ハンドヘルド機器への移行を簡素化する、高精度な微細ビームステアリングシステム

ジェフ・クレイマー、デイビッド・ヘンダーソン

ハンドヘルド機器やポータブル機器用のビームステアリング部品は、指先ほどのサイズで、バッテリで動作し、ミリラジアンの精度と携帯電話レベルの堅牢性を備え、マイクロエレクトロニクスデバイスを完全に集積する。

ビームステアリング部品は、特にレーザを搭載する多くの光学システムにおいて、不可欠な要素である。複数の回転軸において、コリメート光源または非コリメート光源からの出力を操作するための光学的手段としてよく使われるものには、可動ミラー、プリズム、レンズ、回折格子がある。一般的な商用のビームステアリング手法としては、単一のミラーを動かす入れ子構造のジンバル、2個または3個のショートレンジの線形アクチュエータを並列に配置して単一のミラーを傾ける高速ステアリングミラー、直交するガルバノメータ/ミラー・モジュールを使用する2ミラーシステム、光軸の周りを独立して回転する同軸光透過リズレープリズムなどがある。
 新しいビームステアリングデバイスは、MEMS(microelectromechanical system)とマイクロエレクトロニクス製造技術を採用して、非常に小型化されている。このようなデバイスとしては、それぞれ独立して2つの角度位置の間で切り替えが可能な何百もの超小型ミラーで構成されるシリコンアレイ(1)、液晶光フェーズドアレイ(OPA:optical phased array)を採用するビームステア
リングシステム(2)、ジンバルを使用しない屈曲構造と静電気または磁気による作動構造によって2軸で回転するシリコンミラー(3)などがある。
 このようなMEMSデバイスを使用する場合には、ビームステアリングシステム全体を小型化するために、駆動および制御用のエレクトロニクス部品もそれに対応して小型化することが重要な課題となる。これに加えて、高い精度と線形性を達成することと、高出力レーザに対して非常に反射率の高い光学コーティングを利用できるようにすることも課題として挙げられる。
 完全に集積された小型の「ポイントツーポイント」のビームステアリングシステムは、MEMSベースのアプローチに付随する問題を回避し、特に次のような要件を持つ、医療や工業の分野の多くの新しい市場のニーズに対応する。
●1軸または2軸のモーション範囲が10°よりも大きい
●システム体積が3cm3未満
●内部で電圧を昇圧することなくバッテリ電力で動作
●電力を消費せずに位置を維持
●角度精度が絶対位置測定で1mrad未満
●小さな角度でのステップアンドセトル時間が1ms未満
●携帯電話レベルの堅牢性を備え、現場の温度、衝撃、湿度に対応
●小さなサイズと簡単なシステム統合を実現する組み込みコントローラ
●高出力レーザ用に、効率の高い光学コーティングや材料が使用可能

 本稿では、動的スキャンが100Hz未満に限定される「ポイントツーポイント」のソリューションを取り上げる。つまり、数キロヘルツものビデオ走査レートに対応するレゾナントスキャナを搭載する、ビデオディスプレイデバイスとは対照を成すものである。
 医療分野の用途としては、診断計測、細胞診、外科手術、顕微操作などがある。工学分野の用途としては、リモートセンサ、光学式画像安定化(OIS:Optical Image Stabilization)、手ぶれ補正、ライダ、フリービームおよび光ファイバ通信、3D測定、分光法などがある。このような用途のすべてにおいて、本当にポータブルな携帯型機器を実現するには、モーションシステムを開発する際のパッ
ケージ集積と部品選定において、独特のアプローチを採用する必要がある。

メカトロニクスモジュール:モータ、ドライブ、センサなど

圧電機械式ドライブの最近の進歩により、非常に小さなサイズでビームステアリングを実現する、新しい種類の部品が登場している。超音波圧電モータは、ビームステアリング用途に最適である。最新の圧電モータは、バッテリ電圧で直接動作し、サイズは数mm程度しかない(4)。電磁アクチュエータや静電アクチュエータと比べて、圧電モータはトルクが格段に高く、角度分解能に優れ、無電力で位置を維持する。
 このような新しい圧電モータを補完するのが、圧電モータを駆動する特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)である。これらのICは、圧電モータよりもさらに小さく、デジタル制御によって超音波周波数でバッテリ電圧を直接スイッチングする。また、1mrad未満の精度を備える、超小型のASIC位置センサが現在提供されている(5)。
 このような超小型部品を使用して小型ビームステアリングシステムを構築するには、かなりの専門的知識を要する。アクチュエータ、ドライバ、センサ、機構、光学部品、高速マイクロコントローラ、組み込み閉ループファームウェアを集積するには、マイクロメカトロニクス分野のシステム設計に関するスキルと経験が必要である。それによって、組み込みコントローラを搭載するオールインワン型の集積システムが得られ、別個のエレクトロニクス部品や、機器のシステムプロセッサやコンピュータとの直接のインタフェースは不要となる。入力電力は3.3 VDCで、通信と制御には、シリアル・ペリフェラル・インタフェース(SPI:Serial Peripheral Interface)またはI2C(Inter Integrated Circuit)のシリアルリンクを利用する。動作(移動)電力は1W未満で、位置の維持には電力を消費しない。消費電力をさらに低減するために、プログラマブルなスリープモードによって、スリープ時のミラー位置を維持する。

2つのミラーによるマイクロビームステアリング

米ニュースケールテクノロジーズ社(New Scale Technologies)が提供する、2つのミラーを用いたビームステアリングシステム(6)を図1に示す(仕様概要は表1を参照)。2つのミラーは、直交軸でそれぞれ独立に回転し、±40°のビーム偏向を実現する。この設計は、電磁アクチュエータを使用する従来型のガルバノメータ(「ガルバノ」)ビームステアリングシステムを、大幅に小型化したものである(7)。この小型モジュールでは、アクチュエータとしてUTAF圧電モータを採用している。このモジュールは、体積が2cm3で、最も長い次元がレーザ光源を含めて10mmである。
 2つのミラーを搭載するシステムは、モーション範囲が最大となるが、直径2mm未満のコリメートレーザビームが必要となる。ミラーの反射率は選択可能である。アルミニウムまたは銀でコー
ティングされたミラーは、350〜4000nmの波長範囲で90%以上の反射率を備える。このようなミラーの場合、レーザに損傷を与えるしきい値を超えないように、連続波(CW:Continuous Wave)出力は10mWを超えてはならず、また、パルスレーザ出力の最小パルス時間は1μs以上でなければならない。

図1

図1 2つのミラーを搭載し、圧電アクチュエータを採用するこのビームステアリングシステムは、ガルバノメータ(「ガルバノ」)に基づく従来型のビームステアリングシステムを大幅に小型化したものである。

表1

表1 マイクロビームステアリング・モジュール・システムの比較

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/10/LFWJ1509-24-27.pdf