高出力レーザダイオードの高輝度化
高出力レーザダイオードは、発光効率の高さにおいて抜きん出ているが、多くの用途に必要とされる高品質ビームの発生には至っていない。新しいレーザ設計と新しいビーム結合方式が、高出力ダイオードビームの輝度を改善しつつある。
レーザダイオードは電力の光への変換に優れ、70%に近い効率が得られている。しかし、出力の向上は一般にビーム品質の犠牲を伴う。多モードビームにおいてワットクラスの出力を放射する大面積レーザダイオードは、単一横モードでかなり低い出力を放射する狭幅ストライプダイオードのビーム品質には対抗できない。ダイオードアレイのスタックはキロワットの出力を発生することができるが、ビーム品質はさらに悪く、それらの用途は高輝度を必要としていない熱処理やバルク固体レーザのポンピングなどに制限される。
現在、開発技術者たちは、高輝度ビームを必要とする金属シートの切断や溶接などの高出力用途で動作させるために、高効率ダイオードのビーム品質の改善を推し進めている。
発散、ビーム品質、輝度
レーザダイオードはビーム発散が大きいことで知られているが、それは小さな放射開口の回折限界を反映している。ビーム品質は、発散の量にではなく、それがレーザの出力開口によって決まる回折限界にいかに一致するかに依存する。単一のラテラル(または横)モードを発振する狭幅ストライプレーザダイオードは、放射面積が小さいがゆえに起きる大きな発散にもかかわらず、優れたビーム品質を持ち、その広く発散するビームは厳密に集束させることができる。非常に大きな開口から放射するダイオードスタックは発散が少ないとはいえ、ビーム品質はかなり悪い。
ビーム品質の測度の一つはビームパラメータ積(BPP、時にQと表示)であり、これはビームウエストでのビーム径と遠方場ビーム発散の積である。別の測度には輝度B がある。これは単位面積あたりの出力をビーム発散角で割った値であり、単位はW・cm-2・sr-2になる。輝度は、出力Pをπ2とビームパラメータ積Q の二乗との積で割ることによって得られる。
(非点収差ビームの場合は異なる式が必要である)。輝度が高いということはそれだけビーム品質が優れていることを意味する。
もう一つの広く使用されている測度はM2である。これは測定されたBPPを理想的なガウスビームのBPPで割った値である。この結果は正規化された値であり、1.0は理想的なガウスビームであることを示し、高い数値は低品質ビームであることを示す。
シングルエミッタレーザダイオード
輝度は出力に依存し、レーザダイオードストライプから得られる出力はその体積と内部出力密度によって制限される。出力密度が増加するにしたがって、レーザは内部とファセット損傷の影響を受けやすくなり、抵抗加熱はそれらの出力変換効率を低下させる。
広幅ストライプレーザは活性層内の導波路容積を大きくして出力を増大させることができるが、ビーム品質が劣化してマルチモード動作になりやすい。約100μmの幅と数ミリメートルの長さのストライプを持つダイオードは10W以上を放射するが、ビーム品質は制限される。研究者たちは、ビーム品質は図1に示すようにレーザストライプの幅にテーパーを付けると向上することに気づいた。
独m2k レーザ社と独DILAS社による最近の実験は、976nmを放射するInGaAsレーザの輝度が、5mmの長さで広い面積のものとテーパー付けしたものとで著しく異なることを示した。均一な90μm幅のストライプを持つレーザは10Wを放射し、スロープ効率は1.1W/A、ピーク電気‐光学効率は65%であった。4°のテーパーを持つ同様なレーザは、1.05W/Aの低いスロープ効率を反映して、56%のピーク効率で10Wを放射した。テーパー付きレーザの大きな利点は広幅レーザに比べて6倍も高い600mm‐mradに達する輝度であった(1)。残念なことに著者らはPhotonics West2010出席者に、「テーパー付きレーザのパッケージングは非常に挑戦的な仕事であり、テーパー付きレーザにおける既存の非点収差もモジュール用の光学系の設計をより複雑にする」と語った。
ダイオードアレイとビーム結合
個々のレーザダイオードの出力は限定されるが、多数のレーザダイオードを単一基板上に組み立て、より高い出力が発生するようにそれらの出力を結合させることができる。米プリンストン・オプトエレクトロニクス社で、高密度VCSELアレイが200Wを越える出力を発生した(2)。各々が多数のエッジ発光レーザストライプをもつ多数のバーのスタックは2、3キロワットを発生したものの、ビーム品質は低かった。反射ミラーとレンズの単純な組み合わせでは、2本のビームを加え合わせて、より高い輝度のビームを発生させることはできないと、グラスゴー大学のジョン・マーシュ氏(John Marsh)は語っている。それどころか、こうした組み合わせは照射面積を拡大させるか、光を減衰させる。
より高輝度で、より高品質のビームは、より精巧なビーム結合方式を要求する。一つは、入射ビームの位相を整合させて、それらを構成的に加え合わせるコヒーレント結合である。もう一つは、光ファイバ内の波長分割多重と同様に、異なる波長のビームを一緒に加え合わせるスペクトルビーム結合である。両者はいずれもファイバレーザならびにダイオードアレイですでに研究されてきた。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/01/201201_0022pf.pdf