時間分解蛍光の臨床応用
ラベルフリーな時間分解(寿命)蛍光分光法とイメージングは、ヒトにおけるロボット手術試験で証明されたように、複数の臨床応用の可能性を示している。
ここ数年、時間分解(寿命)蛍光分光法とイメージング(「どのように機能するか」を参照)は、臨床的有用性の希望を満たす方向に着実に動いている(1)。時間分解蛍光は近年、アテローム性動脈硬化プラークの特徴づけ(2)、頸動脈の特徴づけ(3)、脳への放射性誘導の壊死変化のin vivo(生体内)検出(4)、関節リウマチの診断(5)、口腔がんの診断(6)のために研究されている。すべて外因性の薬剤を使用せず、リアルタイムに行う。
臨床応用における寿命蛍光の多くの利点は、手術中のイメージガイドによるがん手術の例において明らかである。
がん手術とイメージガイダンス
手術はほとんどのがんに対して推奨されている治療法であるが、現在の腫瘍切除では視覚的な異常と触診で検出する術者の能力に依存している。これらのスキルは、多くの経験豊富な医師でも直面する問題だ。
時間分解でないスタンダードな蛍光ガイド手術(FGS)は、異常細胞と親和性のある造影剤を患者に注入する方法である。すると、特定の波長の光を照射したときに腫瘍組織は蛍光を発するため、術者がすべての異常細胞を切除できる可能性が高まり、患者は転移の可能性を低くできる。
FGSは、現在の標準治療では重要な進展だ。しかしながら、イメージガイド手術システムで必要とされる蛍光マーカーの開発は進んでいるが、ヒトの使用で承認されている蛍光分子の不足により、その進展は妨げられている。
2010年、米インテュイティブ・サージカル社(Intuitive Surgical)は、Fire Flyと呼ばれるモジュールを通じて同社のda Vinci Surgical SystemのアドオンとしてFGSを発表した。ここでは、FDAが承認したインドシアニングリーン(ICG)を用いて血流と組織灌流の近赤外蛍光(NIRF)イメージングを行う(図1)。2000年に販売されたda Vinciは、他のどのロボット手術機よりも使われている。ロボット手術では触覚フィードバックがなく、視覚が唯一の評価手段のため、このモジュールは重要な追加である。しかし、ICGは分子標的プローブではないため、決定的ながんの評価に対しては特異性に欠け、腫瘍境界の定量的な評価はできない。ICGによるイメージングには、手術室の照明をオフにする必要があり、この事実はワークフローにシームレスに取り込めないことを意味する。
よりロバストなイメージガイダンスの方法を探索し、インテュイティブ・サージカル社は時間分解自家蛍光に取り掛かった。ラベルフリー技術のように時間分解蛍光分光法(TRFS)は、注入するバイオマーカーとは異なり、内因性の蛍光分子を利用する。これにより、口腔がんを診断する研究で定常状態であった蛍光技術の欠点を克服する。時間分解のコントラストの仕組みにより、スペクトルで重複する蛍光分子を区別できるようになり、がんに由来する構造・代謝特性の変化を明らかにすることで、組織の分子構成に関する情報を得られる。この方法は、特に頭部がんと頸部がんにおいて、通常組織と腫瘍組織を区別できると証明された。
時間分解蛍光の分野で先駆的な研究者である米カリフォルニア大デービス校(University of California Davis)のローラ・マルクー博士(Laura Marcu)との共同研究で、インテュイティブ・サージカル社は近年、ロボット手術で自家蛍光を取り入れたヒト初回試験に着手した。ここでは、リアルタイムな手術ガイダンスに向けた時間分解組織診断の使用が研究された。
マルクー博士の研究室で以前に行われたマルチスペクトルな時間分解蛍光分光法(ms-TRFS)をスキャンする研究に基づき、同校医学部のグレゴリー・ファーウェル医師(Gregory Farwell)と協力し、グループは光ファイバプローブをカスタマイズしてms-TRFSサブシステムをda Vinciシステムに組み込んだ。彼らはin vivo で目視検査を補完するために、経口的ロボット手術(TORS)を行う口腔がんに対して、最初はブタで、その後ヒトで、組み込まれたシステムの性能を評価した(7)。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2019/07/bio_fluorescence-imaging.pdf