低損失、偏波無依存を低消費電力で実現した光スイッチ
低消費電力が問われる時代になっている。消費電力が少ないことは重要であるが、それだけでは十分でない。光スイッチングに使われるデバイス技術では、低損失、低価格、偏波無依存、将来を見据えるなら高速性も求められる。PLZT光スイッチは、これら全てを満足する域に達しつつある。
エピフォトニクスのPbl-xLax(ZryTil-y)1-x/4O3(PLZT)光スイッチは、電圧制御でスイッチングするため、他の高速光スイッチ技術に比べると消費電力がほとんどゼロに近いことで知られている。この意味では、PLZTはグリーンテクノロジの最先端にあると言ってもよい。しかし、1年ほど前のPLZT光スイッチは、損失を下げることに苦闘していた。PLZTスイッチは、低消費電力と数ナノ秒(ns)の高速性が特徴ではあったが、低損失化ができていないこと、再現性よく偏波無依存化ができていないことが、光スイッチ市場参入への足枷になっていた。エピフォトニクスの社長、梨本恵ー氏は、昨年来1年かけて集中的にプロセス改善に取組み、課題となっていたこの二つの問題点をほぽ解消し、この9月からサンプル出荷をスタートさせるという。PLZTスイッチの導波路は、固柑エピタキシャル成長で作製する。スイッチデバイスは、導波路が電極によりサンドィッチされた構造になる。PLZT光導波路の構造は、反転リッジ型、リッジ型と改良を重ねてきた。リッジ構造では、PLZT導波路層をエッチングし、クラッド層を挟んで電極を乗せる形になる。
この構造の問題点について梨本氏は、「リッジ型は、電極が少しずれるだけでも損失が大きくなったり特性が劣化したりした。理想的には導波路に対して垂直に電圧が加わってほしい。傾斜面にも電極があるために、電圧は垂直方向と斜め方向にも入ってくる。側壁の粗さにより散乱損失も大きくなりやすい。PLZTは偏波無依存が可能だが、不均ー電場により偏波依存が生じやすい、再現性は必ずしもよくなかった。また電極は光を吸収するので、光に対して電極を隔離する必要がある。その工夫をこれまで繰返し試みたが、電極の損失が低減できなかった」と開発の歴史を語っている(図1)(1)。
この問題点は、埋込型にすることで解消される。新開発の埋込型では、「PLZT導波路層をドライエッチング後、PLZTクラッド層で平坦化している。埋め込まれているため、側壁の敏感さは抑制される。表面が平坦になるので、上部電極と下部電極との間で理想的に電圧を加えることができる」(図2)。これは結果から眺めた言い方だ。梨本氏によると、「埋込型がよいことは最初から分かっていたが、それがうまくできなかったために、反転リッジ型、リッジ型などとさまよった」という。難しさはどこにあったか。
「ポリマなどは、一度に何μmも厚くつけることができ、埋込で問題になることはない。PLZTの固相エピタキシャル成長とは、溶液を塗って結晶化させる方法。溶液をスピンコートでつけるが、一層の厚さはO.1μm程度。コアの厚さが0.5~1.Oμm あると考えると、溶液をムラなくつけることが難しい。きれいに埋め込むことができなかった。」
特許成立前ということで、技術の詳細は明らかにされていないが、「新たな構造」を発見し、新しいプロセスでムラなくフラットに埋め込むことができるようになったと言う。これにより特性は劇的に改善された。
電極による損失はゼロ
開発の成果としては、損失と偏波依存性の改善が際立っている。埋込構造とすることで平行に電圧を加えることができるようになり、デバイス構造的には偏波依存性をゼロにすることができる(2)。「構造的には、究極の理想形ができた。現在、材料の最適化を行っているが、偏波依存性はほとんどない。偏波無依存は材料で実現するものだが、これまではデバイスの構造がそれを妨げていた。ばらついたり、再現性がよくなかったりした。リッジ構造では、例えば電極がずれたり、横に電極がついたりしているとその影響が出る。現在、TMモードとTEモードの二つの偏波に対して全く同じところにスイッチングでき
るようになっている。消光比は、一段でも25dB とれる。消光比は安定的にとれることが重要なので、材料組成の最適化を行っているところだ。」
電極は光に対して隔離されているので電極による損失もゼロにすることができる。これにより、従米構造に対して大幅に損失が下げられた。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2009/08/200908_ft06.pdf