IR非球面の設計に影響を与える製造方法の選択
非球面向けの赤外光学材料の選択は、それがどのように加工できるか決定する。これは言い換えれば、色消しのための回折格子面の付加などといった、設計の選択の自由度を決定するということである。
光学設計への非球面部品の採用は、ますます増加している。以前は超精密な(言い換えれば非常に高価な)光学系だけに使われていた非球面は、現在あらゆる光学系に使われている。このことは、加工法や計測法、材料さらに計算機の能力や光学モデリングソフトウエアまでさまざまな技術の開発と進歩によるところが大きい。この状況は、非球面素子が球面素子と同様に広く使われている赤外(IR)光学系の設計にも見ることができる。しかし、IR光学系が政府資金による発展から商業用途の分野に移行すると、非球面の利用にはさまざまな配慮が必要になった。
非球面を製作する加工法を決定するためには、まず材料の選択が重要になる。したがって、設計過程では各種の加工法(シングルポイントダイヤモンド旋削、金型成形およびサブアパーチャ研磨、磁性レオロジー仕上げが含まれる)の利点と欠点の理解が重要になる。設計者にとって幸いなことは、加工法ばかりでなく材料の選択肢も大きく増えたため、妥協する必要は少なくなり、よりコスト効果のある部品の設計が可能に
なったことだ。また、もっとも重要なことは、数年前は想像もできなかった幾何学形状を加工できることにある。
IR材料の特性
まずIRの非球面を可視光の非球面から差別化する、いくつかの複雑さを分析してみよう。全般的に、IRの非球面加工に使用する材料は非常に低い光分散と非常に高い屈折率を示すため、設計者はこれらの利点を賢明に利用できる。
高い屈折率は透過光量を制約する(反射防止膜を使用すれば解決できる)が、高い開口数(NA)のレンズの設計が可能になる。高NAは光の捕集率を向上させ、非球面の場合は回折限界の集光性能と小さなスポットサイズを確保できる。しかしながら、このような高NAレンズの動作には難しさもある。とくにIRの場合、高NAレンズでは受光角が広くなる。
受光角が広くなると、表面形状と仕上げ形状との差が大きくなり、散乱が起きて、光学系の画質に影響を与える(1)。表面粗さの観点から言うと、散乱光の角度は回折方程式を用いた計算が可能であり、偏向角は空間周期が短いほど大きくなる。同様に、散乱の振幅も容易に計算できる。幸いなことに、高屈折率の材料と長い波長との組み合わせは散乱に対する感度が驚くほど低い(表1)。例えば、4μm用に設計した二枚のゲルマニウム(Ge)素子からなる光学系は、表面粗さの仕様が5nmの場合、散乱による全損失は0.7%をわずかに超える程度に収まる。
IRでは表面格子が広く利用されている。この回折機構は興味深い負の分散を示す。つまり、非球面上に回折格子を導入すると、色収差の補正が可能になる。散乱に対する低い感度とGeやセレン化亜鉛などの一般のIR材料との組み合わせは、この色収差の補正が単一素子の非球面上で比較的容易にできることを意味している。例えば、25mmの開口と0.63のNAをもつ色補正されたGeの非球面が3~5μmの波長用に設計されている(表2、図1)。色収差の完全な補正には17本の回折リングが必要になる。Zeonex E48R(nd=1.531)を用いて設計された同様の非球面で25mmの開口の場合、その可視光スペクトルの色収差の補正には425本の回折リングが必要になる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2011/07/1107feature02.pdf