1. 研究開発の歴史

1970年、石英系光ファイバーの低損失化 (20 dB/km)と、半導体レーザーの室温動作が実現され、光通信の実用化に向けた一歩が踏み出された。これ以降、より高速でより長距離伝送が可能な光通信用半導体レーザーの開発が行われてきた。

初期の光ファイバー通信は、0.8 μmの半導体レーザーとマルチモードファイバーが用いられた。その後、光ファイバーの発展によって、伝送損失の低い帯域が長波長化し、1.3 μm帯や1.55 μm帯が用いられるようになった。また、長距離伝送化において、横モードの伝送速度差による影響を取り除くため、単一横モードの光ファイバー (SMF: single mode fiber)が用いられるようになった。

光ファイバーの理論限界の伝送損失 (<0.2 dB/km)が1.55 μm帯で達成されてからは、長距離幹線系にはこの帯域が用いられるようになった。1.55 μm帯は、光ファイバーの分散特性の影響を考慮する必要がある。レーザー光は、高速に変調すればするほど、そのスペクトルに広がりが生じる。長距離を伝送すると高速な信号光の波形が乱れてしまうことから伝送距離が制限される。これを回避するため、変調をしてもスペクトルの狭い信号光が得られる分布帰還型 (DFB: distributed feedback)レーザーの実用化が進んだ。

その後、エルビウム添加光ファイバー増幅器 (EDFA: erbium-doped fiber amplifier)が開発されると、半導体レーザーの高速変調に伴って生じる周波数の動的変化(光チャープ)が伝送距離を制限する要因となった。これを回避するため、外部光変調器を用いて光変調する方式が提案された。外部変調方式には、LiNbO3結晶を用いるものと、化合物半導体結晶を用いるものがある。電解吸収型 (electro-absorption)光変調器を集積化した変調器集積DFBレーザー(図1)では、40 Gbit/sまでの高速動作が実現されている。

また、1980年代後半に現れた光ファイバー増幅技術は、無中継長距離伝送を実現したとして、光通信技術に大きな変革をもたらした。光ファイバー増幅器には、ファイバー中に添加された希土類イオンを励起する方式と、ラマン増幅を用いる方式があり、これらの励起には0.98 μm帯や1.4 μm帯の半導体レーザーが用いられる。また、波長を光信号の経路としてとらえることが可能となり、発振波長を30 nm程度変えることのできる波長可変な半導体レーザーの開発が注目されている。

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図1 変調器集積半導体レーザー[2]。

2. 基本構造

簡単に言ってしまえば、半導体レーザーとは、電流を流すと発光するダイオードである。光通信では主に1.3 μm帯や1.55 μm帯のものが用いられる。活性層に順バイアス電流を与えると発光が得られる。バンドギャップの広い結晶に活性層が挟まれた構造を形成することで、活性層にキャリア(電子と正孔)が閉じ込められ、発光効率を高めることができる。活性層の屈折率は周囲の半導体結晶よりも僅かに高く、活性層に沿った導波路が形成される。ファブリペロー形の半導体レーザー(FPレーザー)では、結晶の劈開面が共振器のミラーとなる。これにより、活性層中で誘導放出が起こり、レーザー発振が得られる。DFBレーザーはFPレーザーと異なり、活性層近傍に刻まれた回折格子によって共振器構造を形成する。

光信号は、レーザーに与える電流量の変調によって生成される。これを直接変調という。直接変調方式と外部変調方式の特徴を表1に示す。また、集積型半導体レーザーでは、EA光変調器とDFBレーザーが一つの素子上に形成されており、EA光変調器に逆バイアス電圧を与えて光を吸収することで光信号が生成される。直接変調方式と比べて、活性層内のキャリア密度の変動が少ないためチャープを抑制できる。このため、分散による波形崩れの影響を抑えた高速変調が可能である。

表1 直接変調方式と外部変調方式の比較[1]

方式 直接変調 外部変調
レーザー 光変調器+集積レーザー 光変調器+レーザー
構造 構成 一体 一体集積 別体あるいはハイブリッド集積
光源 縦モード制御 DFB DFB DFB
横モード制御 BH BH (ridge) BH
活性層材料 InGaAsP-MQW InGaAsP-MQW InGaAsP
変調器 変調原理 量子シュタルク効果電界吸収 EO効果MZ干渉
横モード制御 BH (ridge) 拡散導波路,ほか
材料 InGaAsP-MQW LN (GaAs)
特性 変調帯域 [GHz] ~20 >40 >30
チャープ指数 2~3 ~0.25 -1, 0, 1

2.1 活性層の構造

半導体レーザーが実用化された当初は、活性層には薄膜結晶が用いられていたが、現在では多重量子井戸 (MQW: multi quantum well)構造が用いられる(図2)。量子井戸とは、10 nm程度の厚みを有する結晶が、それよりもバンドギャップの大きな結晶に挟まれた構造であり、それが多重になったものがMQWである。他の構造に比べて量子井戸構造では、レーザー発振のしきいとなる電流密度を数分の1に抑えることができる。

量子井戸レーザーは1975年にGaAlAs系材料を用いた最初の試作結果が報告され、1980年に通常のDH構造レーザーの1/3程度のしきい電流密度(0.25 kA/cm2)を示すことが実証されて以来、研究が盛んになった。有機金属気相成長法によってInGaAsP系量子井戸構造が作製されてから、通信用半導体レーザーへの適用がはじまった。

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図2 活性層の構造。(a) ダブルへテロ構造、(b) MQW構造。

2.2 横モードの制御

半導体レーザーの横モードの制御には、①利得を場所によって制限する利得導波構造と、②結晶の屈折率差によって制限する屈折率導波構造がある(図3)。利得導波構造は、電流を注入する電極の直下で電流密度が高くなることを利用して発振光を閉じ込める。屈折率導波構造は、異なる結晶の十分な屈折率差によって導波路を形成することで発振光を閉じ込める。後者は、共振器内の光密度が高まって活性層内のキャリア密度が低下しても安定な導波が得られることから、光通信をはじめとして、多くの半導体レーザーに用いられる。

屈折率導波構造において、ストライプ状の活性層の帯を結晶中に埋め込んだものを、埋め込みヘテロ (BH: buried hetero)型という。InGaAsP系レーザーでは、敷居電流値の温度依存性が比較的大きいため、動作電流が有効に活性層部に導かれるBHレーザー構造が多用されている。活性層幅は高次モードのカットオフ条件を満たすように設計され、1~2.5 μm程度である。また、BH構造以外にリッジ構造を採用しているものもある。この構造では、低容量化が容易であるほか、酸化性の比較的強いInGaAlAs系結晶においてもレーザー構造を作りやすいといった利点があり、高速デバイスに用いられている。また、埋め込みリッジ構造は光ファイバー増幅器の励起光前に用いられている。

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図3 半導体レーザーの横モード制御。(a) 利得導波構造、(b) 屈折率導波構造。

2.3 縦モードの制御

光ファイバーはガラス材料と構造で決まる伝搬定数が、波長依存性を持つ。このため、複数モードで動作する半導体レーザーを光源に用いると、分散特性によって波形がひずみ、伝搬距離が制限される。この問題を回避するためにDFBレーザーが用いられる。DFBレーザーは、活性層中に回折格子を形成することにより縦モードを選択する。このため、活性層中のキャリア密度が変動する高速変調時においても、単一の縦モードで動作できる。

回折格子の形成にはArレーザーなどを用いた2光束干渉法や電子線描画法が用いられる。縦モードの選択制をより高めるために様々な工夫がなされており、例えば、レーザー共振器中で回折格子の山谷を反転させたλ/4シフトDFBレーザーや、活性層に直接回折格子を刻んで利得の周期構造を導入した利得回折格子DFBレーザーなどが開発されている。通信用に主に用いられるInGaAsP系半導体結晶は、酸化性が弱く、また転移が増殖しにくいため、活性層上あるいはごく近傍に回折格子を形成できる。

DFBレーザーと同様、回折格子を用いて縦モードを選択するレーザーに分布ブラッグ反射型半導体レーザー (DBR-LD: distributed Bragg reflector laser diode)がある。DBRレーザーは活性層の外部に回折格子を集積した構造である。コヒーレント通信用の局発光源として研究が進められ、現在では波長可変レーザーの一方式となっている。

3. 光通信で用いられる各種半導体レーザー

光通信では、伝送路であるシリカ系光ファイバーの伝送損失が少ない1.3 μm帯や1.55 μm帯の半導体レーザーが主要光源として用いられる。この他にも、光増幅のための励起用光源や短距離光リンク用に異なる帯域の半導体レーザーが用いられる。ここでは、光通信で用いられる幾つかの半導体レーザーを紹介する。また、表2には、各波長帯における半導体レーザーモジュールをまとめる。

3.1 0.8 μm

マルチモードファイバーと組み合わせてデータリンクに用いられる。特に面発光レーザー(VCSEL: vertical cavity surface emitting laser)を用いたギガビットイーサなどの短距離データ伝送用光源への適用がはじまっている。

3.2 0.98 μm

1.55 μm帯の光信号の増幅に用いられるEDFAの励起光源として用いられる。この帯域による励起では、雑音指数の低い光増幅が行える。このため、受信側の前置増幅や中継増幅器の前方励起用に用いられる。

3.3 1.3 μm

FL型のものはFTTH (fiber to the home)や150 Mbit/s以下の加入者系(subscriber line)、2.5 Gbit/sまでの局内配線あるいはデータリンク用の光源として用いられる。

DFB型のものは、支線系やデータリンクに用いられるほか、ケーブルテレビジョン用のアナログ変調レーザー、光ファイバー伝送路の保守や検査に用いるOTDR (optical time domain reflectance)用パルス光源に用いられる。

3.4 1.4  μm

主として、EDFAの励起光源として用いられる。1.55 μmに近い波長であるため、エネルギー変換効率に優れる。0.98 μm帯と比較して、高出力化に適しており、後方冷気による大出力EDFAに用いられる。また、誘導ラマン散乱を用いて信号増幅を行うラマン増幅器の励起光源としても用いられる。

3.5 1.5 μm

光ファイバーの低損失帯域にあるため、幹線などの長距離伝送用光源として用いられる。この帯域では、光ファイバーによる分散の影響が大きいため、単一の縦モードで発振するDFBレーザーが主流である。

表2 通信用半導体レーザー[1]

波長[μm] 構造 結晶材料 基板結晶 光出力[mW] 主な用途
縦モード 横モード
0.85 VCSEL GaAlAs GaAs 1 データリンク (~10 Gbit/s/ch)
0.98 FP BH(ridge) InGaAs
/AlGaAs
~500 EDFA励起光源 (1.5 μm帯増幅用)
1 EDFA励起光源 *(1.3 μm帯増幅用)
1.06 EDFA励起光源 *(1.4 μm帯増幅用)
1.31 VCSEL* GaInNAs 0.5 データリンク (~2.5 Gbit/s/ch)
FP BH(ridge) InGaAsP
InGaAlAs
InP 5~15 FTTH (~155 Mbit/s), 局内配線,データリンク (~10 Gbit/s),PON (~155 Mbit/s)
DFB 5
30
300
支線,データリンク (10 Gbit/s)
CATV
OTDR (パルス)
1.48 FP ~500 EDFA励起光源
1.4 ラマン増幅器励起光源
1.55
(1.47 ~ 1.61)
5 FTTH (~155 Mbit/s)
DFB 10
50
200
幹線,メトロ,データリンク (2.5 ~ 10 Gbit/s)
外部変調器用光源
OTDR (パルス)
EA集積DFB 5 幹線,メトロ,データリンク (2.5 ~ 40 Gbit/s)
DFBアレイ* 10 メトロ (波長可変光源)
DBR* 10
MEMS-VCSEL* 1
OTDM*

*研究開発・少量生産

4. レーザーモジュール

半導体レーザーは、デバイス性能や寿命が外界の影響を受けやすいため、パッケージに内包されている。また、パッケージには光ファイバーとの安定な接続を果たす狙いもある。各種パッケージタイプについて以下に記す。

4.1 CAN型

このタイプは、半導体レーザーとモニタ用のフォトダイオード (PD)が、筒状の金属で覆われ、機密封止されている。レーザー光は上面に取り付けられたガラス窓やレンズを介して取り出される(図4)。光ファイバーが取り付けられたピグテール型と、外部で光ファイバーと接続するレセプタクル型がある。イーサネットなどの小型モジュールに使用され、低中速から高速 (~10 Gbit/s)動作するものが開発されている。

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図4 CAN型半導体レーザーモジュール[3]

4.2 バタフライ型

長方形の金属の容器の中に、半導体レーザー、モニタ用PD、冷却用ペルチェ素子が内包されている(図5)。回路との接続用ピンが左右対称に配置されていることからバタフライ型と呼ばれる。外部からの高周波信号を入力する端子がついたものもある。高周波配線が容易であったり、光学部品を配置したりしやすいことから、高性能、高機能な半導体レーザーモジュールが実現できる。

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図5 バタフライ型半導体レーザーモジュール[4]。

4.3 樹脂型

これは、半導体レーザーやモニタ用PDをシリコーン樹脂で簡易的に封止したタイプである。低コスト化が可能であるとして、現在研究開発が進められている。

参考文献

[1] レーザー学会、「レーザーハンドブック第2版」オーム社(2005)
[2] 東芝レビュー
[3] LASER 66.com
[4] Optipedia: ファイバーカップルLDの構成
[5] Laser Diode Selection