誘導パラメトリック発光 (Stimulated Parametric Emission : SPE) もまた、CARSと同様に2つの波長の異なる光を物質に入射したときに、入射光と異なる光が発生する非線形光学現象である。しかし、その発生プロセスはCARSとは異なる。図1にSPE光の発生プロセスを示す。

CARSプロセスとSPEプロセスのエネルギーダイアグラム

図1:CARSプロセスとSPEプロセスのエネルギーダイアグラム。破線は仮想励起準位。Ωは分子振動エネルギーを表す。

CARSでは、図1(a) のようにポンプ光 (角周波数ωpで記述) とストークス光(角周波数ωsで記述)により、物質のエネルギー遷移が交互に上下した後、CARS光(角周波数ωCARSで記述)が発生するのに対し、SPEプロセスでは図1(b) のように、ポンプ光(角周波数ωpで記述)で2光子励起された後、ダンプ光と呼ばれる光(角周波数ωdで記述)で物質のエネルギー準位が下がりSPE光(角周波数ωSPEで記述)が発生する。

SPE光が増強される点も異なる。CARSでは、ポンプ光とストークス光の周波数差が分子の振動数に近似するとCARS光が増強されるのに対し、SPEはポンプ光によって2光子励起されたときのエネルギー準位が電子励起準位 (図1(b)ではExcited stateと記述) に近いときSPE光が増強される。

このSPE光を検出してイメージングを行う顕微鏡をSPE顕微鏡と呼ぶ。SPE顕微鏡の基本構成を図2に示す。構成はCARS顕微鏡とほぼ同じである。ストークス光の代わりにダンプ光と呼ばれる光パルスを用いる。

SPE顕微鏡の基本構成

図2:SPE顕微鏡の基本構成。DM:ダイクロイックミラー、Obl:対物レンズ

注意すべきこととしては、ポンプ光、ダンプ光の波長のセッティングである。ポンプ光とダンプ光の周波数差が試料内部の分子の振動数と近かった場合、SPE光だけではなくCARS光も発生してしまう。SPE光とCARS光の波長は同じであるため、光学フィルターでCARS光のみをカットすることはできない。そのためSPE光のみを検出するには、あらかじめ試料内部の分子の振動数を調査して、ポンプ光、ダンプ光の周波数差と分子の振動数が同じくらいにならないように、ポンプ光とダンプ光の波長をチューニングする必要がある。

SPE顕微鏡の提案は2006年と比較的最近であるため、CARS顕微鏡のように多く研究されていないが (ちなみにCARS顕微鏡の提案は1982年) 、電子励起準位は分子によって異なるため、CARS顕微鏡のように分子イメージングや物質識別が可能であると期待されている。