産業用レーザ市場のレビューと予測:驚くべき回復

デイビッド・A・ベルフォルテ
2009 年の産業用レーザ市場は混乱していた。この市場を急襲した2008 / 2009 年の世界規模の経済不況による衝撃が残り、影響を免れた製品やサービスのサプライヤがあったとしても、それはごく稀なことであった。恐ろしい話だが、販売の電話が鳴ることはなく、営業用の電子メールを送っても未開封のままのことが当たり前だった。さらに月が過ぎるにつれ、このような話はますます酷くなり、北米、欧州、アジアの市場はいずれも干上がり、とくに資本財の分野が顕著であった。 
2009年の中頃になると、世界中の政府機関はそれぞれの経済を賭けて莫大な景気刺激策を実施したが、財政の回復が起こらないことは明白であった。レーザメーカーと装置サプライヤは会社の操業停止を避けるため、抜本的な対策を当然のこととして実施した。世界でも最強の地位にある企業でさえ勤務時間を短縮し、初の従業員の削減を強いられることがあった。

2010年の良いニュース

2010年になると、初めはほとんど気付かなかったが、展示会やカンファレンスの会場には良いニュースが流れるようになった。市場規模の小さなニッチな分野に特化した製品サプライヤは、至るところで、半導体、代替エネルギー、航空宇宙、自動車、医療機器なxの市場から受注を受け始めるようになった。また、非常に活発化した中国市場からは、政府による一連の景気刺激策が他国よりはるかに早く効果を発揮したようで、まとまった発注の話が伝わってきた。これは非資本主義国家なればこそ可能となる得点だ。 
Industrial Laser Solutions(ILS)にも、買い手が大きな発注をしたと伝わるようになり、2010年上半期の営業報告書には、売上高が増加して黒字化したいくつかの企業が現われた。第3 四半期が終わると、販売が最高記録を示したと聞くことが当たり前になり、その多くは好調なアジア、とくに中国の経済と、不況の圧力に屈しなかった前述の産業分野の発注から生まれた。レーザ産業は、耳の痛い表現だが、2番底の不況によって、残った片方の靴も脱げてしまうのを待つ状況だった。サプライヤは月ごとに事態が悪化していくことを恐れたが、2番底は来なかった。世界の生産国のビジネスニュースはすべてが明るいものとなった。しかし、驚いたことに、今でも傷を負ったままの市場もある。つまり米国である。米国ではジョブショップ分野の損失が止まらず、四半期ごとに倒産のニュースが増えている。レーザ板金切断装置など、高価な製品の市場は高品質の大量在庫となり、買い手の関心を引き付けたのは新品同様の(中古の)レーザ加工機だった。
2010 年の最後の数カ月が過ぎると、ほとんどすべての会社の株主宛の報告書には、良いニュースが載るようになった。板金加工分野の慢性的な問題を除けば、ビジネスは良好なばかりでなく、規模が拡大した会社すら現われた。四半期ごとの二桁の販売増加は当たり前となり、40% 以上の増加を報告する会社も現われた。
不況の2 番底の恐怖は葬られ、従業員は再雇用され、労働時間も延長され、正常な状態に戻った。低下した在庫量に妨げられている市場もあるが、それがなければ、ILS が追跡調査した会社はすべてが黒字だったはずだ。最後の四半期が終了したときの営業報告書によると、われわれが調査した35社のなかで通年の赤字を計上したのは6 社だけとなり、そのなかの1 社を除いて、赤字になったのは最後の四半期だけであった。これらの会社も次の四半期には黒字に戻ると予測していた。また、独トルンプ社( TRUMPF)は二桁の成長になると予測していた。 
この報告書のために、われわれが会社ごとの分析を始めると、固体レーザとファイバレーザ市場は予想以上に好調に推移し、販売数量の増加は20%を超えることがすぐに明らかになった。この増加は昏睡状態にある高出力CO2市場の埋め合わせに十分で、2011年の産業用レーザ市場は2008 年の水準にまで完全に回復すると予測した。この回復は、われわれの2010年初めの予測に比べると約1年の前倒しになる。

釣り針状の回復

2010年の販売状況は、最初の予測では、著者から見るとナサニエル・ホーソーンの著書『緋文字』の「A」の文字とほとんど同じ曲線になると思われた。産業用レーザの販売台数は1990 年代初めの小さな落ち込みを除いて、40年にわたる成長を維持したが、2009 年になると30%を超えるマイナスとなり、2008年レベルへの回復には何年もかかると思われる大きな割れ目が発生した。この評判の悪い曲線は1年にわたって世界中に現れ、この記事の著者を巻き込み、落ち込み度合いの大きさと産業用レーザ市場の長期的な健康状態に関する幅広い議論が巻き起こった。その結果、A の曲線が採用されたのだ。しかしながら、固体レーザとファイバレーザの販売に牽引されて、現在の曲線は図1に示すように、むしろ釣り針の形状に近く、わずか1 年先には本来の状態にまで回復すると思われる。驚くべきことに、2008年末のCAGR(年平均成長率)は19.63%であったが、激しい不況を経験した後の2010年末のCAGRはわずか17.99 %への低下で済んだ。 
表1 は最近4 年間の産業用レーザの売上高をまとめている。この表を一見すると、今回の記録的な不況からの急速な回復を大局的にみることができる。この非常にポジティブな表は、産業用レーザ分野を構成する会社の多くが経験した今回の不況について、その苦痛が小さかったことを意味するものではなく、産業用レーザ市場が多様化し、米国の歴史では2 番目に厳しい不況を克服できるまでに成長していたことを示している。各企業が今後の予測を変更しなければ、産業用レーザの売上高が不況前のレベルに回復するのは、従来の予想に比べて1 年の前倒しになると言っても過言ではない。

図1 産業用レーザの売上高の1970 ~ 2010 年実績 と2011 年予測。

図1 産業用レーザの売上高の1970 ~ 2010 年実績
と2011 年予測。

表1 最近4 年間の産業用レーザ売上高( 100万ドル)。

レーザの種類別の売上高

ここからは2010 年の経済レビューと将来展望を詳しく述べる。表2は産業用レーザの種類別売上高の現状を示している。ILSは4種類のレーザの売上高を追跡し、上場35社の報告値と社内のデータベースとの相関性を分析した。われわれは、まず2009年のデータを修正したが、これは、昨年1月に報告した売上高の推計には第4 四半期の売上高が未公表の会社も含まれ、その会社の予想値をもとにして年間売上高を推計したことによる。これらの第4 四半期の報告書は新年になってから公表されたため、われわれは公表された数値に基づいて、ILS の報告済みのデータを修正した。一般に、これらの修正はわずかな変更で収まる。同様の理由により、表2の2010年の売上高は一つの推定であり、2011年の売上高も各会社の予想値に基づいている。 
2009 年の大惨事を経験した産業用レーザの劇的な回復は、半導体、太陽光発電、医療機器、ディスプレイ、LED、航空宇宙、自動車産業などへの固体レーザとファイバレーザの販売に牽引されている。これらのレーザは41% の増加という強力な二桁成長を示し、高出力CO2 レーザの緩慢な回復を埋め合わせた。CO2 レーザの売上高は18% の増加になったが、2009 年の売上高は40% も減少したため、この分野が不況前のレベルに戻るにはさらなる回復が必要である。半導体レーザとエキシマレーザから構成される「その他」分野は、成長率が不況前のレベルに回復した。 産業用レーザが2010 年に示した21%の全体売上高の成長は、2009年の30%も減少した「底」からの増加であり、2011年に予測される二桁の成長を考えると、その回復は満足すべき状態にある。表2 のアーチ状の推移に注目すると、産業用レーザの不況前のレベルへの回復に対する固体レーザとファイバレーザの貢献がよく分かる。 表3 は表2 のデータを材料加工レーザ装置の売上高へ拡張して示している。レーザ装置は、レーザ装置の売上を報告目的に細分化しない企業グループによって販売されているため、われわれは、長年の慣例通り、レーザの販売台数に基づく一組の公式を用いて装置の売上を算出した。この理由のために、われわれの推定は控え目になっている。したがって、データは絶対値ではなく、動向を示していると考えて欲しい。 20% の減少を示した2009 年の市場の大混乱を経て、2010年の産業用レーザの売上高は20%の反発となり、大きな不安は解消された。ファイバレーザは鋼板切断用の販売が増加し、年間を通じて昏睡状態にあった市場分野の販売を目覚めさせたが、以前は全体の装置売上高に大きく貢献した(40%以上)金属切断用レーザ売上高の減少の埋め合わせには不十分であった。2010 年は固体レーザとファイバレーザの好調が装置販売の増加に貢献し、それらのシェアは43%に達した。2011年は2010年の成長が再現されると予測している。 
図2 は2010 年の用途別の売上高を2009年との比較で示している。2010年はレーザ全体の54% が金属加工用として販売され、その65%が金属切断用に使用された。

図2 レーザの用途別売上高( 100万ドル)。

図2 レーザの用途別売上高( 100万ドル)。

表2 産業用レーザの世界売上高( 100 万ドル)。 種類/年2009年売上高2010

表3 産業用レーザ装置の世界売上高( 100 万ドル)。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/04/2011_cover.pdf