単一光子検出器の進歩から恩恵を受ける蛍光顕微鏡

リチャード・K·P.・ベニンガー、デイピソド・W・ピストン

光子計数モードで使用する光検出器は理想的な信号対雑音比特性(ショット雑音によって制限を受ける)を提供する。最先端の単一光子計数検出器を市販の顕微鏡システムに組込み、生細胞イメージングにおける蛍光信号の検出感度を向上させた。

生細胞、組織、全生命体内における生体分子の相互作用とダイナミクスの研究(生体内画像)は最近10年間に急激に増加した。現在、生体内顕微鏡法は生きた生命体内の特定の蛋白質、脂質、細胞全体の動力学を研究する神経科学、免疫学、発生生物学などで広く使われている。利用拡大の理由は遺伝子符号化可能な緑色蛍光蛋白質の開発と改良にある。しかし、高速で超高感度の共焦点顕微鏡(LFWJ 2007年8月号p.16またはwww.laserfocusworld.com/articles/312439を参照)と2光子顕微鏡(LFWJ 2007年4月号p.34またはWWW.laserfocusworld.com/ articles/283869を参照)の開発も重要な役割を果たした。
 レーザ走査共焦点顕微鏡と2光子顕微鏡の中心的なコンポーネントの一つは光子検出器である。光子検出の感度は、速度と解像度を適切に制限しさえすれば、特定の生物学的機能の研究を可能にする。一般に、生体試料から放出される蛍光信号のレベルは励起強度に比して数桁低い上に、励起光は光退色や光揺性などの摂動効果を避けるために低レベルに抑えなければならない。結果として、高感度光子検出器の開発が現在の蛍光顕微鏡を前進させる中心的課題になった。

検出オプション

最先端の光子検出器は高い光子検出効率、高速応答ならびに読取り、低い雑音レベル、低いバックグラウンドレベルが要求されるが、最も重要なことは信頼性が極めて高いことだ。一般に、広視野顕微鏡では電荷結合素子(CCD)が使われているが、レーザ走査顕微鏡で最も広範に利用されている光子検出デバイスは光電子増倍管(PMT:LFWJ 2008 年5 月号p.40 またはwww.laserfocusworld.com/articles/322034を参照)である。
 ほぼすべての商用顕微鏡において、PMTは、レーザが画像の単一画素上を走査される時間(画素ドウェル時間)内の出力電流を積分する、「電流積分」モードで動作する。積分された電流は電圧に変換され、試料の画素から収集された光子数に比例する8または16ビットのデジタル数(DN)へとデジタル化される(図1)。
 この検出モードは、中~高レベルの光子束に適しているが、低い信号レベルの場合は大きな雑音がPMT増幅とデジタル化によって導入される。低レベルの光子束では、利得を高める必要があるが、同時に雑音も大きく増強され、得られる電流パルスの変動幅が拡大し、アフタパルスが発生する。熱電子も光電陰極やダイノード列で発生し、雑音に関係する高い暗信号を生じる。
 単一光子計数(SPC)またはパルス計数は、PMTなどの光子検出デバイスで利用できるもう一つの検出方式である。光子計数PMTは、一般に、熱生成された暗電子イベント数を減らすために冷却される。高帯域エレクトロニクスや商い利得はバックグラウンド電流から十分に分離された緊密に分布する電流パルスを発生する。次いで、各電流パルスが識別/計数されることで、検出された光子の絶対数が求まり、電流積分モードで導入された余分の暗信号と雑音が除去される。この信号の雑音は高効果で制限されたショット雑音であり、明確なポアソン雑音統計で記述できる。
 光子計数の利点は明白だが、蛍光顕微鏡におけるその利用は限定的であった。主要な制限は、光子がPMTモジュールや検出エレクトロニクスで計数される速度である。一つの電流パルスを発生、識別、カウントする間に人射した他の光子はカウントされない。したがって、最大計数率は、単一光子の計数に要する時間(不感時間)に関係する。最大計数率は不感時間にほぼ反比例する。しかし、光子は時間内にランダムに到達するため、低光子束であっても2個以上の光子が不感時間内に入射する可能性は高い。入射光子数がカウントされた光子数に比例する検出の線形性は最大計数率の10%以内で達成される。従来、この限界は1MHz 未満であった。典型的な生体画像取得の時間1秒と512X512ピクセルでは、1画素あたりの最大計数は約4 に制限されることになる。しかし、最近数年の間、このアプローチを改善する新しい技術が顕微鏡応用で大いに注目された。

図1

図1 レーザ走査顕微鏡では、データは電流積分または光子計数のいすれかによって収集される。各線(画素列)はライン同期信号によって定義される。一つの画素が走査される周期(一般に画素時計によって定義された数マイクロ秒)の間に、各入射光子はPMT信号において電流パルスを発生するであろう。その電流が積分されると、暗イベント並びにパルス振幅変動は出力信号における雑音増大をもたらす。一方、光子計数では、パルスが識別され(点線上に上昇)、成形され、続いて計数されるならば、いかなる余分な雑音も導入されない。(資料提供;バンデルビルト大学)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2009/08/200908_ft02.pdf