センシング用途に進出するネマチック液晶
標的分析物の存在に応答するネマチック液晶の配向変化に基づく新しいタイブのセンサは、化学蒸着を検出する。これにより、多くの用途のおけるリアルタイムセンサが可能になる。
ネマチック液晶(NLC)は、ほとんどのフラットパネルデイスプレイの背面で電気的応答をもつ流体であり、情報を表示するための外部電場を用いてNLCの配向が操作されている。ここ数年、従来とは異なるNLCのアプリケーションがフォトニクス、センシング、診断などの分野で目覚しく前進した。センシング用途では、化学的に官能化された表面に担持されたNLCのアラインメントが標的分析物の存在によって乱されることを利用している。各種分析物に対するセンサの感度、選択性、可逆性などは、多くの産業用途および環境センシング用途に向けて調整することができる。
化学蒸気による液晶の再配向
液晶(LC)は一般に長距離の配向相関(結晶様の秩序化)を処理する異方性分子で構成されているが、これは位置相関(液体様の秩序化)を欠いている、もしくはあったとしても乏しい。様々な液晶相のなかでもNLC材料における分子は、いかなる位置秩序も持たずに、互いに平行に整列する傾向がある。結晶様の秩序化は、固体基板J-.に担持された膜のバルクを通って伝搬するLC—基板界面におけるNLCの配向を可能にする。液体様の秩序化は、電場、磁場、表面場などの外部刺激に対する非常に高い感度の実現に役立つ。こうしたNLCのユニークな特性によって、電気光学表示装置へのNLCの利用が魅力的なものになっている。こうした装置において、NLC薄膜は二つの電極間に担持され、NLCの配向は電場の適用によって操作される。その結果、NLC薄膜を伝搬する光が変調され、情報が表示される。
LC—基板界面におけるNLCの配向はその界面の分子構造に極めて敏感であり、表面と接触するNLC分子の第1 層の配向によって決まる。このようなLCの性質を利用することによって、液晶ディスプレイ(LCD)産業では、ラビング処理された高分子膜上の薄い(数十μm)NLC膜の均ーなアラインメントを達成している叫この原理は、選択表面特性を持つ基板を設計することによって、LC—液体とLC—基板の界面における生物学的存在や化学的分子の結合の検出と報知にも利用されている(2)、(3)。これらのLCセンサは、DMMP(ジメチルメチルホスホナート)などの有機ホスホナート化合物や神経ガス「サリン」模倣薬品の検出を含む多数の用途に適した低消費電力、低コスト、軽量、取扱い容易な検出器の基礎になる。
センサの作製
NLCベースのセンサは、特定の標的に対して化学的に官能化された表面に担持されたNLC薄膜からなる(図1)。NLC分子は、結合化学によって官能化された表面に担持されると、事前に決められた方向に配向する。結合化学は、NLC上の官能基に対するよりも標的分析物に対してより高い親和性をもつように選択されている。センサがテスト環境に曝露されると、標的分析物はNLCの薄い(マイクロメートル級の深さ)膜を通って拡散し、表面の化学に結合する。分析物は表面化学との相互作用によって界面におけるNLCを変位させ、NLC分子に配向変化を起こさせる。この再配向は膜バルクを通って伝搬して、LCの異方性光学特性を利用すること、すなわち、交差偏光フィルタ間のセンサを見ることによって検出される。いくつかのNLC材料は、選び出された遷移金属錯体で処理した二つの表面間に担持されると、その表面に垂直に整列すると予測される(4)。遷移金属錯体で官能化された表面を使用することによって、ジイソプロピルメチルホスホナート(DIMP)などの有機ホスホナート化合物が選択的に結合することが赤外(IR)分光によって実証された(5)。LC基板界面のLC の分子に対する感度を利用して、(Cu2+)官能化表面への化学蒸気の結合がNLCを使って検出され、報告された(3)。この原理を使って、米プラテイパス・テクノロジーズ社(Platypus Technologies)は、安定で再現性があり、潜在的な干渉化合物(PIC)に免疫があるNLCベースのDMMP センサを開発したと発表した。
(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2010/12/8a5181041079cb66e38c3d4bb88144fe.pdf