低損失の広帯域テラヘルツ導波を可能にする空気コア微細構造化ファイバ
籠目構造の空気コア微細構造化プラスチックファイバは低損失と低分散の特性をもつ新しい広帯域テラヘルツ導波路になる。
テラヘルツ分野では導波路によるテラヘルツ放射の導波が最も興味深い研究の1つとして継続されている。テラヘルツ帯域は高透明材料が得られない。このことがテラヘルツ導波路の研究の動機となり、低損失のテラヘルツ伝搬特性に加えて、低い分散特性と高い柔軟性をもつ導波路が探求されている。今までに、サファイアチューブやプラスチックチューブ、さらには金属線や金属板からなる従来型のテラヘルツ導波路が熱心に研究された(1)。
一方で、可視から中赤外スペクトル領域のために開発されたフォトニック結晶ファイバ(PCF)の知識と技術をテラヘルツ領域の新しい導波路として利用することも検討された(2)。なかでも空気コアを用いて光を導波する中空コアPCFは非常に興味深く、無損失伝搬を非常に低い分散で可能にするテラヘルツ導波路として期待されている。最近、われわれは空気コア「籠目(kagome)」構造のポリメタクリル酸メチル(PMMA)PCF のテラヘルツ導波を試作し、材料損失の20 分の1 に減少した伝搬損失と低い分散が広い透過領域にわたり得られることを測定した(3)。(「籠目」はPCF に使われるトリヘキサゴナルタイル模様に類似したパターンにもとづく名称)
われわれが研究した籠目ファイバはPMMAチューブを積層したプリフォームを線引し、積層の中心部から7 本のチューブを取り除いて形成した中空コアと三角格子構造のクラッドからなる(図1)。線引したファイバは1.6mm(籠目1)と2.2mm(籠目2)の直径のコアを持ち、それぞれの外径は5mmと6.8mmになっている。
われわれは標準のテラヘルツタイムドメイイン分光装置を使用して、これらのファイバ試料を測定した。この装置は、まずTi: サファイアレーザからの波長800nm、パルス継続時間80fs の光パルスを2 本のビームに分離する。ポンプビームは表面エミッタに衝突し、その光整流によってテラヘルツパルスが発生し、プローブビームは光導電アンテナ検出器を光学的に開閉する。この検出器がアンテナに到達したテラヘルツ電場をポンプ‐プローブビーム間の遅延時間の関数として直接マッピングする。モード整合を十分にして高い結合効率を確保するために、われわれは75mmの焦点距離と0.33の開口数をもつ特製の対称光路テラヘルツレンズを組み入れた(4)。
テラヘルツ籠目ファイバの性能
籠目ファイバの基礎となる導波機構は、光の閉じ込めをフォトニックバンドギャップに依存せず(クラッド構造においてフォトニックバンドギャップ状態が欠如)、その代わりに、コアの導波モードとクラッドモードとの相互作用が減少して結合が阻止される機構を利用する(5)、(6)。後者のモードはクラッドの誘電体支持柱が担持するモードに起源がある。これらのモードが共鳴すると、モード間には強いパワー結合が起こる。しかし、共鳴のない周波数ではコアモードとクラッドモードとの物理的重なりが最小になり、コアモードは低い漏れ状態(低損失)の伝搬が維持される。
ファイバの有無に対応する信号の時間変化のフーリエ変換を計算し、両者を比較して、ファイバの導波モードの減衰係数と位相屈折率を導いた。図2は長さを変えて平均化したファイバのパワー損失係数を示している。われわれはスペクトルの特定周波数に現れる明瞭な損失ピークがクラッドモードの共振周波数(図の灰色の部分)に対応すると同定した。
われわれは共振周波数を測定し、基本モードがクラッド内部で消失せずに漏れることを見いだした。損失係数は籠目1ファイバが0.75〜1.1THzの透過波長窓において約1cm−1(4.3dB cm−1)、籠目2ファイバが0.65〜1.0THzの透過波長窓において0.6cm−1以下(<2.6dBcm−1)であった。籠目1 ファイバのデータは有限要素周波数ドメイン法を用いたシミュレーション結果と極めてよく一致し、籠目2ファイバのデータもよく一致した。これらの測定にもとづいて、われわれは対称光路テラヘルツレンズを用いた場合の結合係数が60%の高い値になると推定した。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/06/201206_0030feature03.pdf