脳の奥底へ

既存のイメージング技術を用いた現在進行中の研究により、アルツハイマー病などの神経疾患と、それによる脳への影響について、これまで以上に深く理解できるようになるかもしれない。より有用な治療法への道を切り開く可能性もある。
 米ボストン大(Boston University、BU)ニューロフォトニクスセンターのチームは国立衛生研究所(National Institutes of Health)のBRAINイニシアチブの助成金を受け、カリフォルニア大サンディエゴ校(University of California San Diego)とマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital、MGH)とイリノイ大シカゴ校(University of Illinois at Chicago)の研究者とともに、ニューロフォトニクスを活用している。その目的は、脳活動を測定・マッピングする非侵襲的イメージング法 である機 能 的MRI(fMRI)を用いて、神経回路と神経活動に関する情報収集手法を開発することである。この手法により、脳がどのように機能しているか、特に正常な脳機能が疾患によってどのように阻害されるのか、より深く理解できると期待される。
 「動物では、あらゆる種類の侵襲的な方法が利用でき、どの方法も非常に特異的である」と、生物医学工学者(BME)でBU准教授のアンナ・デヴォー医師(Anna Devor)は述べる。同氏は、BRAINイニシアチブの支援を受けた研究を主導している。「その一例が、二光子リン光寿命顕微鏡(2PLM)と酸素感受性ナノプローブを組み合わせた脳内酸素マッピングである」(図1)。
 この技術の開発は、MGHのA.A.マルティノスセンター生体医学イメージング所属で、BRAINチームのメンバーであるサヴァ・サカディック医師
(Sava Sakadzic)が主導した。「2PLMは、われわれが脳組織や血管の酸素化を観察する能力に革命をもたらしている」とデヴォー氏は話す。「これにより、活動ニューロンの酸素消費率を計算できる。活動ニューロンの酸素消費率は、fMRI信号のモデル化に必要なパラメータである。ただ、2PLMでは、酸素感受性ナノプローブを脳に送達する必要がある。さらに、リン光を検出するためには、頭蓋骨を開けなければならない」。
 これらは侵襲的な手技であり、ヒトには適応できないことは明らかだと、同氏は補足する。そこでチームはマウスを用いている。マウスに対しては、デヴォー氏のチームメンバーが開発した2PLMを含む「豊富なニューロフォトニクスツールキットを自由に使える」という。
 蛍光・リン光イメージング法の利点は、関与する脳細胞と分子に対する「絶妙な特異性」であるとデヴォー氏は述べる。「自分が見ているものが正確にわかるということだ」。ニューロンは電気パルスを発生させて神経伝達物質を放出し、酸素を消費して血流を調節する。ニューロフォトニクスツールを使用すると、これらの各パラメータに対応できる。
 これらの光学的な測定とは対照的に、fMRIシグナルはさらに複雑である。fMRIシグナルは、血流のダイナミクスや、酸素の供給と消費のバランスを反映している。そこで、2PLMの登場である。デヴォー氏のチームは、ニューロン活性が血流と酸素化に及ぼす影響を調べることで、巨視的なfMRI測定から神経回路に関する詳細な情報を導き出す限界を検証しようとしている。

図1

図1 2PLMによってマッピングされた脳内微小血管の酸素レベル。

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出典元
http://ex-press.jp/wp-content/uploads/2022/09/006-007_wn_neuroscience.pdf