高出力と多様化が際立つテラヘルツエミッタ

ダリィシュ・サイドキア

テラヘルツフォトニクスには2 つのアプローチ−電気と光−があり、それぞれ固有の利点がある様々なタイプの光源が開発されてきた。

フォトニクス、エレクトロニクス、通信におけるテラヘルツ技術の前進は、新たな領域に入ってきた。今やトランジスタ機能はテラフロップ毎秒(teraflp/s)を実現、ワイヤレスデータ通信はテラビット(Tbps)速度に達しつつあり、テラバイトハードドライブ記憶装置も現実になっている。
 過去20年にわたり学術界と産業界の両方でフォトニクスに関する積極的な研究開発が進められてきたことで、マイクロ波と赤外(IR)スペクトラム間のテラヘルツギャップが埋められた。コヒーレントテラヘルツ信号の生成、検出、操作を目的とするコンパクトなテラヘルツ光源とディテクタが開発された。テラヘルツセンシングやイメージングシステムはすでに市販されており、テラヘルツ無線通信も実現が見通せるようになっている。
 強力で信頼性の高いテラヘルツ光源を提供できるようになった最近のイノベーションによって科学と技術に新たな機会が訪れている。パフォーマンスや機能面での大きな前進はまだ期待できるが、現状の市販テラヘルツ光源はすでに、様々な分野の多くの研究者や技術者が利用できるテラヘルツスペクトラムを実現している。カバーする分野は生物学や医療から化学、薬学、環境科学などに広がり、これらの分野のユーザは、テラヘルツ波の下で科学的な諸問題を再検証することができる。
 テラヘルツ光源技術分野における過去数年の進歩は、多くの実際的なアプリケーションでテラヘルツ照射利用の可能性に道を開いた。テラヘルツフォトコンダクティブ(光伝導)アンテナは、周波数1THz超の帯域で光-電気(O/E)変換効率や最大出力に関してパフォーマンスが大きく改善された。テラヘルツフォトコンダクティブアンテナ用に新しい材料システムが開発され、光通信波長で動作するようになった。ローコストのレーザダイオードや高出力ファイバ増幅器、その他の光通信コンポーネントを活用することで今では、テラヘルツシステムのコストを大幅に削減することが可能になっている。
 小型電子ビーム光源が開発され、周波数の上限や電力効率が高くなったことで個体光源や周波数逓倍器のパフォーマンスが着実に改善されている。テラヘルツ量子カスケードレーザ(QCL)は、過去数年で急速に改善された。その出力レベルや動作温度が改善される一方で、最小動作周波数は下がり続けている。
 テラヘルツ光源は大きく分けて2 つのカテゴリーがある、電気と光だ。周波数逓倍器と電子ビームおよび個体光源は、広く使用されているテラヘルツ電子光源だ。テラヘルツフォトコンダクティブアンテナとテラヘルツQCLが最も一般的なテラヘルツフォトニック光源である。

テラヘルツフォトコンダクティブアンテナ

レーザ駆動THzフォトコンダクティブアンテナ(THz-PCA)は、コヒーレントテラヘルツ光源である。これは、様々なテラヘルツアプリケーション向けに、コンパクトで低消費電力、高い耐久性、低コストの分光器やイメージングシステム開発で最も有望な候補となっている。アンテナを搭載したTHz-PCAは、密集した金属電極パタンに接続した平面金属アンテナ構造で構成されている。これらはアンテナの給電ポイントにある超高速フォトコンダクティブ材料に印刷されている。生成されたテラヘルツ信号はこのアンテナ構造に結合され、ここからテラヘルツ波が効率よく自由空間に放射される。スロットアンテナやダイポールアンテナのような共鳴構造の放射効率は相対的に高い。しかし、ワイドバンドアプリケーションには、ボウタイアンテナもしくは自己補対らせんアンテナの方が適している。
 従来のアンテナ結合THz-PCA の光電気変換効率は、全光入射に対する全テラヘルツパワーの比で定義され、1個のデバイスで10−5以下となる。1個のTHz-PCA デバイスからの最大利用テラヘルツパワーは、装置故障前の継続維持可能な最大光パワーとDCバイアスで限界づけられている。低温成長ガリウムヒ素(LT-GaAs)でできた室温動作THz-PCAの継続維持可能な全光パワーは、バイアス4V/μmの時、約0.9mW/μm2になる(1)。継続維持可能な最大光パワーは、LT-GaAsフィルムを、シリコンかダイヤモンドのような熱伝導性が高い基板に換える、あるいはLT-GaAs 膜の下にアルミニウムヒ素(AlAs)のような熱拡散エピ層を成長することにより増やすことができる(2)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/201307_0032feature04.pdf