ハイパースペクトルイメージング、3つの異なる用途でその能力を発揮
VNIR(可視近赤外域)またはSWIR(短波長赤外域)の数百ものスペクトルバンド(分光帯)で画像を取得できる小型HSカメラは、現場での研究作業に貴重な存在となっている。
ハイパースペクトル(HS)カメラは、対象物によって反射した光を多数の狭いスペクトルバンドに分割する。バンドはすべて、個別に記録及び処理される。その結果、画像内の各ピクセルのスペクトルシグネチャが、カメラによって取得される。CMOSベースのチップ技術のおかげで、多くの用途に対して、高額な研究装置よりも標準カメラにはるかに近い価格で、HSイメージング装置を構築することができる(図1)。また、短波長赤外(SWIR)センサを採用した新しいカメラプロトタイプの開発も進められている。
こうしたチップを基に設計されたカメラは軽量かつ小型で、精密農業や医療機器など、幅広い用途に適している。HSイメージングの商用市場を推進する主要要件は、フォームファクタ(携帯型、軽量)、広波長域への対応(可視域、NIR、SWIRの範囲)、ビデオレート以上の速度でのスナップショット撮影である。imecの統合型イメージング(Integrated Imaging)グループは、imecUSAと共同で、HSイメージングを新しい応用分野に適用し、その多用途性を実証した。
ネーデルランドのダ・ヴィンチ
レオナルド・ダ・ヴィンチの有名なフレスコ画である「最後の晩餐」が鑑賞できるのはミラノだが、米国美術史家のジャン・ピエール・イスブ氏(JeanPierre Isbouts)は、ベルギーのトンゲルロ修道院にある「最後の晩餐」の複製画の制作に、ダ・ヴィンチが関与した可能性があると考えている。この500年の間に、美術修復家らは加えた塗料が裸眼では見えないようにすることで、この絵画の細部を維持してきたため、この理論を支える証拠を実証するのは難しい。
そこでイスブ氏は、一筆一筆の化学組成を分析して、これまでに追加された塗料を識別し、絵画の最も古い層の検査を可能にする技術を求めて、imecに連絡を取った。ハイパースペクトル画像を、従来型カメラからの詳細画像と組み合わせることで、卓越した描画技法や、画家がどのように絵筆を持って描いていたかといった独特の特徴が明らかになる。また、IR(赤外域)以上のスペクトルバンドを使用すれば、修復されている可能性がある下層や亀裂を、さらに詳しく調べることができる。絵画を150のスペクトルバンドで撮影することにより、研究者らが分析を行うことのできる、大量のデータセットが得られた(図 2)。
従来のHSカメラの課題の克服
ハイパースペクトルカメラはこのような用途に対してかなり有望だが、実験施設から持ち出すには大きすぎるという問題が従来からあった。しかし、今回のようなケースでは、美術品を実験施設に移すと、費用がかかる上に移送中に傷つける恐れがあり、百害あって一利なしである。
imecのVNIR(可視近赤外域)ハイパースペクトルイメージングカメラ「SNAPSCAN」に更新を加えて、軽量化(光学系を除いて780g)、小型化(13×9×7cm)、効率化を図り、絵画は安全な場所に置いたまま、カメラを修道院に持ち込めるようにした。カメラは、100 ~ 200fps以上の撮影速度、フラットな信号対雑音比(S/N比)に加え、高い空間分解能(バンドあたり7メガピクセルRAWで、最大3650×2048ピクセル)とスペクトル分解能(NIR版で100バンド以上、VNIR版で150バンド以上)を備える。
その結果、ダ・ヴィンチの絵画を分析するための適切な画像をわずか数時間で取得することができた。このカメラは、取得パラメータ、照明、対象物にもよるが、約200ms ~ 20sの速度で動作するためである。イスブ氏は、描かれている人物の頭部のイメージングに特に関心を寄せていた。ダ・ヴィンチがこの絵画の制作に関与したとすれば、おそらくは最も重要な人物の細部を描いたのだろうというのが、同氏の理論だった。カメラは、ほんの数分で画像を記録することができるが、課題は、正しいキャリブレーション、設定、フォーカスを定めることである。このカメラよりもはるかに大きい既存の科学用HSカメラと比べて、その作業は非常にスムーズだった。研究者らがこの新しいSWIRセンサを現場で使用したのは、この実験が初めてだった。
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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2021/01/32-34_ft_hyperspectral_imaging.pdf