共振器内への応用に適した高性能反射鏡
吸収と散乱損失を注意深く制御した高性能で低損失の反射鏡は、重力波検出やキャビティリングダウン分光法などの厳しい要求に対応できる。
高性能の反射鏡光学系は共振器を用いる吸収分光法、光学的原子時計分光法、リングレーザジャイロスコープ(RLG)、重力波検出などのさまざまな高感度測定を可能にする技術に成長した。それぞれの測定はさまざまな環境条件下においてスペクトル性能の犠牲なしに動作する低反射と低損失の反射鏡が重要になる。ここでは、極端に高い99.99%以上の反射率(R)をもつ反射鏡が誘電体材料を用いてどのように設計され、イオンビームスパッタリングを用いてどのように製造されるかを述べる。とくに、光吸収、光散乱、光透過などの損失を最小にする方法と、それらを定量的に直接測定する方法を詳しく述べる。これらの反射鏡の重要な応用例として、キャビティリングダウン分光法(CRDS)について述べる。
ほとんどの反射鏡はガラス上に金属薄膜を蒸着して製造され、ある程度の損失が許容される多数の用途に使うことができる。銀、金、アルミニウムなどの金属の利点は、それらが数ミクロンの広いスペクトル領域にわたりR>95%の反射率が得られることにある。しかしながら、金属反射鏡の反射率を増強するには誘電体の被覆層を含めた付加加工の工程が必要になる。
金属反射鏡はコストが比較的安く、広い波長範囲にわたり比較的高い反射率を確保できるが、100万分の1レベルの光損失を要求する高感度で高精密の測定には不向きであり、これらの測定では極端に高い反射率が必要になる。また、金属被覆は化学的不安定性(銀)と機械的不安定性(アルミニウム、金)の両方の欠点もあり、ほとんどの場合に保護層が必要となり、例えば、アルミニウムには酸化ケイ素を被覆して反射鏡の劣化を抑制する。したがって、金属被覆に関連する本質的な不適合性を克服するには代替策が必要になる。その1つのアプローチはイオンビームスパッタリング(IBS)を使用して、高感度レーザ機器への応用に適した高反射率で低損失の反射鏡を製造することだ。
誘電体反射鏡は下地の基板(ガラス、結晶または金属)に高屈折率層と低屈折率層を交互に蒸着して積層構造を形成する。多層膜の設計、被覆材料および蒸着プロセスを適切に選択すると、紫外(UV)から近赤外(NIR)のスペクトル領域にわたり極端に高い反射率をもつ誘電体反射鏡の製造が可能になる。
ハードコートされた低損失の誘電体反射鏡を設計する場合は、反射鏡の帯域幅に対する高い(R>99.95%)反射率、s偏光とp偏光の入射角(AOI)範囲での動作、高いレーザ誘起損傷閾値(LIDT、例えば、10ns、1064nmパルスに対するLIDT>20J/cm2)などが要件になる。図1は可視およびNIR領域で動作するように設計された2種類の高反射率誘電体反射鏡の反射データを示している。以下にハードコート誘電体反射鏡の性能特性を述べ、極端に高い反射率値を実現するために、透過(T)、散乱(S)および吸収(A)に関係する損失の制御と最小化がどのようにして行われるかを議論する。
散乱、吸収および透過特性
光が反射鏡の表面と相互作用すると、いくつかの異なる現象が生じる。入射光の大部分は反射される。しかしながら、光の一部は反射鏡における散乱、吸収または透過によって失われる。エネルギー保存則から次式が得られる。
R=1 −(S+A+T)
すべての誘電体反射鏡の反射率は主として設計に支配され、多層構造の形成に用いる高屈折率材料と低屈折率材料の層数を変えることで任意の値が得られる。そこには上述の損失機構があるため、R=100%を実現することはできない。とは言いながら、いくつかの特殊な場合は単波長(850nm)に対してR=99.9998%、狭い波長範囲(830〜880nm)に対してR=99.99965%をもつ誘電体反射鏡が製造されている(1)。高反射率値の究極の限界は散乱と吸収に関係する損失なる。したがって、散乱と吸収の両方の機構に関係する損失の最小化と制御の方法が重要になる。
散乱によ損失は表面欠陥と基板粗さにより支配され、実際の多層被膜からは生じない。表面欠陥にはスクラッチ、ディグ、微粒子などの種類がある。最高品質ガラス基板と蒸着法を用いると、微粒子欠陥は散乱損失の主要因にはならない。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/04/201204_0032feature03.pdf