高出力ウルトラファーストレーザにおける熱レンズ効果の抑制

トニー・カラム、ウラジミール・ペルバック

パルス幅が短くピーク出力が高いウルトラファーストレーザシステムは、材料加工から顕微鏡法に至るまでの幅広い用途にメリットと改善をもたらす。

ウルトラファーストレーザシステムは、材料加工の他、医療用レーザ、半導体検査、非線形イメージングや顕微鏡法でも活用されている。これらの用途に押し上げられる形で、ウルトラファーストレーザの出力はますます高まっているが、この技術は、熱レンズ効果などの熱効果に特に敏感である。
 熱は蓄積し、利得媒体や共振器内部の光学素子の屈折率変化や、変形を引き起こす場合がある。その影響によって、ウルトラファーストシステムの性能が妨げられ、モードロックやパルス生成が不可能になることさえある。また、熱レンズ効果は、レーザ共振器に非点収差を引き起こす。しかし、新しい高分散の共振器内ミラーコーティングは、熱効果を最小限に抑えることができる。この技術進歩は、熱効果が無視できる共振器内光学素子の開発を可能とし、最高水準のウルトラファーストレーザシステムの実現を促進する。
 このような種類のシステムは、レーザ共振器の外側で使用される外部光学素子にもメリットがある。例えば、高エネルギーでウルトラファーストの発振器や増幅器に使われる光学素子である。熱レンズ効果を抑制する技術を採用する外部分散ミラーは、熱による悪影響を最小限に抑えつつ、ビーム安定性とパルス圧縮に対する高い制御性を備える(図 1)。

図1

図1 熱レンズ効果を抑制するように設計された、高分散ミラーコーティングは、高出力ウルトラファーストシステムで使用した場合に、共振器の内部と外部の両方の光学素子にメリットがある。この図に示したのはその一例である。

熱レンズ効果

熱レンズ効果は、レーザシステムのビーム品質と出力に制約を与える。高出力で動作するシステムでは、その影響が特に顕著で、ウルトラファーストレーザシステムの場合は、モードロックやレーザパルス生成ができない状態Continuous Wave(CW)モードで動作して、共振器アライメントを行う。その後、実際の使用に向けてパルス波設定に切り替えられるが、熱レンズ効果によって、この設定におけるモードロックやパルス生成が妨げられる可能性がある。
 熱レンズ効果は、レーザ共振器のアライメントずれを引き起こし、望ましくないレーザモードを生成し、ビームの向きをドリフトさせ、レーザ共振器に非点収差を引き起こす恐れがある。そうしたすべての効果が、最終的なシステム性能を低下させて予測不能とし、ウルトラファーストレーザの高出力を妨げる可能性がある。熱膨張によって、光学部品が変形し、ミラーの曲率半径が変化する可能性もある。この変形は、ミラーの焦点位置をシフトさせ、共振器のアライメントずれを引き起こして、ウルトラファーストシステムのモードロックを妨げる可能性がある。
 パルスビームが生成できなければ、ウルトラファーストレーザは無用となる。利得媒体や光学部品基板の本質的な熱特性を操作するために適用できる手段は多くないが、適切な分散ミラーコーティングを慎重に選択することにより、熱レンズ効果を抑制することができる。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/11/028-029_ultrafast_lasers.pdf