レーザーを用いた流体計測技術はさまざまあり、写真あるいは高速ビデオ撮影によって液膜表面波挙動や液膜内速度場を観察する方法に、光発色性染料法(photochromic dye)や蛍光染料法(fluorescence dye)がある[1]。その他にも、近年のエレクトロニスの急速な発展に伴って、レーザー変位計は益々高性能化され、混相流計測技術への展開が今後十分に期待できる。以下、詳しく説明してゆく。

1.レーザー誘起蛍光法

この方法は、紫外光(UV)やレーザーなど特定波長領域の光による化学反応で発色したり、あるいは励起し蛍光を発する物質を作動流体中に微量溶解し、測定断面にシート状または点状のレーザー光(またはUV光)を連続的またはパルス状に照射し、発色または発光を観察するものである。

図.1

図.1にphotochromic dye tracingを用いたHewittらによる光学測定系を示す[2]。用いたパルスレーザーは出力0.3mJの窒素UVレーザーで、発色性染料トレーサは1’3’3′ trimethyl indolinobenzo-pyran photochromic dyeである(作動流体はトリクロロエチレン)。川路も作動流体にケロシンを、発色染料にtrimethylindoline-6-nitro-benzopiropyran(TNSB)を用いて種々の観察を行った[3]。その結果、最も良い結果が得られたのは染料の質量濃度がおよそ0.01%の時であったと報告している。また、図.2に示すように、川路は液膜内の複雑な多次元流れ(たとえば、波状流やスラグ流のような2次元性の強い流れ)を観察するため、同時に3本の発色軌跡が見られるように光学系を設定した。

図.2

こうした多次元性の強い流れでは異なるレンズ系を通過してきたUV光による線状の発色軌跡は互いに交差し、縞状のラインを描く。図.3は自由落下液膜流の擾乱波の下に形成される渦の運動を捉えたものである[4]。

図.3

図.1や図.2に示した方法は液膜内の流れの様子を視覚的に観察したり、発色軌跡から定量的な解析をするのに好都合であるが、液膜厚さの時空間領域での多次元性を計測するには適していない。亀井らはこの欠点を克服し、水平矩形流路内を流れる薄い液膜流の3次元時空間特性や表面波の進行速度を精度良く測定する蛍光染料法を提案した[5](図.4)。

図.4

図.4において、作動流体である水に極微量の蛍光染料ローダミンBを溶解させる。ローダミンBは波長200~600nmの光で励起され(517nmで最も強い)、590nmの蛍光を発する。励起光にArガスレー ザーを使用し、レーザー光を遮断するフィルターを用いれば、暗室状態下で容易に蛍光のみをカメラで撮影することが出来る。この測定では、Arガスレーザー光を厚さ0.1mmのシート状にして、透明アクリル製試験部底部下方から流体中に導入した。蛍光の残光時間は数μ秒程度であり、この間に流体が移動する距離はレーザーシートの厚さに比べ十分小さい。ビデオカメラを試験部下方に流れの上流側から45度の角度に設置し、撮影する。液膜に起因する蛍光の強度分布を高速ビデオで撮影し、コンピュータで二値化、画像解析することで、流れの瞬時液膜厚さ情報が得られる。液膜厚さ測定精度は約50μm程度である。レーザーシートを流れに直交して試験部に垂直に導入すれば、流れの任意断面の瞬時液膜厚さ分布が求められる。図.5はこのようにして求めた流路断面内液膜厚さ分布の測定例を示す。

図.5

また、レーザーシートを流れに平行に導入すれば 、得られた波高分布(図.6)の等高線図の時間変化率から、等高線の傾きとして波の進行速度が計算できる。この蛍光染料法は多次元絶対測定法であり、較正の必要が全くない点が大きな利点である。なお、図.6の横軸、縦軸、高さ軸はそれぞれ流れ方向位置、経過時間、液膜厚さ(0~5mm)である。図.7は擾乱波流の液膜厚さによる時間依存分布の等高線図である。下図の結果はともに、見かけの液相流速0.04m/s、見かけの気相流速8.0m/sの場合の結果である。

図.6

図.7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.レーザー変位計を用いた液膜厚さ測定法

混相流研究へのレーザー変位計の応用は、曲面を持った放射状の狭い流路の中を気泡が流動する際の局所ボイド率の測定と壁面での残留液膜を測定するのに芹澤らが用いたのが最初である[6,7]。その後、液膜測定用の超音波エコー法を開発する際、その比較較正のためにキーエンス社の好意により、当時30数万円もしたレーザー変位計(LB-40型)(分解能2μ)を借用して液膜の測定を行い、開発途上の超音波エコー法や点電極法による測定結果と良い一致を得た[8,9](図.8)。後に、賞雅ら[10]が液膜測定に用いた高性能レーザー変位計が開発されたが、数100μm ~ 数mm程度の液膜厚さを求めるには、当時のものでも十分である。図.9にその測定原理を示す[11]。

図.9

図.8

 

 

 

 

 

 

 

 

原理は以下の通りである。発光ダイオード(LED)の光をレンズを通して細く絞り対象物に照射し、拡散した反射光を受光レンズにより光位置検出素子上にスポットとして結像させる。対象物が変位すると、このスポットが移動し、その移動量は対象物の変位にほぼ比例する。このスポットの位置を光位置検出素子が電気信号に変換し、コントローラ内の演算回路により、対象物の反射率とは無関係な変位出力が得られる[11]。この原理を利用して液膜厚さを測る場合、流路壁が透明材であれば液側の壁の背後にレーザー変位計を設置することが可能である。同様に気相側からも液膜厚さを測定することも出来る。後者の場合、気液界面の位置を直接測定することで液膜厚さを知る方法と、液相側の壁の内面での反射波が気相、液相での屈折率の違いから、液相の深さに応じて変位計で検出される位置が異なることを利用して、液膜厚さを求める方法の2つがある。

図.10

図.10はそれぞれの場合について検出効率を高めるための工夫を示したものである。いずれの測定においても、予め静止液膜を用いて作成した較正曲線から液膜厚さを求めた。最近、賞雅ら[10,12]は高精度レーザーフォーカス変位計(Laser Focus Displacement MeterモデルLT-8100)(LFD)を用いた高精度液膜測定法を開発した。賞雅らが使用したレーザー変位計は先に芹澤らが用いたのと同じキーエンス社製のものであるが、異なる原理によるものである。

図.11

図.11に示すように、半導体レーザーから発振された円錐型ビームはハーフミラーと対物レンズを透過したあと、対象物の表面に入射する。対象物からの散乱光は入射光と同じ経路を逆に辿り、対物レンズを通り、ハーフミラーで反射され、ピンホールに至る。対物レンズは音叉で振動する。音叉の振動自身は位置検出素子によりその位置が検出される。対象物に入射レーザービームの焦点が合った時刻の反射ビームは、ピンホールの後ろにある光検出素子で検出される。このように、音叉による対物レンズの振動でレーザビームの焦点が対象物にあった瞬間の時間が光検出素子で検出され、そのときの音叉の位置検出から、対象物の位置の変化が求められる。賞雅らが用いたレーザーフォーカス変位計のビームスポット径は2μ、対象物の位置変化測定のダイナミック・レンジは28±1mm、空間解像度は0.2μ である。時間解像度は1.4KHzである。

図.12

また、賞雅らは図.12に示すように、2つの変位計(LFD)を流れ方向の2点に設置し、波の進行速度も計測している。その場合の測定可能な液膜表面波の周波数は175Hz以下である。図.13は賞雅らによる水の自由落下流実験における液膜厚さの時間変動の測定例である。

 

図.13

 

参考文献
[1] Hewitt, G.F., Measurement of Two-Phase Flow Paremeters, Academic Press, New Tork (1978)
[2] Hewitt, G. F., Mrtin, C. J. and Wilkes, N.S.,Experimental and Modelling Studies of Annular Flow in the region between Flow Reversal and the Pressure Drop Minimum, PCH Physico-Chemical Hydrodynamics, Vol.6, No.1/2 (1985)69-86.
[3] Kawaji, M., Two-Phase Flow Measurents Using a Photochromic Dye Activation Technique, Nucl. Engng & Design, Vol.184 (1998) 379-392.
[4] Kawaji, M., Two-Phase Flow Measurents Using a Photochromic Dye Activation Technique, Nucl. Engng & Design, Vol.184 (1998) 379-392.
[5] Serizawa,A., Kamei, T., Kataoka, I., Takahashi,O.and Kawara,Z.,Visualization of Dynamic Behavior of a Liquid Film Flow Using a Fluorescence Dye Method, Two-Phase Flow Modelling and Experimentation 1995, Edizioni ETS, Vol.1(1995) 197-201.

[6] 芹澤 昭示、高橋 修、河原 全作、米山 智巳、岐美 格、二層流衝突噴流による伝熱促進、第26回日本潜熱シンポジウム講演論文集(1989) 866-868.

[7] Serizawa, A., Takahashi, O., Kawara, Z.,Komeyama, T. and Michiyoshi, I., Heat Transfer Augmentation by Two-Phase Bubbly Flow Impinging Jet with Confined Wall, Heat Transfer 1990, Vol.(1994) 93-98.

[8] Serizawa, A., Nagane, K., Ebisu, T., Kamei, T.and Kawara, Z., Dynamic Measurement of liquid Film Thickness in Stratified Flow by Using Ultrasonic Echo Technique, Proc. of the 4th Int. Topical Meeting on Nucl. Thermal- Hydraulics, Operations and Safety, April 6-8, 1994, Taipei, Taiwan (1994) 42C-C-1-42-C-5.

[9] 芹澤 昭示、永根 浩平、河原 全作、蛭子 毅、鳥越 邦和、超音波による液膜厚さの測定、混相流シンポジウム’ 94 (第13回) 講演論文集(1994) 289-292.

[10] 賞雅 寛而、レーザーフォーカス変位計による液膜界面波の測定、日本混相流学会誌「混相流」Vol.12, No.1 (1999) 81-

[11] キーエンス社カタログ

[12] Takamasa, T., Kurabayashi, M. and Kobayashi, K., Measurement of Interfacial Waves on a Film Flowing Down Wall Using Laser Focus Displacement Meters and an Image Process-ing Method, Paper presented at the 3rd UK-Japan Mini-Seminar on Multiphase Flow and Nuclear Safety, February 10-11, 2000, Imperial College, London (2000).