消費者向けバイオメトリックの第二波がVCSEL業界を再構築
いまだ指紋識別技術がバイオメトリック市場を独占する中、3D顔認識やその他の光工学を基盤としたセキュリティーアプリケーションが、大きな変化をもたらしている。
指紋認証は、初めて消費者向けに使用されたバイオメトリック技術である。その始まりは1892年、アメリカ連邦捜査局(FBI)が犯罪者の指紋データベースを構築する際にインクを使用したところまでさかのぼる。2013年、米アップル社(Apple)がiPhone 5sにTouch ID技術を導入したことで、指紋認証は大衆になじみのあるものとなった。以降、指紋検出が現在の消費者市場で用いられるバイオメトリック技術の中で最も中心的な技術であったが、その時代は終焉を迎えるかもしれない。
仏ヨール・デベロップメント社(Yole Développement)は、指紋を用いた消費者市場向けハードウエアソリューションが生み出す現在の年間収益を27億ドルと推定している。これは、消費者向けバイオメトリックハードウエア市場全体(2018年は48億ドル)の57%を占める。
指紋検出のように、3D顔認識は、完璧なバイオメトリック技術としてほぼすべての条件を満たしている。つまり(いくつか懸念はあるものの)、頑強で安定的、反復可能であり人工知能(AI)アルゴリズムの力を借りればほぼ時不変で、偽証しにくく唯一無二であり、利用や操作が容易で、ある程度利用者に負担をかけないものであることだ。
バイオメトリックの第二波
ヨール社による2016年中間予測の通り、このバイオメトリックの第二波は2017年末から勢いを増している。これは2013年に指紋検出技術で脚光を浴びた企業、すなわちアップル社のiPhone Xによるものだ。2013年にアップル社に買収されたイスラエルのプライムセンス社(PrimeSense)の研究を元にしたストラクチャード・ライト3Dセンシング(ステレオ方式やToF方式とは対照的)という特定の3Dセンシングモジュールを組み込んだことで、3D顔認証機能が可能になった。
3D顔認識の導入と共に、アップル社は消費者市場にこの技術と3Dセンシングの使用事例の基準を確立した。同社は、3D顔認識を確実に実行するため、スイスのSTマイクロエレクトロニクス社(STMicroelectronics)の近赤外線グローバルシャッター機能を搭載したイメージセンサと共に、ストラクチャード・ライトの原理を用いて、カメラモジュールとVCSEL(垂直共振器面発光レーザ)光源を取り入れた複雑な部品を設計した。
バイオメトリックは高価な技術を用いているため、この第二波は2023年までに市場価値を150億ドルまで押し上げる。直接的な結果として、2018年は指紋センサがバイオメトリック技術市場を独占する最後の年になるだろう。(図1)
スマートフォン業界は大幅に減速しているが、ヨール社は3D顔認識の普及率は依然として高いと見込んでいる。企業は市場獲得のために最高レベルの機能を導入・提供する必要があるが、中国大手企業ファーウェイ社(Huawei)、オッポ社(Oppo)、ヴィボ社(Vivo)、シャオミ社(Xiaomi)は軒並み3D顔認識技術を採用しており、2018年は15億ドルであった3Dセンシングハードウエア市場は、2023年には115億ドルに成長する見込みだ(図 2)。
3D顔認識技術は、特にVCSELやDOE(回折光学素子)などさまざまな主要小型部品を必要とするストラクチャード・ライトを検出するアプローチに基づいている。このDOEは3Dマップに再構築されるシーンにパターンを投影 するために使 用 される。DOEはVCSELから来るコヒーレント光を回折し、特別なパターンを投影する。こうしたシーンからパターンの変形を分析することにより、そのアルゴリズムとIRカメラがシーンを3Dで再構築することができる。よって、VCSELはバイオメトリック市場に旋風を巻き起こす重要な部品であると言える。
VCSELブーム
1979年にデモンストレーションが行われて以降、VCSELは多様なアプリケーションに普及し、複数市場の規模と領域を変えてきた(図 3)。VCSELを初めて導入した産業用アプリケーションは、光データ通信だ。端面発光レーザ(EEL)に比べて消費電力と価格が抑えられることから、VCSELはデータアプリケーションに浸透し、2000年に入ってからその売上げはデータセンターの開発に牽引されている。なお、レーザプリンターやオプティカルマウスといったVCSELの新規アプリケーションが誕生しているが、これらは高額市場ではない。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/05/020-023_pa_biometric_security.pdf