多光子イメージングの成熟期は到来したか
超高速レーザ、ビームデリバリシステム、光学部品等の進歩は、非線形顕微鏡の新しい応用を開発する研究者を支援し、歯の疾患から脳腫瘍にいたる臨床診断の可能性を高める。
多光子顕微鏡法が成熟した暁に、この方法がライフサイエンスと光学のコミュニティにどの程度大きな影響を及ぼすかを推定しておくことは時宜を得たことであろう。光学やレーザの専門知識をほとんどもたないエンドユーザ、光学とレーザの研究コミュニティ、その製品サプライヤの間の相互作用は、発展するハイテク製品を扱う多くの分野に共通の興味深いケーススタディになるだろう。手法および機器が十分に成熟した時、研究分野を横断する技術としてどのような教訓を学ぶことができるのか、そしてその分野は将来どこに行くのか?最初の多光子蛍光イメージングはパルス色素レーザを使って実施されたが、これは生物学の研究室で日常的に使用する機器ではまったくなかった(1)。しかし、フェムト秒Ti:サファイアレーザが登場して、取り扱いが厄介な色素レーザを使用しないですむようになった。
さらに重要なことに、1990年代初期に、このレーザの全固体ポンプ光源としてのレーザダイオードが改良された。フェムト秒光源の市場が拡大するとともに、この市場の要求を満たし、イメージングとレーザの両技術を推進させるために、「ハンズフリーな」システムが特にレーザの非専門家向けに開発された。こうして、この技術のユーザとサプライヤとの間に協力関係が発展した(2)(図1)。
非線形顕微鏡法への挑戦
生物学的観点における非線形顕微鏡法の強みは試料をほとんど乱すことなく深部を撮像することによる。これは、研究者が生物学的機能を生体内(in vivo)で観察することを可能にする。それゆえ、小動物を、理想的には長時間にわたり撮像したいという強い意欲が駆り立てられた(図2)。しかし、この動機はビームデリバリ、パルス分散、試料誘起収差の 3つの挑戦を光技術に対して提起した。最初の挑戦は、試料の皮膚下の潜在的に可能な深さまで光を送り届けることだ。作動距離が長い顕微鏡対物レンズも開発されたが、最近の技術進歩は、GRIN光学系または光ファイバ端の直接成型、特に、フォトニック結晶ファイバ(PCF)を利用する方向へと向かった。
早速、米ハーバード大学、米マサチューセッツ工科大学、米スタンフォード大学、オーストラリアのスウィンバーン大学を含むいくつかの大学の研究チームは小型のビームデリバリシステムを組み立てた(3)~(6)。これらは 2つのクラスに分類される。一方は、2枚の単純なレンズで顕微鏡対物レンズの焦点を試料へと中継する光学系であり、他方は、標準的な画像処理システムをまったく使用しない完全な小型光学系である(図3)。
後者のソリューションは、そのシステム内に従来の大型顕微鏡を必要としないという利点を持っているが、今のところ、光学品質は対物レンズベースのシステムで予測されるほどには良くない。したがって、このようなイメージングシステムのために高品質な小型光学部品を開発する領域ではさらなる研究が必要である。ダイヤモンドや炭化ケイ素などの高屈折率材料(2以上)の利用は、いずれも他のグループによって小型レンズの作製に使用されているため、潜在的に興味深い(7)。ビームデリバリシステムが開発された後、さらに発生する問題はパルス分散だ。現在、フェムト秒パルスは多数のガラスと不均一な屈折率を持つガラスを通って進行している。それらは主に材料内の群速度分散が原因のパルス広がりをもたらす。これは分散補償を利用するか、レーザパルスが光学系に入る前にチャープすることで部分的に解決できる。
現在は、この機能を持つ市販のシステムが入手可能である(例えばニューポート社製のMai Tai DeepSee)。ただし、これは完全に自動化されたとしてもさらなる複雑さをレーザ光源に追加することになる。正しい分散系を備えたPCFの利用は特に小型機器用に活発に研究されている領域である。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/05/1112feature01.pdf