31・2・1 基本原理

[1] ホログラフィーの歴史

ホログラフィーでは,干渉を利用してコヒーレントに照射された物体での反射や透過で生ずる光波を同じ光源から発した参照光と干渉させて写真記録し,記録された細かい干渉縞に光をあてたときに生ずる回折によってもとの光波を再生する.前者をホログラム記録(hologramrecording),後者を像再生(image reconstruction)と呼んでいる.Gaborによる最初の提案では,光源に水銀灯,物体にはスライドのような透過物体が用いられ,それからの散乱光が物体光,散乱せずに直進する光が参照光となった.これを同軸(in-line)配置という.しかし光源の強度と可干渉性が低いために,良い実験結果が得られず,あまり注目されなかった.また,共役像の重なりの欠点もあった(後述).

60年代に入り,LeithとUpatnieks(1962~4)はレーザーを使用し,それによって可能となった参照光と物体光の間に角度をつける軸外し(off-axis)配置を使って共役像の影響を除去し,拡散反射する3次元物体に対しても良好な結果を得た.これによりホログラフィーは画期的な発展をとげた.この場合のホログラムには物体波の振幅と位相とが,それぞれ干渉縞のコントラストと位相の形で記録されている.再生においては3次元物体からの反射波であっても,それを忠実に再現する波が回折されるので,通常の写真のように焦点状態が固定された像ではなく,視差を示し,かつ,どの深度にもレンズの焦点を合わせられる真の立体像が形成される.

[2] ホログラムの記録と像再生

図31・1に軸外しホログラムの記録用の光学系を示す.ホログラム面上での物体波と参照波の複素振幅をそれぞれ,U=Aexp(iφ),UR=ARexp(iφR)とすると,両者の間の干渉強度は次式で与えられる.

式31・1

現像定着後のホログラムの振幅透過率はT0,ηを定数として,

式31・2

と書くことができる.

図31・1

図31・2の再生光学系において,図(a)のようにホログラムを参照光だけで照射したときに,その背後に生ずる複素振l隔は次のようになる.

式31・3

右辺の第2項は参照光の強度が一定のときには定数項を除いて物体波と同じ形をしているので,ホログラムから先では物体波とまったく同じように空間を伝搬する.この波は直接波あるいは真の波と呼ばれ,それが結ぶ像は,ホログラムをのぞき窓としたその奥に3次元的に見え,虚像または直接像と呼ばれている.

図31・2

一方,式(31・3)の右辺第1項は直進する参照光と物体光の強度分布で変調された光を表していて0次光と呼ばれ,ホログラムで曲げられずに,直進光を中心にして広がる.また第3項は物体波面がホログラムに関して裏返されており共役放と呼ばれ,0次光の反対側に進み,直接像とは異なった位置に像を結ぶ.

もう一つの像再生法として図31・2(b)のように参照波を裏返した波でホログラムを裏から照射する.このときホログラムから生ずる波は,

式31・4

となり,右辺の第4項はホログラム上でもとの波面と裏返しになっていて,しかも逆進するので物体の位置に実像を結ぶ.ただし,観察される像はもとの物体に対して遠近が逆になっており,シュードスコピック(pseudoscopic)と呼ばれるものである.

式(31・4)の右辺の第1項は0次光となってほぼ直進し,第2項はその反対側に曲げられて,実像とは別の位置に像を結ぶことは,直接波の再生の場合と同じである.

[3] 再生波の分離

図31・3(a)に示すように,参照波と物体波が同軸になっている同軸配置1)では,式(31・3),式(31・4)の各項に対応する波が同じ方向に進むため,本来の再生波には0次光と共役光が重なって明l僚に像を観察できない.これに対して図31・1の軸外し配置では各成分が互いに横に分離されるので,良好な再生像が得られる.しかし同軸配置であっても,図(b)のように参照波と物体波を互いに逆方向から進ませてホログラムを記録し,参照光で再生すると,所望の波だけを再生することができる3).その理由は写真乳剤内に乾板面と平行に多層の干渉縞ができ,多層膜の各層で反射される多光束の間の干渉によって,物体波以外の波が抑制されるからである.

図31・3

この形のホログラムはデニシュウク型またはリップマン型ホログラムと呼ばれている.これを白色光で再生すると記録と同じ波長の像だけが再生される.

[4] 記録材料4)~7)

ホログラムの記録媒体には高解像度の銀塩乳剤,重クロム酸ゼラチン,フォトレジストを使った乾板が最も広く使われている.このうちで銀塩乳剤が最も高感度であるが,吸収の分布を利用しているので再生像は暗い.重クロム酸ゼラチンは屈折率分布として干渉縞強度を記録しているので最も明るく,低ノイズの再生像を与える.またフォトレジストは表面の凹凸として干渉縞を記録するためエンボス(型押し)による複製が容易である.問題点はいずれも湿式の現像定着処理が必要なことである.光硬化作用を使うフォトポリマーには,紫外線照射による重合の完了と加熱による屈折率変調の増大という乾式処理のものが開発されている.

記録と消去を繰り返せる可逆型の材料としては,光強度分布を電荷分布に変換したのち,静電力の分布によって加熱で軟化したプラスチックの厚みを変調するサーモプラスチックが早くから開発された.その消去には帯電させずに加熱する.また液品においては,光強度を光導電膜でまず電場強度に変換することにより分子配向をそろえて複屈折分布を与える.さらに光照射で誘起される電荷による電気光学効果を通して屈折率が変化するフォトリフラクティブ結晶(LiNbO2,Bi12SiO20,Bi12GeO20,Bi12TiO20など)ではホログラムの露光とほぼ同時に再生像が現れる.

図31・4に示すように,2光波混合と4光波混合の配置がある.ポンプ光は参照光,プローブ光は物体光にあたる.後者では逆向きの参照光を同時に加えているので共役像が実時間で現れ,位相共役波の発生(phase conjugation)と名づけられている.

図31・4

31・2・2 結像特性

無料ユーザー登録

続きを読むにはユーザー登録が必要です。
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
ログインパスワードをメールにてお送りします。 間違ったメールアドレスで登録された場合は、改めてご登録していただくかお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目