果物のラベリングを革新する半導体レーザアレイ

スティーブ・ゴートン
スコット・ハワース

バリアブルデータをオンデマンドで印刷できる機能は果物の梱包と流通の両方の業者に利益をもたらす。

2009年10月、生鮮食品へのラベリング市場をリードする米シンクレアシステムズ・インターナショナル社(Sinclair Systems International LLC:www.sinclair-intl.com)は、半樽体レーザアレイ技術にもとづくVPSレーザマーキングシステムを発表した。シンクレア社の既存のラベリング機にVPSシステムを直接取付けると、ラベリングする果物の種類に応じて、バーコード、PLU(製品ルックアップ)符号(図1)、図形などのデータの印刷が可能になる。
このシステムは英インテンス社(In-tense Ltd.:www.intenseco.com)が製造するウルトラワイド半導体レーザアレイを中核部品として使用している。このレーザアレイは個別に制御可能な数百本のレーザビームを放射し、走在技術を使用しなくても、ラベルを単一光路で印刷することができる。シンクレア社は米国カリフォルニア州での現場試験を成功裡に終え、顧客に向けた製品の量産を開始している。
かねてから、果物と野菜の業界ではプリント・オンデマンド、つまり、取付けているラベルの情報を瞬時に変更できる機能の必要性が認識されてきた。これまでのラベルの大部分は商品ブランドの情報と製品のバリアブル(可変)データの両方を印刷している。バリアブルデータをオンデマンドで印刷可能にすることは、果物の梱包業者と流通関係者の双方に利益をもたらす。

図1 レーザーマーキングしたネーブルオレンジのラベル。

図1 レーザーマーキングしたネーブルオレンジのラベル。

梱包業者の利益

果物のラベルには、PLU、生産地、バーコードなどの情報を付加することに対する必要性が増しており、シンクレア社の顧客も各種ラベルの大量在庫が必要になっていた。プリント・オンデマンドの技術を使うと、在庫コストの大幅な節約が可能になり、運用コストも改善できる。
業界リーダの立場にあるシンクレア社は、プリント・オンデマンド技術を導入しようと決めるとすぐに、独自の技術にもとづく製品開発への挑戦を開始した。それまでとは全く異なる技術による製品を開発すると、同社が在庫している製品は不良在庫になってしまう。そのため、新しい技術では、既存のラベリング機に後付でき、機械構造の修正も最小に抑えられるよう設計される必要があった。
オンデマンド方式のラベル印刷を使用すると、果物の梱包業者に必要なラベル貼付装骰の台数も減少する。今までは果物のサイズ選別器ごとに異なるラベルを使用する数種類のラベル貼付装置が必要であった。例えば、果物のサイズ選別器は、大、中、小のサイズに対応する3台の貼付装置が必要になる。果物はラベリング装置の直前に配置する自動装置を用いて「分級」される。分級されたサイズ情報は3台のラベル貼付装慨の1台に伝達され、その果物へのラベリングが行われる。
このような場合に、装備を改良したVPSシステムを使うと、3台のラベル貼付装置は1台の装置に置き換えることができる(図2)。新しい貼付装慨にはラベルのリールが取付けられ、それぞれのラベルには商品ブランド情報だけが記載され、それ以外の空白部分はバリアブルデータ用に残される。サイズデータはVPSシステムに伝逹され、空白部分には適切なPLU符号やバーコードが印刷される。
プリント・オンデマンド技術はラベルの在庫量とラベル貼付装置数の削除ばかりでなく、ラベリングの効率化にも役立つ。在庫管理は簡単になり、SKUの必要性は減少し、不要となるラベル量も減少する。製造ラインの不足や増設も、もはや問題にならない。同様に、ラベル在庫の過剰あるいは不足にともなうコストも減少する。作業者のラベル交換にともなうエラーや労働時間も改善される。

図2 果物ラベル用に改造されたVPSレーザーマーキングシステム。

図2 果物ラベル用に改造されたVPSレーザーマーキングシステム。

流通業者の利益

食品の安全性とトレーサビリティの重要性はますます増大している。ここ数年は新聞でも食品安全に関する数多くの騒動が報道されている。VPSシステムはPLUとバーコードの符号ばかりでなく、日付けと場所も印刷できるため、ラベルによる流通経路の追跡が個別のレベルで可能になる。

利用可能な技術

シンクレア社は、インテンス社のDLAM半導体レーザ技術にもとづくシステムの開発を決定する前に、さまざまな技術を検討した。
表1は利用可能ないくつかの技術を比較して示している。
シンクレア社と競合する会社の多くは、インクジェットや感熱式プリンタなどの技術にもとづくシステムを試行したが、必要な品質と信頼性を市販可能なコストで提供するシステムを製造することはできなかった。
ラベルのレーザマーキングは、それ以外の技術の場合に発生する欠点の多くを克服できる。レーザマーキングでは非接触法のため、印刷品質の擦れや劣化などの間題が起こらない(感熱紙印刷法では問題になる)、消耗品が必要ない(インクジェット法はインクの粘度の注意深い監視と管理が必要になる)、果物の表面と相互作用しないため、果物には損傷が生じない(果物への直接レーザ書込みは傷を付ける)などの利点が得られる。

表1 果物のラベリングに利用可能な技術の比較

表1 果物のラベリングに利用可能な技術の比較

感熱紙または熱転写

感熱方式の印刷はラベルを印刷する際の印字ヘッドが確実にラベルと接触する。その結果、印字ヘッドの磨耗と印刷品質の低下が起こる。このことは塵埃や果物からの汚染が起こりやすい梱包現場の環境では重要な問題になる。印字ヘッドが磨耗すると、印刷内容の欠落が頻繁に起きる。
シンクレア社が使用するラベル基材は技術と製品の重要な要素となる。ラベルの柔軟性と順応性は果物にいったん貼付けたラベル接着の信頼性を確保するための重要な性質になる。印字へッドがラベルと接触する感熱紙印刷法は熱が発生する。そのため、薄くてロバストなラベルの使用が必要になる。しかし、これにはラベルが堅くなったり、接着力が減少するといった副作用がもたらされる。
感熱式プリンタを通過するラベルは移動するラベルの精密制御が必要になる。精密制御は貼付装置の機械的位置決めとの組合せで行われるが、そこでは貼付装置に到着する前の果物に印刷しなければならない。ラベルの印刷は、平均して貼付ける10個前の果物に対して行われる。その結果、コンベアが停止したり、果物がコンベアから落下したりすると、問題が起きる。
おそらく、この用途に感熱式印刷を適用する際の最大の問題は消耗品のコストと管理であろう。印字ヘッドは500 ~ 750kごとの交換を必要とするため、この交換の手間とコストは感熱式印刷の弱点になる。

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出典元PDF
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