レイトレーシングソフトウエアを使って出現させた不完全な不可視球

シンガポール国立大学准教授のアーロン・ダンナー氏は、観念的には不可視でなければならない光クローキング(遮蔽)デバイスを視党的に見えるようにする研究を行っている。まず第l に、このようなデバイスの実用版は、少なくとも可視領域では今のところ存在しないため、ダンナー氏はソフトウエアシミュレーションに頼らざるを得なかった。第2に、写真のようにリアルな環境において、不完全な不可視球のようなデバイスを描写できるソフトウエアは入手不可能なため、ダンナー氏はソフトウエアそのものも開発しなくてはならなかった。
 不可視デバイスのシミュレーションは他にも存在するが、ダンナー氏は、実際の屋外環境で使えるようなデバイスはどのようなものか、また技術的に妥協して構築した場合、それがどのように現れるかを見たかった。
 彼は、まず屈折率不変(屈折率が1以下または0 の場合も含む)の透明物体を通る光子でマップされたレイトレーシングのために開発されたフリーソフト、POV-Rayを試してみた。しかし、クローキング光学系は屈折率勾配材料から構成され、複屈折も含まれるため、POV-Rayは使用不可能であった。そこで、ダンナー氏は従来法に基づいた構築を試み、異方性の誘電率勾配媒質中の偏光レイトレーシングに成功した。
 すべての入射光線が球の中心を旋回し、それから入射経路と同じ経路に沿って球を出て行くような不可視球の選択がその一例である。しかし、完全に見えない球は、描写してもさほど面白くないであろう。代わりに、ダンナー氏は、潜在的に組立が容易な点が特に典味深いという理由から、球の1 変形体を選択した。それは、両偏光ではなく、一方の偏光に対してのみ不可視になる球である。
 可視スペクトルで使用する完全不可視球は透磁率のすべての成分がその誘電率と等しくなければならないという非現実的な性質をもつ光学メタ材料から作製しなくてはならないが、一つの偏光に対してだけ不可視となる球は屈折率勾配を持つ複屈折誘電体から作製できる可能性がある。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/06/01006wn1.pdf