レーザ誘起損傷閾値(LIDT)テスト技術の適用法

ジェイソン・イエーガー

光学部品へのレーザ誘起損傷を避けるには、いかなる条件でそれが起こるかを理解するとともに、レーザ誘起損傷閾値がどのように決まるかを理解するのがベストである。

レーザ光には、独特の特性がいくつかある。それには単色性、高コヒレンス、高コリメーションが含まれる。その結果、レーザは幅広いアプリケーション、材料加工、通信、医療、セキュリティと防衛で重要なツールとなっている。
 材料および光学被覆の進歩によりレーザ光学系は今では、ビーム強度のペタワット、つまり1015W達成を可能にしている。しかし、1960年にテッド・メイマン氏(Ted Maiman)が最初のレーザを実証して以来(1)、大きな制約の1つは光学損傷である。高エネルギーおよびハイパワーレーザシステムの光学部品、レンズ、ミラー、非線形オプティクス、プリズム、ファイバなどはレーザ誘起損傷(LID)を回避するために十分なマージンが確実に維持されるように正しく選択されなければならない。レーザ誘起損傷閾値(LIDT)がどのように計測されるかを的確に把握することが、所定のアプリケーションに適した光学部品を決めるために極めて重要である。

根本原理

レーザ誘起損傷は、試料表面あるいは大部分における、検査技術によって観察できるような何らかの永続的なレーザ照射誘起による特性変化として、ISO21054に従って定義されて いる。LIDは2つの主要な基本メカニズムに分類できる、熱誘起と電界誘起である(図 1)。
 熱: 連続波(CW)レーザでは、損傷閾値は熱吸収にって促進される(2)。損傷モードは、パルス幅が、~10-8sまでの長いパルスでも見られることがある。損傷は、材料の溶解と気化の両方、あるいはいずれか一方が原因で起こる。吸収は、熱伝導性による材料の熱分散能力を超えているということである。CWレーザのLIDTはパワー密度として表され、光輝、つまり面積当たりのパワーと見なされている(W/cm2)。
 電界誘起: パルス幅が10-8~10-14の短パルスレーザ光源では、損傷閾値は光電離効果または電界効果によって促進される(図1)。電界効果は、フルエンスあるいはエネルギー密度に関連して議論されることがある。つまり面積当たりのエネルギーである(例えば、J/cm2)。
 光電離は、電磁放射によって媒体に生ずる電離である。電界が媒体に結合し、フォトンの吸収によって電子を伝導帯に励起する。これらの電子がプラズマを作り、臨界密度に達すると、入ってくるフォトンと直接相互作用する。これはプラズマ周波数がレーザの周波数と共振するためである。するとプラズマの温度が著しく上昇し、爆発的な拡大が始まる。したがって、衝撃波が形成される。これはスパークのように見え、パチッという音が出ることもある。
 プラズマからの熱は、周辺格子に結合し、パルス幅が十分に長いと熱損傷を起こす。パルス幅が10-10~10-13sでは、アバランシェ電離が主要な役割を果たす。パルス幅 <10-13sのフェムト秒レーザでは、マルチフォトン電離プロセスが主要動因であり、その役割はパルス幅縮小にともない大きくなる。この領域はコールドレーザ加工の基盤であ る。プラズマ拡大時間は非常に短いので、エネルギーが周辺材料に効果的に伝わることはない(3)。

図 1

図 1 レーザ誘起損傷は、電界誘起および熱誘起光学損傷を含み、パルス幅域全体に見られる。挿入図は、誘電体被覆における電界誘起レーザ損傷の例(提供:米カンテル社)。

レーザ損傷テスト手順

 最も一般的に利用されるテスト手順はISO21254、「レーザとレーザ関連装置 - レーザ誘起損傷閾値のテスト法」であり、その前身はISO11254である。これらの国際基準は、レーザビームの影響下の光コンポーネントの不可逆損傷を判断するために使用される。再現性があり、テストラボに依存しないような方法である。
 例としては1-on-1テスト(サイトあたり1パルス)とS-in-1(サイト当たりマルチショット)。損傷は、なんらかの永続的レーザ誘起変化と定義できる。これは検査技術、一般には150×微分干渉(DIC)顕微鏡によって観察できる。DIC顕微鏡は、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡でもある(図 2)。この照明技術は、透過サンプルのコントラストを高めるために利用される。DICは干渉分光法をベースにしてサンプルの光学パス長の情報を得る、別な方法では見えない特徴を明らかにする(4)。

図2

図2 150 倍反射型ノマルスキー顕微鏡を使った光学検査(a)でレーザ損傷が明らかになる(b)(提供:米カンテル社)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2017/01/LFWJ1701ft2.pdf