伝搬方程式である非線形シュレディンガー方程式は非線形偏微分方程式であり、一般的に解析的な解を求めることができない。従って、光ファイバーにおける非線形光学効果を理解するために数値解析が用いられている。ここでは数値計算方法として、スプリットステップフーリエ法を取り上げ、光ファイバー中のパルスの振る舞いの解析方法を説明する。スプリットステップフーリエ法は高速フーリエ変換のアルゴリズム(FFT)を用いているために、他の大部分の解析法に比べて相対的に高速な解析が可能となる。

スプリットステップフーリエ法の説明を行うにあたり、非線形シュレディンガー方程式を用いる。まず同式を形式的に次のように変形すると都合がよい。

2.5.27

ただし、Dˆは線形媒質の分散と吸収を表す微分演算子、Nˆは非線形演算子であり、パルス伝搬に対するファイバーの非線形性の影響を表すものである。これらの演算子は次式で与えられる。

2.5.28

一般に分散と非線形性はファイバーの方向に沿って同時に現れる。スプリットステップフーリエ法は、まず短い距離 h を光が進むときに、分散効果と非線形光学効果があたかも独立に作用するものとして近似解を求める。具体的に言うと、 z から z + h までの伝搬を次の 3 ステップで行う。下図にその概念図を示す。

図:

図:スプリットステップフーリエ法

➀微小区間 h のはじめの h/2 の部分において分散効果のみが存在するとして第一式で Nˆ = 0 として伝搬させる。➁微小区間の中間においては非線形光学効果のみが存在すると仮定して Dˆ = 0 とおき、区間 h 全体に相当する非線形光学効果を作用させる。➂残りの h/2 の区間を分散のみを作用させて伝搬させる。式で書くと

2.5.30

と表せる。

まず微小区間の前半 h/2 だけパルスを伝搬させる。分散効果を表す指数演算子 exp (hDˆ/2) の演算は、次のようにフーリエ空間で行う。

2.5.31

ここで F はフーリエ変換を表す演算子であり、D ̃ (−iω) はDˆの式で微分演算子 ∂/∂T を−iωで置き換えたものである。ωはフーリエ空間の周波数を表す。フーリエ空間では ∂/∂T が単なる数となるので、上式の計算を直接実行できる。FFT のアルゴリズムを用いることで上式の数値計算を比較的高速 に実行することができる。

次に、微小空間 h の中間点において区間全体分の非線形光学効果を作用させる。これはA(z+h, T)を表す式にあるように区間全体において積分したものを作用させるが、これには台形近似を用いることで精度のよい近似解を得ることができる。

2.5.32

しかし、中間点 z + h/2 では N ̃ (z + h) がまだ求まっていないので、上式をそのまま用いるのは容易ではない。そこで、積分の計算には N ̃ (z + h) の初期値 を N ̃ (z) として反復法を用いる。つまり、まず A(z + h、T ) を求め、更にそれを用いて N ̃ (z + h) の新しい値を計算する。反復計算は時間がかかるが、このアルゴリズムに基づく計算法の精度は高く、ステップ幅 h を大きくすることで最終的な計算時間を短くすることができる。実際の計算では 2 回の反復で十分である。最後に更に分散だけを考慮に入れて残りの h/2 を伝搬させ A(z + h, T ) を求める。

スプリットステップフーリエ法を用いて計算しようとするときには、全体の時間幅、時間的な分解能、伝搬ステップ幅などに十分注意する必要がある。特に全体の時間幅は、伝搬によって各成分に生じる時間遅延を考慮して十分大きくとる必要がある。なぜなら時間領域の境界に到達した成分は自動的に反対側から再び入ってくるため、数値計算の不安定化が生じてしまうからだ。また、全体の時間幅はフーリエ空間であるスペクトル領域の分解能に関係することにも注意が必要である。

時間的な分解能は、伝搬させるパルスのパルス幅に対して十分な分解能が得られるように注意しなければならない。伝搬ステップ幅の最適値は、問題の複雑さに依存している。特に大きな非線形光学効果が作用する場合などにはステップ幅をより小さくしなければならない。以上のように、パラメータを適切に設定することに注意しさえすればスプリットステップフーリエ法は有力な解析法となる。