ハイブリッドレーザアーク溶接:その時代は近づいているか?

ポール・デニー

非常に高輝度のレーザが登場し、開発課題は残されているが、「ハイブリッド時代」が近づいている。

2010年のFABTECHの会期中に、レーザハイブリッド溶接の現状に関して、二つの新しい出来事が起きた。まず、スウェーデンのエサブ社(ESAB: www.esabna.com)は同社のウエブサイトに、ハイブリッドレーザアーク溶接(HLAW)に関係する新しい情報を追加した(図1)。同じ週に、米リンカーンエレクトリック社(Lincoln Electric: www.lincolnelectric. com)はHLAW溶接システムの開発を目的にして、米IPGフォトニクス社(IPG Photonics: www.ipgphotonics.com)との戦略的提携を発表した。世界で最大のアーク溶接企業の両社がHLAWを推進することは、この技術が産業界のなかでどのように見られているかを示している。

図1 代表的なロボット利用によるHLAW 加工を示している。(資料提供:アラバマレーザ社)

図1 代表的なロボット利用によるHLAW 加工を示している。(資料提供:アラバマレーザ社)

HLAWの歴史

伝統的な溶接会社によるレーザ技術の採用は、一夜にして起きたことではない。この技術のいくつかの問題を解決するためのレーザとアーク工程との結合には、レーザ加工そのものと同じ程度の歴史がある。その証拠に、ビル・スティーン氏(Bill Steen)は1980年の米国物理学協会のJournal of AppliedPhys ics誌のなかで「アークによって増強されるレーザ材料加工」と題する論文を発表している。ほとんどの場合、レーザとアーク工程とを組合せると、レーザの取付け、化学反応、パワー限界などの問題の解決が可能になる。また、ほとんどのハイブリッド加工はガス金属アーク溶接(GMAW)(図2)が主流であったが、レーザとガス・タングステン・アーク溶接(GTAW )を組合せる方法(ディーボルド氏およびアルブライト氏、Weld ing Journal、1984年)やプラズマを組合せる方法(ワルダック氏およびビッフィン氏、Welding ResearchAbroad、1995 年)を研究する人もいた。 
HLAWは何年にもわたり研究されたが、その利用を妨げるいくつもの理由があった。1990 年代の初めはカナダ防衛研究機構で研究に従事し、その後は独立してコンサルタント業を務めているビビアン・マーチャント氏(VivianMerchant)は、「われわれは強く集光できない大型で不恰好な旧式のレーザを使っていたが、その動作には大きな欠点があると思っていた」と語っている。彼によると、HLAWを利用するメリットは、潜水艦の建造に使われるHY‐80材料の溶接のような軍用加工や国土横断パイプラインに使われる高強度材料の溶接の場合に、高い生産性が得られることにある。マーチャント氏は「レーザを使わなければ、厚さ1 インチの鋼板を溶接するには10パスも必要になる。しかし、レーザを使うと、加工溝が狭くなり、1インチの鋼鉄の溶接は2パスで済む!」と語っている。 
「無骨な」レーザではあったが、いくつかの応用は実験室を出て工場の現場へと移された。ドイツでは1990年代を通して、HLAWに対する活発な取組みが続けられた。RWTHアーヘン工科大学のISF溶接研究所(ISF-Welding andJoining Institute)などの研究者たちは、独マイヤー・べルフト・シップビルディング社( Meyer Werft Ship build ing)などの会社と共同して、この技術の開発と支援を行った。その結果、マイヤー・べルフト・シップビルディング社では、2000 年にCO2 レーザのHLAW を使用して、甲板や隔壁と補強材とを溶接する新しいパネル工法が開始された。このことは、この技術が広く受入れられたことを示しているだけではなく、ノルウェーのDNV(デット ノルスケ ベリタス)や英ロイドなどの組織による造船用の新しい仕様の開発と承認が必要になったことも意味していた。

図2 HLAWの基本 的な2種類の方法を 示している。(a)は レーザが先行し、(b) はアークが先行する。 これらの方法は用途 に応じて選択されて いる。(資料提供: EWI社)

図2 HLAWの基本的な2種類の方法を示している。(a)はレーザが先行し、(b)はアークが先行する。これらの方法は用途に応じて選択されている。(資料提供:EWI社)

大きな変革

1990 年代終りおよび2000 年代初めになると、HLAW加工に衝撃を与えるレーザ技術の大きな変革が起きた。半導体レーザ技術が進歩し、大きなパワーと良好なビーム品質が得られるようになり、価格も低下した半導体レーザは、単独での使用と最新レーザシステムの励起光源としての利用が可能になった。高出力のためのCO2 レーザ(固定光学式)やファイバによるフレキシブル伝送のためのNd:YAG レーザ( 4kWまでに限られるが)の選択は不要になった。半導体レーザはファイバレーザやディスクレーザの励起光源として使われるようになり、ファイバによる伝送やCO2 レーザ以上の高出力が可能になったばかりでなく、レーザ装置の運用と保守も容易になった。
米国のオハイオ州コロンバスにあるEWI 社のブライアン・ビクター氏(BrianVictor)は、「新しく登場した高輝度レーザの技術は大きな衝撃をもたらした。これらの新しいレーザはHLAW の潜在ユーザにとってあまり脅威にはならない。レーザ装置の運用と保守は容易になり、従来のレーザ技術よりもロバスト性が高く、フレキシブル生産用のファイバ伝送もできる。また、従来のファイバ伝送による産業用レーザより高い出力が得られ、kW 当たりの価格も比較的低い」と語っている。 
RWTH アーヘン工科大学のISF 溶接研究所の主任技師を務めるシモン・オルスコク氏(Simon Olschok)は、ハイブリッド溶接は「造船(使用中)、自動車(使用中)、容器製造、軌道6mmまでのパイプ溶接およびJ-Lay 15mmまでのパイプ溶接」に使用できると述べている。彼によると、マイヤー・べルフト・シップビルディング社が取組みを開始して以来、多数の会社がハイブリッド溶接の検討を始めている。現在は新しいロバストなレーザ光源が利用可能になり、世界中の多数の研究機関が導入した(これによって開発と導入が支援される)ため、ハイブリッド溶接への取組みは加速している。

(もっと読む場合は出典元PDFへ)
出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/04/05d543f30e735e4ecb3868d26dcc7d22.pdf