6軸で正確な位置決めを行うヘキサポッド

ジョン・ウォレス

ヘキサポッドは、高精度、高正確度、高耐荷重のバージョンが提供されており、組み立て、シミュレーション、振動絶縁(防振)など、さまざまな処理に向けた光学部品のアライメントに用いられている。

ヘキサポッドは、テストプラットフォームのベースに対する相対位置を6自由度(6DoF:six Degrees of Freedom)で制御するためのシンプルで優れた手段である。ここで、可動プラッ
トフォームと固定ベースが正三角形であるとすると、典型的なヘキサポッドは八面体に似た構造で、側面の6つの辺は長さが延長可能で、上面と底面の3つの辺は固定である(ただし、実際のヘキサポッドの中には、八面体でないものも存在する)。
 これにより、機械エンジニアが静定構造と呼ぶ構造が形作られる。この構造は、他のコンポーネントに応力を加えることなく形状や位置を変えることにより、支柱(実際には直線形のアクチュエータ)の長さの変化に自動的に適応することができる。さまざまなアクチュエータ長の変化を適切に計算することにより、テストプラットフォームを、x、y、z、θx、θy、θz の軸方向に、個別または同時に移動させることができる。このモーションは複雑であるため、通常はコンピュータソフトウエアによって調整される。直線形アクチュエータの精度に応じて、ヘキサポッドの精度はナノメートルレベルにも及ぶ。
 スチュワートプラットフォームとも呼ばれるヘキサポッドは、科学や産業の分野の多くの高精度光学部品の設定において重要な役割を担う。本稿では、提供されているヘキサポッド製品のうちのほんの一部しか紹介できないが、現在提供されているものを代表する例を取り上げたいと思う。また、本稿で取り上げるすべてのメーカーが、要求に応じてカスタムメイドのヘキサポッドを製造していることにも言及しておく。

ヘキサポッドの定義

ヘキサポッドは、さまざまなサイズとレンジで製造されている。米フィジック・インスツルメンテ社(PI:Physik Instrumente)のマーケティング担当副社長を務めるステファン・フォルンドラン氏(Stefan Vorndran)によると、PI社は1990年代初頭に、ハワイの天体望遠鏡用の高精度ヘキサポッド・モーション・プラットフォームの設計に着手したという。PI社は現在、0.5 ~ 2000kgの荷重に対応する、ヘキサポッドとそれに関連する6軸並行モーションシステムを製造しており、モデルとバリエーションは100種類を超える。フォルンドラン氏は、「すべてのタイプがサブミクロンの精度を備え、なかにはナノメートル精度を達成するものもある。ヘキサポッドを使用するほとんどの用途で、非常に高い安定性と精度による高速なステップとセトリング(高精度ポジショニング・ヘキサポッド)が求められ、さらに連続的な高速モーションを必要とするもの(モーション・ヘキサポッド)もある」と述べる。
 ブラシレス・サーボモーター、リニアモーター、圧電リニアモーター、ステッパモーターがヘキサポッドで使用可能だと、フォルンドラン氏は説明した。ブラシレスモーターは、高いダイナミクスと、24時間年中無休で稼働する場合に重要な長い寿命を備える。リニアモーターは最も高速だが、サイズに対して力が比較的弱い。圧電モーターは、サブナノメートルの分解能と自己ロック機能を備えるので、真空や非磁性の用途に適している。
 動力伝達には、ボールねじ、ローラーねじ、親ねじ、ダイレクトドライブ(リニアモーター)システムが使用される。ローラーねじは最も剛性が高く自己ロック式であるのに対し、ボールねじはコストと速度の適切なバランスがとれている。
 屈曲ジョイント(摩擦、遊び、摩耗がない)は、高速モーション・ヘキサポッドや超高精度ヘキサポッドなど、低荷重の用途で使用されるとフォルンドラン氏は述べた。より高い荷重に対する頑健性が求められる場合は、zオフセットを持つカルダンジョイント(ユニバーサルジョイント:自在継手)が、剛性と向きに依存しない性能を最良の組み合わせで備えるが、オフセットジオメトリを処理するためのより高度な制御アルゴリズムが必要になる(正確でスムーズな6軸経路計画のために、毎秒数百万回の演算が実行可能な高速コントローラが必要であることを意味する)。フォルンドラン氏によると、ボールジョイントは良い選択肢のように見えるかもしれないが、剛性が低く向きに依存するので、ほとんどの用途で推奨されないという。
 一例としてPI社の小型ヘキサポッド
「H­811.i2」は、5nmの分解能、34×32×13mmのx­y­z 軸移動量、20×20×41°の角度移動量を備え、20mm/秒の最大速度で5kgの荷重を積載できる。ブラシレス・サーボモーターと低摩擦のボールねじが採用されている。ターゲット用途は、光学レンズやファイバのアライメントと、シリコンフォトニクス(SiP)製造である。H­811モデルには、EtherCAT対応のコントローラが搭載されており、すべての座標変換を内部で処理する他、ユーザープログラム可能なピボットポイント(回転中心)と、異なるツール/加工対象物座標系の計算を行う。光パワーメーターなどの外部計測器に対する高速入力や、ファームウェアベースの高速アライメントルーチンによって、自動アライメント処理の高速化が図られている。
 SiPデバイスのテストとパッケージングには、ナノスケールのアライメントが必要だが、視覚的または機械的な基準を使用して実行することはできない。光学スループットそのものを最適化しなければならないためである。SiPには、入出力が相互に作用する複数の並列光学経路が設けられる場合が多く、経済的および物理的な理由から、そのすべてを同時に最適化する必要がある。サイズの制約もあるので、アライメント装置はできるだけ小さくなければならない。メカニクス、コントローラ、ソフトウエアが組み合わされたH­811のような、コンパクトで低慣性の6DoFモーションシステムの能力は、SiP製造を平面テストからパッケージングまで進める上でカギを握ると、フォルンドラン氏は述べる(図 1)。

図 1

図 1 PI社の高速マルチチャネルフォトニクスアライメント(FMPA:Fast Multi channel Photonics Alignment)用小型ヘキサポッド「H­811」2台が、米カスケード・マイクロテック(Cascade Microtech)社のシリコンフォトニクス・ウエハプローバ上に配置されている。(提供:カスケード・マイクロテック社、現在は米フォームファクタ社[FormFactor]傘下)

ヘキサポッドの多数の機能

ヘキサポッドは、高精度モーションデバイスとして複数の機能を備える。米ムーグCSA社(Moog CSA)は、高精度ポジショニング、高周波モーションシミュレーション、振動絶縁の3つの主な用途を対象に、ヘキサポッドやその他の多自由度モーション制御システムを製造していると、同社のヘキサポッド製品マネージャーを務めるライアン・スニード氏(Ryan Sneed)は説明した。
 高精度ポジショニング用ヘキサポッドは、モーター駆動のローラーねじアクチュエータを一般的に使用して、準静的な位置決めや低速トラッキングを行い、1μmと1μrad以上の分解能を達成することができる。ペイロードは、小さなセンサから大規模な地上望遠鏡用の5000kgのミラーまで、多岐にわたるとスニード氏は述べた。モーションシミュレーション用ヘキサポッドは、ボイスコイルアクチュエータを搭載し、最大数百Hzの周波数成分を持つモーションプロファイルと外乱プロファイルを作成する。振動絶縁用ヘキサポッドは、ほぼ摩擦のない空気ベアリングを備える空圧式支柱に基づき、レーザ
と光学システムのベース外乱からの振動レベルを低減するために使用される。絶縁に一般的に用いられるソフトな機械式ばねに、重力によるたるみを生じさせることなく、ターゲットとする周波数範囲全体にわたって60dBの絶縁性を達成することができる。
 スニード氏は、高周波モーションシミュレーション用ヘキサポッドの例として、光学部品やフォトニクス部品の一連の重要な用途に対応する、ムーグ社の「HX­M350」を挙げた。ボイスコイルアクチュエータにより、最大180kgのペイロードに対応し、±2.5°のティップ/ティルト回転範囲、±251mmと±11mmの横方向/縦方向移動範囲を達成する。プラットフォームベースのリアルタイムな制御により、アクチュエータ軸のみに対する限られた制御ではなく、ヘキサポッドの個々の軸を制御システムによってチューニングすることができる。反射メモリインタフェースにより、高周波外乱によって飛行時のジッタ条件を再現する、HIL(Hardware In the Loop)のミサイル追尾コシミュレーション用の高速なデータ転送が可能である。
 またHX­M350は、衛星光学センサ用に、6DoFの軌道上振動環境のシミュレーションも行う。従来の加振機システムは、一度に1つの直線軸のモーションに限定されていた(図 2)。スニード氏によると、カメラの手ぶれ補正アルゴリズムのテストや、製品完全性の検証などの用途にも、この技術が適用できるという。

図2

図2 ムーグCSA社の「HX­M350」は、モーションシミュレーション用ヘキサポッドで、衛星光学センサ用に、6DoFの軌道上振動環境のシミュレーションを行うことができ
る。(提供:ムーグCSA社)

高い熱安定性

仏シメ卜リー社(Symétrie)は、高精度な位置決めとダイナミックなモーションが可能な、高さが68mm ~ 4mのヘキサポッドを製造していると、シメ卜リー社のマーケティングおよびセールスマネージャーを務めるアンヌ・デュゲ氏(Anne Duget)は述べた。同氏によると、高精度ポジショニングシステムは、サブミクロン分解能で、ミラーや試料をビームラインに合わせたり、ミラーを衛星や望遠鏡に合わせたりするために使用され、モーションシステムは、船、トラック、戦車、航空機のモーションをシミュレーションし、最大速度2m/s、加速度4gの環境に搭載される予定の電気光学システムのテストに使用されるという。ペイロードは、数gから数十トンまでさまざまだという。「ヘキサポッドには6個のアクチュエータが搭載されているので、簡単にペイロードをそれらの間で分散させることができる」とデュゲ氏は述べた。
 シメ卜リー社の「ZONDA」という高性能ヘキサポッドは、高精度、高荷重、長い移動量を必要とする用途に対応すると、デュゲ氏は述べた。最大400kgのペイロードを50nmの分解能で配置するように設計されており、x 軸とy 軸の移動量は400mm、z 軸の移動量は300mm、θx、θy、θz 軸の移動量は40°である。高い熱安定性は、インバー材、リニアアブソリュートエンコーダ、そして「特に堅固なジョイント」を採用しているからだと、デュゲ氏は付け加えた。インバーは、熱膨張係数が1μm/m/°Cで、鋼鉄(11μm/m/°C)やアルミニウム(23μm/m/°C)と比べて非常に低い。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2018/11/p36-40_pp_vibration_control.pdf