 
その一例として、3D マイクロマック( 3D-Micromac AG )が開発したオープンリール方式のレーザシステムは、これらの目標を満たすことができる。このシステムはレーザ光源とオープンリール装置を一体化し、フレキシブル基板が連続的に移動するオンザフライ加工を可能にしている。 フレキシブル基板上の薄膜レーザ加工は、電子デバイスのマーケットとフレキシブル太陽電池への応用を目的にして開発された。これらの目的に対して、超短パルスは固体材料と相互作用する時間が短いので(フォトニックシステムに誘起されるエネルギーが最小化され、アブレーションは非熱的過程に近づく)、熱に敏感な薄膜のアブレーションには理想的な手段になることが実証された。また、アブレーションされたプラズマとの相互作用が同時に起こることもない。これらのすべての事実によって、レーザ加工する境界の応力は最小になり、熱影響ゾーンの発生も最小になっている。

フレキシブル回路の構造形成

フレキシブル電子回路の量産を可能にするには、低価格プロセスによる製作が必要になる。プリント回路は化学蒸着や物理蒸着プロセスの場合よりも安価になる。しかし、残念なことに、今日の利用可能な印刷技術では対応が難しく、その実現には大きな努力を必要となる工程段階がある。例えば、両面プラスチック回路カードや薄膜システムを生産するための高品質相互接続の形成は、打ち抜き加工などの確立された技術でも実現できない。レーザによる直接書込み工程を組み合わせると、従来の方法では対応できなかった連続オープンリール方式による巻取りウェブの制約のない取扱いが可能になる。 
印刷できる導電層材料は導電性高分子材料のPEDOT:PSS が代表例になる。この材料は330nmから1100nmまでの波長範囲において、広く使われているPET 基板をわずかに上回る非常に低い吸光度が得られる。この性質は導電層のレーザアブレーションを基板への影響なしに抑えることができる。そこで、レーザ波長(266 から1064nm )とパルス継続時間(12ps から100ns)を変えて、PET基板上のPEDOT:PSS のアブレーションを試験した。まず、1064nm レーザの基本波(1064nmの近赤外線)と第二高調波(532nm の可視光)を使用して、レーザパルスの継続時間を12ps から100ns の範囲で変更した。予想したように、最初の近赤外線と可視光の波長による試験では、DEPOT:PSS 層の除去を基板の大きな損傷の発生なしに行うことはできなかった。これらの実験にもとづいて、紫外線領域の波長(第三高調波の355nm)による試験を紙と箔の搬送基板上で行った。50ns のパルス継続時間をもつレーザ光源を用いると、DEPOT:PSS層は完全に除去されたが、PET箔には損傷(激しい膨らみ)が発生した。 
超短レーザビームを適用することで、機能性高分子のアブレーションが箔の激しい膨らみなしに可能となった。薄膜高分子層を適切にアイソレーションできるレーザフルエンスを用いたときに、除去される基板材料は10μm以下の薄い厚みであった。このような基板材料のアブレーションは、各種の応用において問題ではなく、例えば、二つの導電領域のアイソレーションでは、それらの分離だけが必要になる。切断速度は切断の幾何学形状に強く依存する。28μmの幅を640kHz の繰返し速度で切断したときのレーザの限界速度は5m/sであった。切断速度の向上は繰返し速度の高いレーザ光源を使うことで実現できた。 
266nm(1064nm レーザの第四高調波)の波長と約2μmまでのパルス継続時間を用いると、基板材料の溝深さはさらに減少した(図1)。このことは波長が330nm 以下になると、PEDOT:PSS とPET 基板の光吸収が顕著に増加し、レーザの侵入深さが減少する事実にもとづいている。この利点によって、レーザ光源はさらなるパワーの減少が可能になり、光路を大幅に増加したい要求にも対応できる。 
紙は基板材料としての熱的安定性が優れているので、紙の基板上にあるPEDOT:PSS 層の加工は難しくない。したがって、基板の損傷なしに高分子層をアブレーションできるエネルギーの条件は、PEDOT:PSSのアブレーションに必要なエネルギー閾値をはるかに超えてしまう。しかし、箔の場合と同様に、パルス継続時間と波長が短くなると、アイソレーション切断は基板のさらに少ないアブレーションでもって実現できることが観測された。

図1 PET基板上のPEDOT:PSS の構造形成( λ=266nm )

図1 PET基板上のPEDOT:PSS の構造形成( λ=266nm )

フレキシブルCIS太陽電池

オープンリール方式の加工プロセスはフレキシブル太陽電池の生産にも利用できる。超高速パルスレーザによるCIS 太陽電池のレーザ加工法は、多層膜の損傷の少ない選択アブレーション加工法として確立されている(図2)。この方法はすでに、最近の3Dマイクロマックのプロジェクトにおいて実証されている。 
また、ポリイミド膜上に1.5μm厚のCIS 吸収層をピコ秒レーザで微細加工する生産プロセス技術も開発されている。CIS 層の加工は約1μJ を超えるエネルギーが必要になる。図3 はCIS を加工した結果を示している。細流のエッジには微細構造の変動が見られるが、これは5μm幅の吸収層の領域がわずかに融解し、その後に固化したことを示している。 
アブレーションの選択性は、断面の化合物の透過電子顕微鏡法(エネルギー分散X 線分光法を含む)とラマン顕微分光法による研究により立証された。さらに、損傷なしの加工、とくにCuxSe 相の機能を損なわない加工も実証された。

図2 構造形成したCIS 太陽電池。

図2 構造形成したCIS 太陽電池。

図3 構造形成したCIS のプロセスの最適化 (上)と効率の最適化(下)。

図3 構造形成したCIS のプロセスの最適化
(上)と効率の最適化(下)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/09/2011.pdf