金属の切断加工に切込むファイバレーザ

デイビッド・A・ベルフオルテ

「ニッチ」と言われていたファイバレーザ切断加工機は、予想よりも大きな市場性を有している可能性がある。

わたしは3年前、同僚のアントニオ・ヴェンドラミーニ(Antonio Vendramini)と一緒に、高出カファイバレーザの金属板切断への応用の増大を報告した(1)。われわれは、イタリアのある板金加工メーカーに1台の1kWファイバレーザ加工機を納品するという初期の成功を収めたイタリアのフィンソマック社(Finsomac:www.finsomac.com)を訪間したばかりであった。その際、フィンソマック社の社員と一緒にミラノ地区にある同社のユーザもいくつか訪問した。それまでわれわれはCO2レーザだけがこのアプリケーション用の光源になるとの(いくらか偏見のある)見方をしていたが、このユーザ訪問を通して、運用コストに優位性のあるファイバレーザが金属加工製品の産業分野において大きな役割を果たすであろうと確信した。このときに、われわれは「いわゆるニッチなレーザ加工機が予想以上に大きな市場をもてるものだろうか?」と質間した。
そのわずか3年後の現在、回答は間違いなく「イエス」になったようだ。ファイバレーザ切断装置の市場は、2006年にわずか1ダース以下の台数でスタートしたが、最近では2009年の販売が高出力金属板切断装置全体の約3%になったと推定されている。2009年中に設置されたファイバレーザ切断装置の全数は170 ~ 175台に達したと推定され、今年の総数ではその2倍になり、来年の成長率は50 ~ 60%と予想されている。
この点では、市場サイズを明らかにすることが重要になる。高出力CO2レーザをパワー源にするレーザ板金切断装置は、1980年以降に全枇界で5万台以上が設置され、年間の販売量は3500 ~ 4000台の範囲にある。したがって、この市場へのファイバレーザの参入は、装置サプライヤ業界に対してある種の波動をもたらす。第1に、ファイバレーザはCO2レーザメーカーから市場シェアを奪うことになる。昨年のファイバレーザの販売が全体のわずか3%であり、市場にピンを刺したようなものであったとしても、高出力CO2レーザの供給企業にとっては競合装置の登場になる。第2に、ファイバレーザはCO2装置に関心を示さなかった入門段階のユーザも興味を示す対象となり、レーザ切断装置の全体市場の拡大をもたらす。
第3に、板金切断用商業装置のサプライヤは世界全体で50社を超えるが、これらの企業はファイバレーザとの競合に直面すると、本稿の後半の実例で示すように、自社の製品とファイバレーザ製品を組合せた提供を始めるであろう。向う数年間の市場では、これら三つの要因がまちがいなく大きな混乱を引き起こす。例えば、この特別レポートが報告するように、ファイバレーザ切断装置には実績のあるCO2レーザ装置企業と新しい装置企業の2種類の供給企業が参入している。
なぜファイバレーザは板金切断のエネルギー源として関心を集めているのだろうか?短波長のファイバレーザから得られる高いビーム品質からは、強く集束されたスポットサイズが得られ、このスポットサイズが高い加工速度、大きな作動距離、および高い焦点深度をもたらす。後者二つの利点によって、工作物の加工時の公差が緩和される。
ファイバレーザの高い光効率はウォールプラグパワーの効率的な使用と組合され、電力や冷却のユーティリティコストを低減する。また、光励起の半導体レーザが長寿命で保守の間隔も長くなるため、小規模の工場にとって魅力的なものになる。
小さな切断ヘッドはモーションシステムヘの取付けが容易なため、大きな切断テーブルの複雑さが軽減される。また、このような軽量の部品は高速の移動が少数の部品と軽量の構造で可能となり、動力は精度を保ちながら低減される。ファイバレーザは伝送系装置のため、アラインメントの面倒な多重反射鏡が不要になる。また、レーザビームはファイバに閉じ込められるため、切断点までのビーム光路が封止される。
ファイバレーザの欠点として最初に指摘されたのはアイセーフの問題であった。北米と欧州で販売されるすべての商用レーザは安全規格を満たす必要があり、装置メーカーは規格を順守する製品設計が求められる。鋼板の2次加工の場合、シャトルテーブルはロード/アンロード動作をする切断領域に近づく必要があるため、クラスIのエンクロージャを採用する設計は難しい。したがって、CO2レーザのパワーを使う板金切断装置の多くは、オペレータがビーム/材料の相互作用点から十分に離れ、反射エネルギーが消失するように操作する最大許容露光量のもとで動作する。I.06µmで動作する固体イットリビウムファイバレーザの場合、オペレータは安全エンクロージャの背後にあるビーム相互作用点へのアクセスの制限が必要になる。多くのファイバ切断装置サプライヤは、この点を何とかして順守している。その結果、安全性に関する懸念は軽減されている。
最初の商用ファイバレーザ金属切断装置の作製と販売に成功したのは、フィンソマック社とインドのサハジャナンド・レーザテクノロジ一社(Sahajanand Laser Technology)であった。この2社はこれまでに約100台の装置を販売している。2年前にドイツのハノーバーで開催されたEuroBLECHで6社の切断装置サプライヤが製品を展示したことによって、いうなれば、せき止められていた川が決壊した。その1社のイタリアのサルバニーニ社(Salvagnini)は2009年の全体販売数の40%以上を出荷している。(D.B)

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本稿の執筆時点において、われわれの情報提供の要請に対して回答が得られたファイバレーザ板金切断装置のサプライヤは15社であった。これらの企業プロファイルと製品を要約して紹介する。
ポルトガルのアディラ社(Adira SA:www.adira.pt)は1956年以降、革新的な製品とソリューションを板金加工産業向けに供給している。同社は数年前に、2kWのファイバレーザパワーを使う鋼板切断装置のAdira LFを製品化した。この装置は8mm厚までのステンレス鋼と18mm厚までの軟鋼を切断できる能力を備えている。アルミニウム、銅、真鍮などの反射性金属に専用のLFシステム(図2)は、注文加工工場に理想的な汎用性が得られる。1mmのステンレス鋼の場合、40m/分までのリニアモータ切断速度、280m/分の位置決め速度および2.8Gの加速度の最大生産性を確保できる。LFはファイバレーザの高いビーム品質、高いプラグ効率および保守スケジュールの簡素化を組合せて、コスト効果に優れた切断加工機を実現している。
仏エア・リキード・ウェルディング・フランス社(Air Liquide Welding France:www.airliquidewelding.com)は熱切断技術の世界的リーダであり、3年前に最大1500 x 3000mmの対象物を加工できる2kWファイバレーザ切断装置Fibertome 3015を特許を取得した上で発売した。図3に示すFibertome 3015は、生産性の向上とコストの低減を同時に満たすように設計され、ファイバレーザを用いることで、電カコストを半減し、シールドガス、光学アラインメント、レーザ点検および高圧コンプレッサを不要にし、システムの占有面積と電源コストを減らしている。LCDタッチスクリーンを備えたWindowsベースのヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)はワークステーションを使いやすく快適にしている。オプションのロード/アンロードシステムを利用すると、Fibertome 3015は板金切断用の完全な自動加工機になる。
イタリアのカットライトペンタ社(Cutlite Penta S.r.I:www.cutlitepenta.com)はEl.En.グループの1社で、1992年以降600台以上のCO2レーザ切断装置を世界中に販売している(そのうち100台は米国で販売)。同社は高出カファイバレーザの利点を早くから認識し、図4に示すCutlite Penta PLUSシステムを製品化した。この製品はリニアモータ切断テーブル上に実装された1 ~ 2kWのファイバレーザを使用して、61 x 101インチから81 x 240インチまでのサイズを加工できる。1kWファイバレーザのオプションは4mmまでの板厚に対応し、2kWの場合は12mmまでを加工することができる。ファイバレーザを使用して、真鍮、銅およびアルミニウムに対する最高レベルの切断速度を高い精度と再現性で確保している。
スペインのダノバットグループ社(Danobat Group:www.danobat.com)は、産業の環境と需要の変化に対応して、複合ファイバレーザ(図5)を供給する先導的役割を果している。このレーザは穴あけ、コールドカット、マーキング、ネジきり、レーザ切断などを適切に複合化し、加工工程を最適化して、ユーザの要求をよりよく満たしている。ファイバレーザの主要な利点は、エネルギー消費が少なく、消耗品が少なく(反射鏡など)、保守が容易で(反射鏡のアラインメント)、据付と試連転の時間も短いことにある。1.5kWのファイバレーザには加工面積が1500 x 3000mmのSilver 30と1500 x 4000mmのSilver 40の二つのモデルがある。
イタリアのフィンソマック社(www.cy-laser.com)は外部企業と提携して、高輝度ファイバレーザ切断装置の開発を開始し、2006年にCy-Laserを発売した。フィンソマック社は2009年末までに60台を販売し、2010年の受注はさらに10台以上を上積みしようとしている。Cy-Laserには切断テーブルが3000 x 1500mmから6000 x 2500mmまでの四つのモデルがあり、それぞれは300mmのZ軸を備えている(図6)。標準の装置には二重モータ駆動パレットチェンジャー、独立型「エアクラフト」フレーム構造、吸煙システム、冷却装置、パソコン(PC)指令制御コンソール、切断ソフトウエア、マシン管理および診断装置が含まれている。また、最高111m/分の回転速度が得られる。ファイバレーザは単レンズを使用して、材料の厚さを変えたときに時間のかかる集光の切り替えを容易にしている。このレーザは鋼板ばかりでなく、反射性の材料も切断できる。

図2 アディラ社

固3 エア・リキード社

固3 エア・リキード社

図4 カットライトペンタ社

図4 カットライトペンタ社

図5 ダノバット社

図5 ダノバット社

パワーの供給

米ハイパーサーム社(Hypertherm:www.hypertherm.com)は、40年以上にわたりプラズマ切断に特化してきたが、ファイバレーザ金属板切断市場への参入を今年後半に計画している。同社はFabtechにおいて、ファイバレーザ光源(同社が開発した1.5kW装置)、配送光学系、切断ヘッド、制御盤、運動制御およびソフトウエアを一体化した完全集積自動システムを展示した(図1)。同社の市場戦略は、この一体化システムをそれぞれの運動システムに集するOEMコーザと、現在はプラズマ切断用の運動システムを使用しているが、薄い標準寸法の金属の高精密レーザ切断にはレーザも採用したいユーザの確保にある。ハイパーサーム社のファイバレーザ製品マネージャを務めるダグ・シュダ氏(Doug Shuda)は、「われわれはレーザパラメータの確定を含めて、製品化に必要な開発をすべて完了している。したがって、このシステムは潜在的なユーザとの壁が非常に低い。このことは、ユーザによるプラズマとレーザの一選択が必要なのではなく、両方を使用し個別の加工ごとに最適プロセスが選択できることを意味している」と語っている。
ファイバレーザの魅力的な利点は実質的にメンテナンスが不要になり、CO2レーザよりもエネルギー効率が高いことにある。また、ファイバレーザは床空間やテーブルに上方から近づくことも利点なる。さらにファイバレーザの電源はCO2レーザより小さく、より広いテーブルでも使用できる。

図1 ハイパーサーム社

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出典元PDF
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