シングルモードファイバの放射線耐性を高めるフッ素ドープコア
線形加速器や原子炉などの高放射線環境下の信頼できる光ファイバ通信は、最適化されたフッ素ドープコアをもつシリカファイバにより可能となる。
近年は光ファイバの放射線耐性の改善に対する関心が再び高まっている。最初に関心を示したのは線形加速器や粒子加速器の研究者たちであり、高エネルギー粒子の相互作用に関する情報を遠隔測定して伝送することの必要性を認識したことがきっかけだった。これらの加速器はトンネルが非常に長く、電磁場が強いため、この情報を中央制御室にまで伝送するには、ガラス光ファイバが最適の物理的媒質になる。
原子力発電所ではIT およびセキュリティネットワーク用の光ファイバケーブルの採用が増加してきたが、これらのネットワークに使われる光ケーブルは、一般に理論上の事故条件であっても、高い放射線レベルに曝露されることはなかった。しかしながら、この状況には変化が起き始めている。既設の原子炉設備の制御システムはアナログからデジタルヘ移行し、新しい原子力発電所の設計では光ファイバの膨大な帯域幅を利用して、全体のケーブルインフラの簡素化を進めている。このような新しい用途の光ファイバは、少なくとも想定される故障条件において(原子炉設備内部の高放射線領域に使われるとすれば通常の動作条件であっても)、放射線条件のもとでの信頼性のある動作が必要になる。
放射誘起工ージング
シリカ系の光ファイバは放射線に曝されると、ファイバ内部のすでにある構造欠陥の場所にはさまざまな色中心が誘起される(LFWJ 2009年1月号p.62またはwww.laserfocusworld.com/articles/343756を参照)。これらの色中心の生成は光吸収の増加をもたらし、伝送損失が増加する。この効果は放射線誘起エージングとして知られている(RIA、p.39の「RIAに影響を与えるいくつかの要因」を参照)。
ある方式の光ファイバのRIAは、多数の変数(温度履歴、線量率、総線量および低線量または無線量の期間)に依存するため、想定した事故の前後のファイバに起こり得る状態を確実に予測することは難しい。とはいいながら、新しい光ファイバの開発によって、RIAに影響を与える変数のいくつかの効果は著しく減少したため、原子炉設備の安全関連対箔に使用する光ファイバの適性を判断することの複雑さも軽減された。
新しい光ファイバの開発
フジクラは放射線耐性をもつ光ファイバのR&Dを20年以上にわたり続けてきた。標準のシングルモードファイバはゲルマニウムをドープしたコアと純粋シリカのクラッドを使用して製造されるが、純シリカコア(PSC)ファイバは純粋のシリカコアとフッ素ドープクラッドから製造される(www.lase rfocusworld.com/articles/351437を参照)。最近、われわれはもう一つの選択肢として、フッ素ドープコアの放射線耐性シングルモードファイバを開発した。このファイバはコアのフッ素濃度が0.8重量%に最適化されている(図1)。
スイスにある欧州原子核研究機構(CERN)と独フラウンホーファー研究所の研究グループは、光ファイバをスイスのジュネーブにある大型加速器に使用することの可能性を調べ、フジクラのファイバが最適であると判定した(1)。この評価試験はフジクラの新しいファイバがもつ二つの重要な能力を明らかにしている。第1に、1310nmの波長では、毎時1Mradまでの線量率から誘起される伝送損失は54dB/kmを超えなかった。同時に評価が行われた2番目に優れた性能をもつファイバの誘起損失は約18dB/kmを示した。第2に、高い線量において誘起される損失は飽和し、総累積線量とは無関係であった。その他のファイバの多くは、フジクラのファイバが安定化した後も、長期にわたりRIAの増加を示した。
もう一つの注目すべき点はPSCファイバとの比較試験の結果である。72KRadの線量率で行われたスクリーニング試験において、最良のPSCファイバは、中間の線量であっても、フジクラの放射線耐性シングルモードファイバの2~6倍のRIA損失を示した。ゲルマニウムドープファイバはフジクラのファイバよりも一桁高いRIA損失を示した(図2)。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2009/08/200908_ft04.pdf