材料の改善によりレーザガラスが主流アプリケーションに

トッド D. イェーガー

希土類添加ガラスは、以前から大規模な国立研究所で基礎研究に利用されているが、材料特性の進歩が医療デバイス、天文や計測、材料加工アプリケーションでその利用を主流に押し上げつつある。

レーザガラス(LG)は、希土類イオンを添加した伝統的なアモルファスガラスで構成されており、LG680、LG750、LG940(図1、2)などショット社(SCHOTT)の様々な処方設計で利用できる。処方設計は、その基礎ガラス材料(リン酸塩ガラスまたはケイ酸塩ガラスが多い)、また活性添加イオン、イオンレベルで変わる。レーザガラスをハイパワーレーザシステムの基盤にする同じ特性の多くが、レーザガラスを日常使用の申し分のない材料にしている、材料の均一性、ピークパワー出力、拡張性、コスト効果などである。

図1

図1 LG760レーザガラススラブに対して、干渉分光法テストを行い、ガラス仕上げの品質を調査する。ショット社は、このカルシウム−バリウム−アルミ−リン酸塩ベースのガラスをペンシルベニア州デュリエで生産している。

図2

図2 レーザキャビティ性能試験を行うリン酸塩レーザガラスを示している。

レーザガラスの特性

ネオジウム添加リン酸塩レーザガラスの高い均質性、メートルクラスのスラブが現在、国立点火施設(NIF)、レーザメガジュールプログラムで使用されている。また全ての市販レーザガラスタイプは大口径レーザシステム用に製造可能である。このようなシステムでは、スラブかロッドを使って、高いピークパワーのレーザパルスを生成する。そのような大口径レーザガラス部品をベースにして成功したプロジェクト例には、エクストリーム・ライト・インフラストラクチャー(ELI)、アポロン、神光(Shenguang)、GIST、ビームレット、メガジュール、VULCANおよびPHELIXがある。
 非結晶固体として、ガラスは純度および均一性では非常に高い水準で製造することができる。サイズや形の制約は最小限であり、直ぐに提供できる標準サイズは最大800×400×60mmである。結晶性材料ならばより高い繰り返しレート、一段と高い平均出力をサポートできると言われるが、大口径に成長すると法外に高価になり、またエネルギー蓄積能力はレーザガラスほど大きくはない。
 ネオジウム(Nd)添加リン酸塩と他のタイプの希土類元素を添加したガラスについての研究が、ピークパワーと波長の限界を押し上げつつある。ペタワットパルス出力方法は、過去十年来知られていたが、最先端の開発は現在、エクサワットパルスレーザのソリューションを検討している。このようなアプリケーションには、広い発光域が好まれる、この種の発光域で光パラメトリックチャープパルス増幅(OPCPA)が非常に簡単になっているからである。
 柔軟なプロトタイピングや製造工程によって、ガラスベースのレーザを使った特殊アプリケーション向けで、コスト効果の優れたカスタムレーザガラスやコンポーネントの製造が可能になる。それに対し結晶では、イオン添加で均一な濃度プロファイルを得ること、高レベルドーピングを達成することは非常に難しい。例えば、結晶性材料で>15×1020 Yb3+ions/cm3のドーピングレベル達成は難しい。
 歴史的に、ガラスの欠点の1つは希土類添加結晶に比べて低い熱伝導性であったが、温度の関数として低屈折率変化(低dn/dT)のガラス開発で飛躍的な進歩があった。これによって熱レンズが避けられ、全般的に優れた熱機械性能指数が得られる。例えば、APG-1ガラス、dnrel/dT(20−40)=1.2×10−6/Kが達成可能である。
 新しいガラス母材、コスト効果の優れた小ロットの溶融量で活性ドーパントの組合せを利用することで、潜在的なレーザガラスアプリケーションの範囲が近年飛躍的に広がった。それはもはや単にエクサワットレーザではなく、実際、レーザガラスは大規模アプリケーションを超えて、日常利用に入ってきている。

ハイパワーレーザ研究を超えて

LG680とLG7xxファミリなどの特殊タイプのレーザガラスは、相対的に発光帯域幅が広くエネルギー蓄積が効率的であることから、ペタワットのピークレーザパルスをサポートする(図3)。製造プロセスは完全スケーラブルであり、結果として得られるガラスは従来の光学加工を使用して仕上げることができるので、上述のようにNIF、レーザメガジュール、ELIピラーのような極端に大きなシステムでの利用に最適の材料である。これらは、これまでに導入された中で最高出力システムであり、次世代には10〜20PWのオーダーになる。
 それほど大きなパワーを用いると、中性子、陽子、X線を効率的に生成できる。例えば、チェコのELIホワイトブック(参照 http://bit.ly/1cLZqjp)に記載されているように、その構造はプラズマ生成や自由電子加速(ウェイクフィールド)に関係している。
 このようなシステムの最終目標は単なる基礎研究ではない。例えば、微細な亜原子粒子の流れはガン腫瘍に焦点を合わせることができるので、放射線障害を最小に抑えることができる。中性子あるいはX線ビームは車輌をスキャンし、亜原子粒子とオンボードの材料との相互作用を分析することで核爆発装置や他の有害なものを検出することができる。

図3

図3 LG760リン酸塩ベースレーザガラスの完成精密部品は、一般に高エネルギーアプリケーションで使用される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/10/LFWJ1509_20-23.pdf