宇宙への新しい可能性を開く3D分光光度イメージング
天文学者は天体の2次元(2D)画像から細部の重要な情報を取得しているが、チューナブルフィルタや面分光装置を使用して各画素からの光をスペクトル次元の第3軸で分散させると、より多くの情報を取得できる。
過去20年間の天文学者は宇宙の2D画像からの極めて詳細な情報の抽出に重要となる大きな一歩を踏み出した。一般の人々はハッブル宇宙望遠鏡からの遠い銀河系の画像を見ることに慣れている。このような画像は天文学者に重要な手掛かりを与えるが、それぞれの画素からの光が第3軸、つまり波長次元にも分散していると、はるかに多くの情報を取得できる。このことをすべての画素で実行すれば、その結果は単純な2D画像ではなく、3Dデータキューブ、つまり、各画像の普通の画素がスペクトルを形成する狭帯域2D画像の積層構造になる。
それぞれのスペクトルは、化学元素が存在を示す発光や吸収スペクトル線の痕跡を見せることがよくある。これらのスペクトル線の相対強度を比較すると、発生源の内部の化学および物理的状態の情報を取得できる。スペクトル線が赤方偏移や青方偏移を示していれば、物体の異なる部分のそれぞれがどのように動いているかを知ることができる。スペクトル線には信じがたいほど大量の情報が含まれるため、今日の天体観測の大部分がスペクトル線観測で占められている。
ところで、天文学者は2D撮像システムをどのようにして3Dシステムへ変換しているのだろうか? この変換はさまざまな方法で行われるが、基本的にはチューナブルフィルタによる方法と面分光装置による方法とに大別される。チューナブルフィルタの場合、そのスペクトル帯域には吸収、散乱、回折、エバネセンス、複屈折、音響光学、単層および多層干渉、多光路干渉、偏光などのさまざまな物理的現象による微細構造が現われる(1)。これらの現象を利用するさまざまな方法は、結局のところ、異なる光路を伝搬するビームの干渉から生じる信号を利用している。面分光装置はマイクロレンズアレイや画像スライサを使用して光の方向を変更するが、新しい方法も研究されている。
チューナブルフィルタ
夜間の天体観測用のチューナブルフィルタはかなり最近に開発されたが、太陽物理学、リモートセンシング、水中通信などの分野では長い間にわたり使用されてきた。実験の目的に合せて最適化された通過帯域の必要な波長に対して精密同調を行うチューナブルフィルタは、今までの天体物理学では最深部となる光源、つまり発光体の狭帯域画像の取得を可能にした。理想的なフィルタは、広帯域の連続スペクトルの範囲にわたる任意の波長λから任意のスペクトルバンドΔλを分離する撮像素子となり、その応答関数は全ての波長に対して同じ形になる。最後に得られる「データキューブ」は、基本的に連続波長帯の列の観測から得られる画像の積層構造になる。
空隙をもつファブリペローフィルタとフーリエ変換干渉計の技術は理想的なチューナブルフィルタに最も近い。このことを理解するために、ここでは夜間天文学用の最初の多目的素子であったTaurus Tunable Filter(TTF)を取上げる(2)。この場合の干渉は移動する2枚の高反射板の間で起きる(図1) 。このフィルタを動作させるには、2枚の反射板の広い物理的間隙の移動ばかりでなく、その移動をいくつかの波長の間隙から始める必要がある。m次の干渉の場合、計測フィネスをNにすると、その解像度RはmNにより与えられる。波長入の光子がフィルタを通過する条件は、lを空隙間隔、θを光学軸に対する光線の角度にすると、mλ= 2lcosθになる。このフィネスはコーティングの反射率および理想的なシステムでは再結合ビーム数から決まる。TTFの場合、反射板はl=1.5~15μmの範囲で走在され、干渉の次数はm=4~40の範囲にわたるため、利用可能な解像度は約100~1000 の範囲になる。透過プロファイルの中心部が鋭いチューナブルフィルタは理想的ではない。ピーク透過の平坦域が狭くても、光源からのスペクトル線信号の大部分が失われることは辛うじて回避される。論的に言うと、すべての帯域限界の関数は正方形になるが、これを実現することは実際のところ難しい。マイケルソン干渉計(フィルタ)のデータは周波数領域において得られるため、適切な畳込み関数を選択すれば、データ整理の段階におけるプロファイルの部分的な正方形への変換が可能になる。音響光学フィルタ(AOTF) はチューナブルフィルタの代替技術になる。この電気的に同調できるフィルタは、光学異方性媒質の音響光学効果(共線または利便性の高い非共線の配置)を利用する。AOTFはニオブ酸リチウムなどの圧電トランスデューサを異方性複屈折媒質に接合して作製される。この媒質は結晶を伝統的に使用してきたが、最近は可変性と可制御性をもつ高分子材料も開発されている。このトランスデューサを10~250MHz(無線)周波数で励振すると、結晶格子は超音波による振動が起こり、同折格子として動作する移動型位相パタンが形成される。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/02/6caea70ca3ee7970aefea62d212e46f2.pdf