特長

ラマン散乱顕微鏡は試料に標識をつけなくても蛍光を観察できる点で優れている。ただし、自発ラマン散乱光が極めて微弱なので、蛍光に比べてラマン散乱光が弱い(ラマン散乱断面積:10-30cm2、蛍光分子の吸収断面積:10-16cm2)。また、生物の場合は自家蛍光が混入してしまうので、自家蛍光とラマン散乱光が重なった場合、試料を観察することができない。

原理

ストークス光とアンチストークス光

物質にある波長の光を当てると通常は同じ波長の光が散乱する。しかし、一部の散乱光はその物質を構成する分子の分子振動によって波長が変化する(ラマン効果)。波長の変化したラマン散乱光は、波長が短くなるか長くなるかでストークス光とアンチストークス光の2種類に分類できる。入射光(振動数ω0)とこれら2つの光の関係を図1に示す。

  • ストークス散乱:周波数シフト量Δωだけ振動数が小さくなる(波長が長くなる)
  • アンチストークス散乱:Δωだけ振動数が大きくなる(波長が短くなる)
入射光と2つのラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)の関係

図1:入射光と2つのラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)の関係 ※各ラマン散乱光の進む方向は概念的に示したものであり、実際に各光が進む方向ではない。

図2はストークス光とアンチストークス光の発生原理を簡単に説明したものである。

ストークス光とアンチストークス光

図2:ストークス光とアンチストークス光

通常の分子は振動基底状態にある。それが光によって中間状態に遷移し、その後に振動励起状態に戻る。このとき発生するのがストークス光。一方、分子が熱的に励起されている場合などは、振動の励起状態から遷移して基底状態に戻る。このときに発生するのがアンチストークス光である。通常は強度の強いストークス光を用いて分光分析が行われるが(通常、分子は振動基底状態にあるため)、アンチストークス光を用いたCARS顕微鏡もある。(CARS顕微鏡についてはページを改めて説明する。取り急ぎ、参考文献をご覧下さい)

ラマンスペクトルとラマン散乱顕微鏡によるイメージ

ラマン散乱光(ストークス光とアンチストークス光)は分子固有のものなので、このラマンスペクトルを観察することで分子を識別できる。図3はウィルスのラマンスペクトルである。図を見ると水分子やamide Iなど、ラマン散乱光による複数のピークが含まれていることが分かる。このラマン散乱光を分光器に通して検出することで分子の情報が得られる。

ラマンスペクトル

図3:ラマンスペクトル 引用:G.J.Thomas,Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 28. 27 (1999)

ラマン散乱光の強度を色の違いを横軸にしてグラフにしたものがラマンスペクトルである。ラマン散乱顕微鏡では、分光器によってこれらのラマンスペクトルを一括して取得できるが、それでは時間がかかってしまうので、通常はバンドパスフィルタで見たいスペクトルだけを取り出す。

図4はラマン散乱顕微鏡をバイオ応用に用いた例である。

Bioimaging by Raman scattering microscopy

図4:Bioimaging by Raman scattering microscopy 引用:K.Fujita, Mol. Cells, 26, 530 (2008)

応用分野

同じ分子で構成された結晶でも結晶構造が異なれば固有の分子振動数を持っているので、ラマンスペクトルが異なり、ラマン散乱顕微鏡によって結晶を識別することができる。このことから、ラマン散乱顕微鏡はカーボンナノチューブの研究に用いられている。さらに、同じ物質でも応力などによってラマン散乱が変化することから、半導体などの微細欠陥解析にも利用されている。

参考文献