生産ツールとして普及する、フェムト秒レーザ加工

ローランド・ウェルツライン、トーマス・シュライナー

フェムト秒レーザによる切断技術の進歩に伴い、需要は急増している。

フェムト秒レーザの性能向上とコスト改善に加えて、医療器具などの精密部品において卓越した切断品質に対する需要が高まっていることに後押しされて、他にはないメリットを備えるフェムト秒レーザ加工は、有望な手法から最前線の生産ツールへと進化を遂げた。

フェムト秒レーザとファイバレーザ

フェムト秒レーザ切断は、さまざまな生産現場において貴重なツールとして急速に普及している。それを示す証拠が、図 1の販売データである。このグラフには、2019年と2020年の間に、より広く利用されているファイバレーザと比べて、フェムト秒レーザが大きく増加していることが示されている。なぜか。何が変わったのだろうか。
 より長パルスのレーザ(ファイバレーザなど)からフェムト秒レーザへのこの最近の移行を促した主な要因は、次の4つである。すなわち、フェムト秒レーザ加工によるエッジ品質が卓越していること、そのコストが全般的に改善されて経済的な転換点に達したこと、フェムト秒レーザでしか切断できないか、フェムト秒レーザを使えばより適切に切断できる機器の需要が増加していること、直感的でユーザーフレンドリーなGUIを備えた、使いやすいターンキー式のフェムト秒システムが登場したことである。
 フェムト秒レーザを材料加工に使用する場合の他では得られないさまざまなメリットについては、古くから知られている。マイクロ秒やナノ秒レーザを使用した従来の材料加工では、レーザと物質の主な相互作用は光熱的で、熱影響部(HAZ)が生成される。精密加工ではこれによって、溶融することなくクリーンに加工できる最小フィーチャサイズが制限される。また、これが原因で、周辺材料に許容できない機能的または外観的損傷が生じる可能性もあり、通常は機械的な後処理が必要である(バリ取り、手作業による研磨、リーミングなど)。
 一方、フェムト秒レーザは、数ケタ短いパルスをはるかに高いピーク電力で出力し、熱が部品に伝導する前に材料を瞬時に気化する。また、このパルス特性によって、任意の材料の加工が可能である上に、ポリマー/金属層などの混合材料部品の加工も可能である。フェムト秒レーザパルスは、デブリを再付着させることもないため、切断後の研削/研磨は不要である。
 同等に重要な点として、フェムト秒レーザは、性能、経済性、信頼性の面で新たな成熟レベルに達している。その一例が、米コヒレント社(Coherent)の「Monaco」シリーズである。同シリーズの最大出力は、図1に示した期間の間に、20W未満から60W以上にまで継続的に増加している。
 多くのフェムト秒レーザにおいて、ワットあたりコストも最近低下しているため、これらのレーザは、より低い部品あたりコストで、より高いスループットを提供するこ とができる。Monacoは、要件の厳しい生産環境で長年にわたって24時間年中無休稼働を続けており、これは、フェムト秒レーザの信頼性が高くなったことで、全体的な所有コストはさらに低下することを表している。機械的な後処理工程が不要になることによるコスト削減効果を合わせて、フェムト秒レーザは複数の精密切断加工に対して、経済的な転換点に達することとなった。
 レーザ加工の多くの市場において、小型化が推進されている。その目的は、全体サイズを大きくすることなく機能を増やすことか、あるいは、全く新しい用途に対応することにある。医療器具(末梢ステントや最小侵襲ツールなど)は、ますます小型化と薄肉化が進み、細かい切断を必要とする箇所が増加しており、最近のフェムト秒レーザ
加工の利用増加を促進する大きな要因であることは間違いない。このことは、チューブ切断用に構成された装置の需要が増加していることに、特に顕著に表れているが、他の業界においてもこの技術への移行が進んでいる。実際、電子機器/ディスプレイの分野には現在、ウエハダイシングや有機ELパネル切断など、その例が多数存在する。フェムト秒レーザは、スイス時計などの一部の高級品にも利用されている。そうした製品は、繊細さと精密さを兼ね備えたパーツを使用することによって、機能と美観の両方を高めることができる。
 もう1つの主要要因は、一般的な処理に対して最適化された、ターンキー式の産業用切断及び加工システムが登場したことである。電子機器や医療器具などの精密部品を製造するメーカーに必要なのは、スタンドアロンのレーザではなく完全なソリューションである。柔軟で使いやすいソフトウエアと、装置の機敏性や多用途性が、多くの医療器具製造において重要になる。医療器具は、契約製造業者によってさまざまな種類のカスタムデバイスが少量単位で製造されることが一般的だからである。この市場では、同一部品に対して数千個単位の注文があれば、大量生産とみなされる。従って、大がかりなトレーニングや特殊な専門知識を必要とすることなく、装置を簡単かつ迅速にプログラムして、全体的なスループットを最大限に高められることが、非常に重要である。そのための基礎となるのは、用途と製造プロセスに合わせたフェムト秒レーザの最適化に関する知識と理解である。

図1

図1 コヒレント社のチューブ切断レーザシステムの売上高における、ファイバレーザ搭載機とフェムト秒レーザ搭載機の相対比率。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/07/038-041_ilsjft_coherent.pdf