MEMSスキャナ、産業分野に拡大するアプリケーション

井上 憲人

日本信号のMEMSスキャナ “ECOSCAN® ” のアプリケーションは現在、鉄道のホームドア、エスカレータの混雑・転倒検知システムを初めとしてすでに130種を超える。現行製品をベースにした次世代製品を市場投入することで、アプリケーションの幅はさらに広がると期待されている。

電磁駆動方式

MEMSの駆動は、静電駆動方式が多く見られるが、日本信号は「電磁駆動方式」を採用している。この方式では、ネオジウムボロンを使って磁場を発生させる。電流を印可するとローレンツ力が発生し、これが駆動力になる。この方式は、東北大学江刺研究室と共同開発したもので、「駆動板上に形成された駆動コイルを流れる電流の方向と大きさにより、ローレンツ力は簡単に制御できる」(1)。
 ECOSCANは、3D距離画像センサ“アンフィニソレイユFX8” の光走査部(TOF: time of flight)に使用されている。ビジョナリービジネスセンターMEMS事業推進部係長の山本大樹氏によると、3D距離画像センサ国内市場における日本信号のシェアは約77%(2013年)。
 まずは、測距原理を見ておこう。ホームドアなどに組み込まれているアンフィニソレイユFX8には、MEMSスキャナ、光源、光学系、受光器(APD) (図1)、制御用ボードなどがアセンブリされている。
 光源は、3スタックのハイパワー(10W)パルス半導体レーザ(波長870nm)。この光源とミラーとの関係についてMEMS事業推進部部長、猪俣宏明氏は、「普通のCWのレーザダイオードでは発光サイズは数μm程度だが、それに対して、ここで採用しているレーザは、縦方向が10μm、横方向が70μm。単位面積あたりの発光密度は変わらないで、出力を大きくするには、サイズを大きくする必要がある。ただ、発光サイズを大きくすると、ビームを絞りにくくなる。ここで採用しているミラーは、9×5㎜。そのサイズに光を一旦絞り、なおかつ遠方の対象物上でビームが広がらないような光学系が必要になる」と説明している。
 ここで特徴的な点は、APD、ミラー、光路の関係。これらは外乱光の影響をうけにくいデザインにしている。図1から分かるように、ミラーで反射されたレーザ光は、対象物Aから反射されて同じ経路を通ってミラーに戻り、さらに光学系を通してAPDで受ける。この構成「同軸光学系」では、外乱光がAPDに入る可能性は極めて小さい。この光学系を採用したアンフィニソレイユFX8は、耐外乱光20万ルクス以上(保証値)を実現している。

図1

図1 アンフィニソレイユFX8は、TOF(time of flight)による測距技術とECOSCANによる光走査技術が融合して誕生。主な特長として次の点が挙げられる。近赤外パルスレーザを使用するアクティブ方式。2D ECOSCANでレーザを走査し、座標軸ごとの距離情報と光量値情報を高精度に取得。同軸光学系を採用し、世界トップの耐外乱光性能を実現。ECOSCANはパッケージングしないオープンデザイン。オープンにすることで空冷機能が働き、冷却用のファン不要。また、カバーガラスがないため、入力ビームの蹴られやパワー減衰もない。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/07/LFWJ1507_marketwatch.pdf