放射エネルギー(特に、光)の自然放出・吸収を発生する最も重要な機構は、束縛電荷―原子内に閉じ込められた電子―である。原子質量の大部分を占め正電荷をもつ原子核を、電子雲状に電子が取り囲んでいる。物質の光学的・化学的振る舞いを決定するのは、電子雲の最外部に存在する価電子である。価電子以外の電子は、原子核に強く束縛された閉殻構造を形成している。原子内部で発生していることの詳細を十分明確に理解しているとはいえないが、価電子の再配置に伴って光が放出・吸収されるのは確かである。この機構が、現実界の光の源である。

通常、原子は基底状態と呼ばれる最低エネルギー状態にある。基底状態では、原子内の各電子は許容される最低エネルギー準位を占めている。外乱がなければ、原子は基底状態のままである。原子にエネルギーを供給する機構―例えば、他の原子や電子・光子との衝突―が働くと、原子は基底状態から変化する。基底状態以外のより大きなエネルギーをもつ状態は励起状態と呼ばれ、各々確定した電子雲配置とエネルギーをもつ。励起状態は、本質的に不安定であり一時的な状態である。

低温時、多くの原子は基底状態にある。温度の上昇とともに、原子間衝突を介して多くの原子が励起される。これは比較的穏やかな励起過程であり、最外価電子のみが励起される。先ずは最外価電子の遷移のみを扱うが、この種遷移によって可視光や赤外光・紫外光の放出がおこる。

原子に十分なエネルギーが与えられると、電子は基底準位からより高エネルギー準位へ急速な遷移(量子飛躍)を行う(図)。原子が吸収するエネルギーは、基底準位と励起準位エネルギー差に等しい。各順位のエネルギーは厳格に決まっているために、原子が吸収するエネルギーは量子化(特有の値に限定)される。原子励起は短寿命の共鳴現象であり、短時間(10-8 sec~10-9 sec)のあいだに基底状態へと自発的に緩和する。緩和時の余剰エネルギーは、光放出または原子衝突を介した熱エネルギーとして消費される。

光放出を伴う原子遷移の場合、光子のエネルギーhvは遷移準位間のエネルギー差ΔEに等しい。ΔE= hvで決まる周波数νは共鳴周波数とよばれ、原子はその周波数の光を高効率で放出・吸収する。

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