1. 光量子コンピュータとは何か

1-1. 古典コンピュータと量子コンピュータ

古典コンピュータが扱うビット(情報の最小単位)は、0か1のどちらかの値を持つ。量子コンピュータが扱う量子ビットは、0と1が重ね合わさった状態を取ることができる。重ね合わせは量子力学が許す状態の作り方で、原子のエネルギー準位や電子のスピンに現れる。
重ね合わせの状態にある量子ビットを測ると、出てくる値は0か1のどちらかである。どちらが出るかは測るまで決まらず、それぞれの出やすさだけが状態によって決まっている。つまり量子ビットが持っているのは、0が出る確率と1が出る確率の組である。
ここで状態という言葉の意味を整理しておく。量子の状態とは、測る物理量を一つ決めたときに、その測定値がどう分布するかを与えるものである。量子ビットの状態は、0と1という二つの測定値の上の確率分布にあたる。ただし状態が直接持っているのは確率そのものではなく、確率振幅と呼ばれる量である。確率は振幅の絶対値の二乗として得られる。振幅は正にも負にもなるため、複数の振幅を重ねると強め合うことも打ち消し合うこともできる。

1-2. なぜ量子だと速いのか

量子ビットをn個並べると、0と1の並び方は 2 n 通りある。重ね合わせの状態は、この 2 n 通りのすべてに確率振幅を割り当てたものになる。nが少し増えるだけで 2 n は急激に大きくなるので、古典コンピュータがすべての振幅を書き留めながら計算を追いかけることは、早い段階でできなくなる。量子コンピュータは、この 2 n 個の振幅を状態そのものとして持つ。
測定して取り出せるのは、 2 n 通りのうち一つの並びである。そこで計算の手続きを組み立て、欲しい答えに対応する振幅を強め合わせ、要らない答えに対応する振幅を打ち消し合わせておく。最後に量子ビットを測定すれば、欲しい答えが高い確率で出てくる。
この強め合いと打ち消しを設計できるかどうかは、問題の構造による。設計できる問題は古典コンピュータより速く解け、それ以外の問題は速くならない。該当する問題は〔→ 4. 何に使えるのか、まだ使えないのか〕で挙げる。干渉の仕組みそのものは〔→ 「量子コンピュータが速い理由」〕が扱う。

1-3. 光の量子状態 ── 光量子コンピュータとは

量子ビットを実際に作る物理系は複数ある。超伝導回路、イオン、中性原子、半導体中のスピン、そして光が使われている。何を物理量に使うかで、装置の形も得意不得意も変わる〔→ 3. 他方式との違い〕。このうち光を使うものが光量子コンピュータである。
光で情報を担う物理量には、光子の数、偏光、電磁場の振幅がある。光子の有無や偏光の向き(縦か横か)はそれぞれ2つの値に絞れるので、光における量子ビットとして利用できる。
光では、1-2 で述べた計算の手続きを光学素子が担う。光学素子を並べた回路に光を通すと、量子状態が別の量子状態へ変わる。素子の並べ方が計算の中身にあたり、出てきた光を光検出器で測定することが答えの読み出しにあたる。
光量子コンピュータとは、光の量子状態に情報を持たせ、光学素子で操作し、検出器で答えを測定する装置である。計算をどう組み立てるかは〔→ 5. どうやって計算するのか〕、装置としてどう構成されるかは〔→ 7. 装置としての全体構成〕。

1-4. 離散量方式と連続量方式

1-3 で見たように、光子の有無や偏光は2つの値に絞れるので、量子ビットが作れる。この使い方を離散量方式と呼ぶ。1-1 で見た量子ビットは、光ではこの方式にあたる。
一方、電磁場の振幅は連続的な値をとる。測定して出てくる値は0と1の二択ではなく、連続的な範囲に散らばる。1-1 で量子の状態を測定値の確率分布と述べたが、振幅の場合、その分布は連続的な値の上に広がることになる。この連続的な値をそのまま使う方法が連続量方式である。
状態の違いは、この分布の形の違いとして現れる。平均が同じ光でも、測定値のばらつき方が違えば別の状態である。ばらつきの形を作り分けることが、光に情報を持たせることにあたる。
連続量方式には、大規模化に向くこと、計算に使う状態を決定論的に生成できるという利点がある。この記事が主に扱うのもこの方式で、それぞれの利点がなぜ成り立つのかは〔→ 2. なぜ光を使うのか〕、実際にどこまで到達しているかは〔→ 8. 実用化の現状と残された課題〕で扱う。
連続量方式では、数える単位が量子ビットではなくモードになる。モードとは、決まった波長・偏光・時間位置を持つ光の振動を一つ分と数えたもので、量子ビットにおける1ビットに対応する単位にあたる。両方式の違いは〔→ 「離散量方式と連続量方式の違い(discrete variable / continuous variable)」〕が扱う。