スライスとダイシング:民生用エレクトロニクスのレーザマイクロマシニング
高効率のノート型バソコンのスクリーン、大容量フラッシュメモリスティック、高速コンピュータプロセッサは、いすれも機械的切断からレーザマイクロマシニングヘの置き換えによって実現されている。
この数年間でノート型パソコンの電池寿命は3倍になり、メモリカードの容量は増加したが、価格は低下し、コンピュータやスマートフォンなどの電子デバイスは今までにないほど高速かつ強力に動作するようになった。こうした改善には多くの要因が寄与しているが、共通するテーマはレーザマイクロマシニングの利用が拡大していることである。その結果、エレクトロニクス産業におけるレーザマイクロマシニングの需要はかつてないほど増大している。
電池を長寿命にする明るいLED
液晶デイスプレイのバックライト光源は、低効率の冷陰極の代わりに高効率のLEDを使用すると、ノート型パソコンの電池寿命が劇的に延長され、テレビのエネルギー消費が減少する。その結果、LED産業はこれまでに例のない成長を経験している。
フラットパネルデイスプレイに使われるLEDはサファイアウエハ上に薄い(全体で数µm)層として成長しパターン化される窒化ガリウム(GaN)がベースになっている。サファイアはGaNと格子整合する理想的な材料で透明性も得られる。このことはLEDから漏れる光の一部がサファイア基板のエッジを部分的に通過するため重要になる。また、サファイアはかなり良い熱伝導体でもあるため、LEDの熱放散を支援する。しかしながら残念なことに、サファイアはダイヤモンドの次に切断の難しい材料として知られている。
実際には、LEDは標準厚が約100µm、直径が2インチのサファイアウエハ上に大量にパターン化される。最終のLEDチップのサイズはわずか0.5 x 0.5mm以下になるため、それぞれのウエハからは数千個のLEDが生産される。これらのLEDはシンギュレーション(個片化)と呼ばれる工程において物理的に分離される。
伝統的なシンギュレーションは、まずダイヤモンドソーの回転刃を用いてスクライビング(部分切断)され、次に物理的スナッピング(割断)が行われる。しかし、今日のLEDメーカーの多くはレーザスクライビングに移行し、エッジに圧力を加える物理的スナッピングを採用している(図1)。この図では紫外(UV)レーザの集束ビームを用いてサファイアの部分切断が行われる。一般に、数回の走査を繰返してウエハの厚さの約30%が切断され、その後に通常の物理的スナッピングが行われる(図2)。
レーザスクライビングはいくつかの理由によって推奨される方法になっている。第1に、レーザビームを集束して数µm以下のスポットサイズにすると、レーザによるスクライビング幅はダイヤモンドソーによる切断よりもはるかに狭くなり、エッジ損傷(クラッキングとチッピング)の少ないシンギュレーションも可能になる。このことはストリートと呼ばれる間隙が狭くなり、より密集した状態でLEDデバイスを実装できることを意味している。高品質のエッジが得られると、小さなデバイスの場合には実際的ではない後処理も不要になる。これらのことのすべてが歩留りの向上につながり、生産における単位コストの低減をもたらす。また、強いビーム集束は低いレーザパワーでの高速スクライビングを可能にするため、レーザの運用コストも最小になる。
スクライビングにはどのようなレーザ特性が必要になるのだろうか?最も一般的なレーザシンギュレーションでは、266nmのQスイッチDPSS(半導体励起固体)レーザを使用して前側(デバイス側)のスクライビングが行われる。ビーム品質M2は最も重要なレーザパラメータの一つだが、それは低いM2が良好なエッジ品質を保証し、LEDを最小間隔で分離できることによる。基本的に、M2はレーザビームがどれだけ強く集束できるかを数字で表し、完全なガウスビームはM2=1で定義され、最小の集束スポットサイズの理論値が得られる。通常、実際のすべてのレーザはM2>1になる(多くのLEDメーカーは、M2<1.3という値故に米コヒレント社のAVIA 266-3レーザを使用している)。信頼性、パルス間の安定性および目標スループット速度を達成するために少なくとも2.5Wの平均パワーを有することも重要なレーザパラメータである。このレーザの代わりに355nmレーザを使用し、サファイアの裏側からのスクライビングを行うメーカーもいるが、この波長では少量のデブリが発生する。裏側から切断することによって、そのデブリからLED自体を遠ざけることができる。また、サファイアは355nmでは完全に透明となり、非線形吸収を引き起こす高い集束強度を利用しないと加工できないため、この場合にはビーム品質はより重要になる。この加工法では、やはりM2<1.3の値をもっという理由でAVIA 355-5または355-7がよく使われている。また、いくつかのLEDメーカーはコヒレント社のTaliskerのようなハイブリッドピコ秒レーザの使用を検討している。この場合、532nm波長で266nmのナノ秒パルスと等しい結果が得られる。
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