光ファイバの真価が問われる油井孔のセンシング

ゲイル・オーヴァートン

原油価格の高騰をきっかけに、エネルギー会社は、資源抽出を最大化するために、油井孔(ダウンホール)の石油と地熱環境における温度と圧力のモニタリングに光ファイバセンサを使い始めた。

エネルギー供給会社は、油井収率を改善し、有効エネルギー資源を拡大するために、新方式の探求をし続けている(1)、(2)。光ファイバセンサは、資源抽出を最大にするために、油井孔の石油と地熱貯留層、井戸、パイプラインのモニタリング用として確立された方式であり、温度と圧力の情報を、ほどなく行われる化学分析の結果とともに、提供することができる。
 残念ながら、油井孔の環境は光学系に対して優しくない。振動や腐食性の化学物質に加えて、極端に高い温度と圧力が、光学系や関連するヘッドエンド測定機器をそれらの許容限界へと押しやることになる。しかし、いくつかの光技術がダウンホールセンシングの難題に立ち向かっている。

過酷な条件

米クォレックス社(Qorex)の創立者であり、テクニカルマーケティングとビジネス開発部門の代表を勤めるポール・サンダーズ氏(Paul Sanders)は、「1980年代にいくつかの小規模な試験的導入が開始したとはいえ、既存の数万もの地上、オフショア、海中の油井やガス井のなかで光センサを装備している割合はわずかだ」と語っている( 3)。普及率が低いのは、浅く回収が容易な石油では永続的な油井孔のモニタリングを行うことによる追加費用負担を正当化できないという経済的な理由によるものだ、とサンダーズ氏は指摘する。しかし、この「回収容易」な石油もやがては枯渇するため、エネルギー供給会社は、一般に熱、蒸気、薬品などを資源に直接注入して、使用可能な石油やガスを地上で回収する方式のオイルシェールやオイルサンドの埋蔵量に注目している(図1、2)。
 サンダーズ氏は、「光センサは高温の熱回収用途において重要である。資源抽出を最適化し、安全性と環境面の理由から井戸の完全性を確実に残すために、地中の実態を知ることが必要になるためだ。その場ビチューメン回収のための水蒸気支援重力排油法(SAGD)のような、従来センサに代わって光ファイバ技術がどうしても必要となるプロセスが、250 ~300℃の温度でも動作する光センサを採用するきっかけになった」と語っている。
 米インテリジェント・ファイバ・オプティック・システムズ社(Intelligent FiberOptic Systems)のフェレイドン・フェアリジャン氏(Fereydoun Faridian)は、「キロバール圧力と超高温度以外に、ガラス製のセンシングファイバコア内への水素拡散現象、いわゆる水素ダークニングがダウンホール光センシングシステムの実際的な利用を長年にわたって拒んできた。幸いなことに、事実上全く曇らない改良密閉コーティングとパッケージング技術を使った最新の純シリカファイバによって最高700℃の温度でのファイバ動作が可能になった」と語っている。

図1

図1  入手可能なエネルギー資源の深さは、温度や圧力同様に拡大を続けているため、オイルサンド資源を回収するためのSAGDなどの代替技術が必要になる。ここでは、光ファイバが、燃料回収過程を最適化するために温度と圧力を監視する。(資料提供:LIOSテクノロジー社)

図2

図2 カナダのSAGD井に配置されているダウンホールセンサの場合、光ファイバケーブルはより大きなコイル状チューブ内に他のセンサとともに統合されている。全センサ「ストリング」はサービス掘削装置を使って油井内に挿入される。(資料提供:ペトロスペック・エンジニアリング社)

センシング方式

フェアリジャン氏は、「多くのダウンホール光センシングシステムはラマン分布型温度センシング(DTS)を使用している。光の光子と物質の分子との非弾性ラマン相互作用において、分子は光子からのエネルギー獲得(ストークス散乱)あるいは光子へのエネルギー損失(反ストークス)を起こすであろう。後者は、温度に強く依存するプロセスであり、ファイバ長に沿った温度測定に利用されている。これは数kmまたはそれ以上の深さまで1mごとに1℃以下の分解能で測定する。温度勾配を知ることができれば、水蒸気または熱水支援生産井の位置が分かる(図3)。また、井戸の深度方向に沿った温度勾配の予期せぬ変動は、例えば、ケーシングにおけるピンポイント欠陥の可能性がある」と語っている。彼は、「科学は素晴らしいが、価格性能比の実現はエンジニアリングがすべてである。したがって、すべてのDTSシステムが優劣なく作られることはない」と指摘する。
 米GEグローバル・リサーチ社(GE Global Research)のシニアフォトニックシステムエンジニアであり物理学者でもあるホア・シァ氏(Hua Xia)は「ラマンDTS、ブリルアン分散温度/歪みセンシング(DTSS)、ファイバブラックグレーティング(FBG)に基づく光センサなどはいずれも温度、歪み、流量、圧力の分散型センシングを実行する。ラマンシステムは歪に対するその不感性により最も一般的である。ブリルアンDTSSは歪みと温度をモニタリングするために後方散乱信号の周波数シフトと強度を測定し、一方、FBGはブラッグ共鳴条件を満たす反射光の波長を測定する。

図3

図3 光分散型温度検出のユニークな能力を水平熱回収井での時間/温度/位置データプロットによって図示した。他のいかなるセンサ技術もこのような実時間での完全掘削孔モニタリングは不可能である。(資料提供:クォレックス社)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/06/1106applied.pdf