なぜM2が問題になるのか

ラジェシュ・パテル
ジェームス・ロバチェク

優れたビーム品質はロバストなレーザスクライビングを意味する。

近年、米国では地球温暖化と海外工ネルギー依存に対する懸念が増大し、風力や太陽光などの代替エネルギー源が大きな関心を集めている。ベル研究所が1954年に「太陽電池」を発明したとき、ソーラ技術は将来の電力になると歓迎された。ソーラが化石燃料との対比で受け入れられたのは、その低平準化コスト(LCOE)にあった。結晶シリコン(c-Si)系フラットパネル太陽光発電(PV)モジュールが最初に商業化されて世界各地に配置されたが、薄膜PV(TFPV)ソーラパネルも大きな歩幅で動き出し、太陽光エネルギーの広範囲な普及を推進している。
フラットパネルPVモジュールの生産では、レーザがさまざまな材料の切断、穴あけ、スクライビングおよびアニーリングに使われている。とくにTFPVの生産では、Qスイッチ半導体励起固体(DPSS)レーザが広く使用され、薄膜層を除去(レーザスクライビング)して、太陽電池にモノリシック集積された直列接続の一部を電気的に絶縁している。この加工は薄膜層を支えるガラスパネルに強く集光したレーザビームを照射して、薄膜材料またはガラスパネル自体から1層以上の薄膜を除去する。最近は低コスト化と小型化が進んだパルスファイバレーザが登場し、レーザスクライビングの次世代方式になろうとしている。しかしながら、ファイバレーザはビーム品質が低い(M2値が高い)ため、この分野では採用が遅れている。ビーム品質が低いと、スクライビングの品質が悪くなり、その結果、歩留りが低下し、投資利益率が低くなる。最近の開発はファイバレーザのビーム品質の改善をもたらしているが、良好なビーム品質、低いコスト、小さなサイズのすべてが同時に実現されるかどうかは検証の必要がある。

薄膜光起電力太陽電池

標準的な薄膜太陽電池は大型ガラス基板に蒸着された透明導電性酸化物(TCO)層、中間の半導体光起電力層、金属簿膜層の3層から構成される。図1は代表的なTFPVデバイスの断面構造を図解している。薄膜太陽電池用の半導体材料には、硫化カドミウム/テルル化カドミウム(CdS/CdTe)、ニセレン化銅インジウムガリウム(CIGS)またはa-Siと微結晶Si(µc-Si)の複合層などがある。
CIGS TFPVデバイスの金属層はガラス基板上にあるが、金属層の直下には半導体層がある。他方、CdS/CdTe、aSi、µcSiなどのTFPVデバイスの金属層は半導体層の上にある。一般に、TCO材料はインジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)および酸化亜鉛(ZnO)が使用され、金属層はアルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)およびモリブデン(Mo)が使われる。太陽電池の基板材料は数mm厚のソーダ石灰ガラス板および10 ~ 100µm厚の高分子膜と金属膜が使われる。
多層構造は、2枚の導体「電極」表面(太陽に向く「前面」電極および「背面」電極)とその間の太陽光吸収層としての半導体(PV)材料からなる。前面の電極は太陽光と電力が最小の損失で伝搬するITOやSnO2などのTCO材料が使われる。
TFPVデバイスの生産では、一般に3回のスクライビング加工(P1、P2およびP3スクライブと呼ばれることが多い)が行われ、その間には各種薄膜の蒸着工程がある。P1スクライブはガラス基板上の第1電極を除去し、P2スクライブは第1電極膜上の太陽光吸収膜を除去する。また、P3スクライブは第1電極膜上の太陽光吸収層と第2電極膜の両方を除去する。これらのスクライブを行うと、メートル規模の大型ソーラパネルはいくつかの狭いPVセルに分割され、それらの電気的動作は直列になる。このようにして、実用性と効率性に優れた低電流で高電流のデバイスが作製される。

図1 薄膜太陽電池の基本的な幾何学配置と昨日の概念図を示している。

図1 薄膜太陽電池の基本的な幾何学配置と機能の概念図を示している。

ビーム品質の影響

DPSS Qスイッチレーザを搭載した様々なレーザ装置が薄膜スクライビング用に採用されているが、1064nmと532nmの波長をもつレーザが広く使われている。最近はさらに低コスト、小型のファイバレーザが登場し、レーザスクライビング用の次世代装置として提案されている。DPSSレーザとファイバレーザは、いずれも短パルスと可変の繰返し速度を得られるが、両者のレーザ装置の大きな違いはビーム品質、つまりM2因子にある。M2因子は基本的に、理論上の正規分布からのレーザビームの偏差を表している。理路上のガウスビームはM2=1となり、実際のレーザビームはM2>1になる。標準のDPSSレーザ装置は優れたTEM00ビームプロファイルと1.2以下のビーム品質M2を備えている。代表的な第一世代のパルスファイバレーザのM2値は1.8以上で、M2=4の大きな値の場合もあった(1)。パルスファイバレーザのビーム品質は新しい世代ほど改善されている。しかしながら、優れたビーム品質、低いコスト、小型サイズのすべてを同じ装置で満足させることは難しいようだ。

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