高平均出力レーザーを考える場合、励起光により蓄積されるレーザー媒質中の熱効果が問題となる。ファイバーレーザーの場合は、ロッド型、スラブ型、ディスク(thin-disk)型固体レーザーと比較して、表面積/体積比が大きいため排熱処理が簡単である。一方、光ファイバー中の熱効果の影響として、光ファイバーの温度上昇による溶融や光学破壊及びスペクトルの変化などが起こりうる。不適切な排熱処理により熱勾配ができると、熱レンズ効果や熱複屈折効果によるビーム歪みや熱破壊が生じる。また、ファラデーアイソレーター等の外部にある光学素子における熱効果もレーザーシステムの動作に影響を与える。

レーザー媒質中に蓄積する熱の主な原因は、量子欠損による熱の発生であり次式で表される。

ここで、vpとvLはそれぞれ励起光と信号光の周波数である。別の熱要因として、励起状態吸収(Excited-State Absorption:ESA)が考えられるが、Yb3+イオンの場合は2準位で形成されているためESAは問題とならない。
励起光の一部分が、ドーパントにより吸収され、熱に変換される割合は次式で表される。

ここで、λpとλLはそれぞれ励起光波長と信号光波長である。Yb3+イオンの場合、γhは0.05~0.20(λp:915~980 nm、λL:980~1140 nm)となる。

ダブルクラッドファイバーにおける熱負荷限界

ダブルクラッドファイバー(DCF)における端面励起の様子を図1に示す。以後、この図をもとに議論を進める。

図1:ダブルクラッドファイバー(DCF)における端面励起の様子

ある媒質の断面を通過する熱量hは、温度Tの勾配に比例し、次式で表される[1]、[2]。

ここで、Kcは物質の、熱伝導率(単位:W/(mK))である。また定常状態では、物質中の熱流動h(r,z)の発散が熱体積密度Q(r,z)に等しいことから

で表される[3]。光ファイバーのコアで発生した熱が放射状に流れるとすると、zからz+∆zで挟まれている体積からの全熱放射量は次式で表される。

したがって、熱量h(r,z)はコアの内側と外側に分けて、次式で現される。

ここで、Pp(z)=Pp(0)exp(αpz)は位置zにおける励起パワー、αpは希土類イオンが添加されたコアにおける励起光の吸収係数である。
コアと内部クラッドの熱伝導率は同じであると仮定して、r≤rbのときはKic(コアと内部クラッドの熱伝導率)とし、r>rbのときはKoc(外部クラッドの熱伝導率)とする。その結果、温度分布は参考文献[4]より次式で与えられる。

Tsを光ファイバー周辺の温度とすると、図1における領域1、領域2における温度分布はそれぞれ次式で示される[5] 。

…式(1)
…式(2)

ここで、Ph(z)=Pp(z)αpγhは単位長さ当たりに発生する熱量で、T(0,z)はコアの中心温度、H1は領域1における内部・外部クラッド間の熱伝達係数(2種類の物質間の熱エネルギーの伝え易さを表す値)、H2は領域2における内部・外部クラッド間の熱伝達係数である。ダブルクラッドシリカファイバーの溶融を熱負荷の限界と設定し、単位長さ当たりの最大熱体積をPhmaxとすると、領域1、領域2の最大熱体積はそれぞれ次式で示される[5]。

ここで、Tmはシリカファイバーのコアの溶融温度である。式(1)の第3項より、領域1では、内部クラッド径rbの大きい方が表面積も大きく、排熱しやすいことが分かる。また式(2)の第3項より、領域2ではKoc≪Kicのとき、外部クラッドrcの薄い方が温度は上昇しにくいことが分かる。
下記➀及び➁に示す仕様の典型的なダブルクラッドシリカファイバーの領域1及び領域2における単位長さ当たりの最大熱体積Phmaxを、熱伝達関数Hの関数として、それぞれ図2に示す。

➀ コア径 30 μm、内部クラッド径 400 μm、外部クラッド径 550 μm
➁ コア径 200 μm、内部クラッド径 600 μm、外部クラッド径 800 μm

図2:コア径30 μm、200 μmのダブルクラッドシリカファイバーにおける熱伝達係数に対する熱負荷限界。(a)領域1における熱負荷限界、(b)領域2における熱負荷限界。

ここで、シリカガラスの溶融温度をTm~2000 K(1726.85°C)、外部温度をTs~293 K(19.85°C)、シリカ内部クラッドの熱伝導率をKic~1 W/(mK)、ポリマー外部クラッドの熱伝導率をKoc~0.1 W/(mK)とした。
自然空冷の場合の熱伝達係数をH~10 W/(m2K)[4]、水冷の場合の熱伝達係数をH~1000 W/(m2K)とした場合、コア径30 μmのダブルクラッドシリカファイバーの領域2に許される熱負荷は、それぞれPh~30 W/mとPh~1000 W/mとなる。しかし実際には、領域2における外部クラッドのポリマーコーティングの溶融温度Tdは150°Cであるため、熱負荷限界値は下がる。このことを熱負荷の上限とするとPhmaxは次式で示される[5]。

コーティングの溶融温度を考慮したコア径30 μm、200 μmのダブルクラッドファイバーにおける熱伝達係数に対する熱負荷限界を図3に示す。高出力レーザー用ファイバーは排熱処理が重要であり、水冷等により熱伝達係数を上げ、熱負荷限界値を上げる必要がある。

図3:外部クラッドのポリマーコーティングの溶融温度を考慮した、熱負荷限界コア径30 μm、200 μmのダブルクラッドシリカファイバーにおける熱伝達係数に対する熱負荷限界。

抽出可能なパワーの上限値

希土類添加ファイバーからの抽出可能なパワーの上限値は、量子欠損γを考慮すると次式で示される。

Ybファイバーレーザーの場合、Yb3+イオンのγh~0.1とすると、Pmax~10Phまで上げることができる。

Reference and Links

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